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第2話 賢者の塔


 育児はそう甘いものではない、と思う。実際何度か命の危機に見舞われたが、俺が大人の頭脳を持っていることもあって、なんとか喋れるまでに成長できた。

 女は、識別番号046番の改造人間だと言うので、シロと呼ぶことにした。


「あなたを何と呼べばいいでしょうか?」


 シロが、喋り出した俺に最初にした質問だ。命令されて育てているからとはいえ、子供自身に名前を付けさせるというのも奇妙な話だ。


「好きに呼んでくれていいよ」

「すみません、思いつきません。自発的な思考は苦手なのです」

「うーん……」


 すぐに思いついたのはヒロだ。呼ばれ慣れているし、苦い思い出もあるが、実は嫌いじゃない。


「ヒロなんてどう?」

「わかりました、ヒロ」


 ちなみに俺は黒髪の男児だが、容姿は前と全くの別人だ。

 これまでにシロから色んな話を聞いた。


「僕、何で言葉がわかるの?」

「生成過程で情報を入力しました。その中に言語知識も含まれています」


 生成過程というのも、俺はあの男が作った人造人間という存在だからだ。実感はわかない。以前の体との明確な違いといったものがない。


 入力した情報とやらをパッと思い浮かべることはできないが、きっかけがあれば自然と頭に浮かぶ。例えば、家に帰りたいと思ったとき、この世界に日本などという国は存在しないとわかった。ここは異世界だ。

 どうして俺が異世界にきたのかはわからないが、世界を移動する手段など見つかっていない、つまり日本に帰れないことはわかった。


 そう思い知ったとたん、家族の姿が心に浮かんできて、涙がにじんだ。シロは泣き止むまで静かに抱きしめてくれた。


 我ながら薄情と思うが、時間が経つほど向こうへ帰りたい気持ちは薄まり、この世界に興味が出てきた。だって異世界だ。そう思うとがぜん好奇心が湧いてくる。

 俺はシロを連れて探検をした。


「ここはどこ?」

「マスター、ダドゥ様の賢者の塔です」


 ここは円柱状の巨大な塔の中だった。階段での移動もできるが、階層毎に設置された特別な扉に目的階を入力すれば、どの階層へも扉をくぐるだけで一瞬で移動できるのには、最も驚かされた。これほどのものを作れるダドゥとは、いったい何者なんだろう。


 塔の外はといえば、どこの窓から見ても自然が広がるばかりで、町は見えない。


「町はどこ?」

「賢者の塔は異空間に隠されています。外がどうなっているかはダドゥ様しか知りません。もしかしたらすぐそこに町があるのかもしれませんね」


 わくわくする。聞けば聞くほど異世界ってとんでもないな。


 塔を歩いていると、他の改造人間を見かけた。自分の仕事をこなしていて、こちらに見向きもしない。その理由を考えると気分が落ち込む。成長した人間を捕まえて改造するから改造人間だ。人を処分しろと言ったり、ダドゥは近づきたくない相手だ。


 他に、ゴーレムというずんぐりむっくりした人形も働いていた。個体差はあるが、だいたい成人の腰丈ほどの大きさで、首のない丸っこい胴体に伸び縮みする腕と足を生やし、くりっとした二つの目をぱちくりさせている。愛嬌のある見た目だ。改造人間ほど細かな作業はできないが、全てを改造人間で賄うわけにもいかないらしい。

 頭をなでると嬉しそうに腕をパタパタした。この物言わぬ働き者についてもっと知りたい。この塔に保管されている書を漁って、勉強をしようと決心した。


 ゴーレムを作るには、材料とスキルが必要だ。材料は、ゴーレムのコアである赤い宝石と土と水で、この塔にいくらでもある。

 スキルとはコツのようなものだ。スキルがなければ材料を組み合わせても命が宿らない。ゴーレムを作り続ければいつかスキルを手に入れられるが、いつになるかは才能次第らしい。


 土に水を混ぜてコアを包むようにゴーレムを形作ると、一度で成功してしまった。この体の才能恐るべし。

 すると、そばで見守っていたシロに頭をなでられた。


「ヒロは凄いですね。よしよし」


 俺がゴーレムをなでた真似をしたのだろうか。


 二体目のゴーレムを作るのは一体目より困難なはずだが、またもや一度で成功してしまった。

 そしてその次も、さらに次も、どんどん成功していく。もうむしろ怖い。

 八体のゴーレムがひしめき合っていた。俺の命令だけに従う忠臣たちだ。


 通常のゴーレムは水の補給なしだと一日で崩れてしまう。でも、その間の記憶はコアに保存されているので、またそのコアで新たに作れば同じゴーレムとなる。


 ゴーレムに何らかの異物、例えばモンスターの一部を混ぜれば、より強力なゴーレムを作れたりもする。

 モンスターとは、この世界に息づく恐ろしい生き物のことらしい。まだ見たこともないので何とも言えないが、できれば見たくないな。

 ゴーレム作り、まだまだ工夫の余地がありそうだ。


 目のくらむような真新しさも次第に落ち着いていく。あっという間に五年の歳月が流れていた。



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