演出
「殺すぞ!」
いつもそう。いつもこれ。決まってる。本間に決まってるねん。
俺は知ってる。この横でナイフの刃先を相手の眉間あたりに突き付け、まるで般若のような形相で睨みつけてる幼馴染が本当は、スーパーヘタレで喧嘩も弱くメンタルも弱く頭も弱く、虚勢の塊でこの瞬間を演じてることを。
しかしながら、
俺は思う。少年の頃、不良は腕力であると。
俺は思う。青年の時、不良は演出であると。
そーいう意味では幼馴染の幹夫の演出は群を抜いていた。
もともと眉毛が薄く、目も細く、ありとあらゆるパーツが鋭利な刃物の先端であるかのようである。
ちなみに幹夫はトンデッパ(在日韓国人)。
生野区から小学校の頃に引越してきた。
「お前こんなんして・・・」
「殺すぞ!」
ガタイのいいB系兄ちゃんが反論するのを遮るように幹夫がカブせた。
「殺すぞ・・・」
俺も更にカブせた。
始まりは些細なこと。
三角公園の前にくそエロいおねえちゃんがいたから俺が声をかけた。
いい感じで話してるとこのガタイのいいB兄ちゃんが現れ、俺の友達になに声かけてんねん的な事を抜かし始めた。
軽く言い合いになり、こっち来いと俺が言った。
おそらく腕力に自信のあるBは羽織ってたスタジャンを脱ぎ、マッスルアピールして、のこのこついてきた。
そして今、三角公園から高架をこえて一本入った薄暗い、車がやたらと路駐されてる場所で到着するや否や幹夫がナイフを抜きカマシてるという訳である。本当に薄暗い場所で月明かりとナイフの刃だけが静かに光る。
「おいお前状況考えろや?無理やろ?」
そう言ってから俺もナイフを抜いてマッスルアピールしてる腹に刃先を突き付けた。