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白いカトレアの花言葉(旧題:白いカトレア)  作者: 由布 叶
第1章  幼少編
8/39

【8】   お裁縫をしよう

お気に入りに登録してくださった方、評価をしてくださった方、ありがとうございます! とても励みになります!


※一部修正しました。話の内容に支障はありません。(2014/08/30)

祖父…リュード

父…ジーク

母…シルヴィア

 私、今日ほど自分が冴えてると思ったことはないよ。

 さすが私って自画自賛したい気分だね。

 せっかく作るんだから色々と実験もしたいなー。試したいことはたくさんあるんだ。

 待っててね、リシュー。必ず最高傑作を作ってプレゼントするからね!

 お姉様は頑張るよ!


          ○●○


 現在、自室のベッドの上。また今年も熱を出したカトレア。

 念のためにと両親から安静にしていること、と厳命が下った。

 始めこそおとなしく横になっていたカトレア。しかし、発熱なんて毎年のことであるし年々容態はかるくなっている。

 言い方がおかしいかもしれないが、慣れた。

 カトレアにとってはこれくらい平熱の範囲である。

(体温計がないから正確な数字は分からないけど、多分三十七度強くらいかな?)

 前世の経験から予想する。

 多少身体は(だる)いがおとなしく寝ているほど酷いわけでもない。


 カトレアは暇を持て余していた。要するに退屈なのだ。

 こっそり抜け出すにも、密かに魔術の練習をするにも見張りがいるのでできない。

 さすがはカトレアの両親、娘の性格を解っている。

 目を離したら抜け出すことは予想されていた。何かあったらすぐに駆けつけられるように、という名目でリリアという侍女が常に扉の外で耳を澄ませて待機している。

 寝室の外で待機しているのはせめてもの温情か?

(多分大学生くらいじゃないかな?)

 一時間ほど前に昼食を運んできてくれたリリアの姿を思い浮かべる。

 際立った美しさこそないが、落ち着いたほのぼのとした雰囲気の女性だ。

(うーん、癒し系?)

 一言で表現するならそうだと思う。

(一番の癒しはリシューだけどね! リシューに癒されたい。リシューと遊びたいよー)

 最近のリシューは「あー」とか「うー」など声を発するようになった。

 一生懸命に赤ちゃん言葉を使って話す姿は正に天使である。何度悶え死にそうになったか知れない。死ぬ気はないけど。

 惜しいことに。本当に、心の底から惜しいことに古代語、神聖語を容易く習得したカトレアにも赤ちゃん語は理解できない。

(ぐぬぬ……解せぬ)

 もし、カトレアをこの世界に転生させた神様のような存在がいるのなら、一言物申したい。

 ここまで「異世界転生のご都合主義」が働いているのになぜ肝心なところで作用しないのか、と。

 小一時間ほど問い詰めたい気分である……一言では終わりそうになかった。

 無念すぎて唇から血が出そうだ。

 赤ちゃん語が理解できたなら、両親や姉兄より一足先にリシューと楽しく会話ができる。

(そして、あわよくば一番にカトレア姉様、と呼んでもらう!)

 誰も何も言わないが絶対に狙っている。カトレアには分かるのだ。なんせ自分もそうなのだから。


 きっと今頃はネフティリアとエヴァートンと子供部屋で遊んでいるのだろう。

 今日は二人とも学校は休みだ。

(私も混ざりたいよ。ううう……)

 リシューのために練習したなんちゃって操り人形の腕はかなり上達した。

 近頃はリシューがぬいぐるみを掴もうと手を伸ばすため、回避運動をよくとっている。

 おかげでさらに技に磨きがかかった気がするのはたぶん気のせいではないだろう。

 女の子のように愛らしい外見だがそこはやはり男の子。やんちゃなようだ。

(可愛いリシューに可愛い物を持たせたら相乗効果でもっとリシューが可愛くなる!? 凄い、私冴えてる!)

 世界の真理をみた、とばかりに驚くカトレア。冴えわたる己の(ひらめ)きに(おのの)く。

 もしもここに誰かが居てカトレアの考えを汲んだなら、カトレアの思考回路にこそ慄いたことだろう。

 もちろん「呆れ」とか「ドン引き」的な意味を多大に含んで。

 けれど幸か不幸か室内にはカトレア一人しか居なかった。

 思い立ったら即行動。どうせ暇のなのだ。


「リリアー。居るー?」

 扉に向かって呼びかける。

「はい。居りますがどうかなさいましたか?」

 直ぐ様、扉の外からややくぐもった声で返答があった。

「入って、入って。……あのね、ちょっと思いついたんだけど……」

 もはや「天啓か!?」と思えるほどに――――当然カトレアの思い込み――――素晴らしい思いつきを身振り手振りで説明する。

「ふむふむ。リシュー様と等身大のぬいぐるみ、ですか? カトレア様は天才ですね! ぜひ作りましょう。私も微力ながらお手伝いさせてください」

 ガシッ、と二人は握手を交わした。

「リリアなら解ってれるって信じてた! 私、あまりお裁縫ってやったことないから全面的にリリアに頼ることになるけどよろしく」

 リリアは裁縫が得意だ。それを知っていてカトレアはリリアに助力を頼んだ。

 後にも先にもぬいぐるみなんて作ったことはないけど、なにかできそうなきがする。根拠はない。気持ちは大切だ。

 

 あーでもない、こーでもない、と二人で意見を交わしリリアが案を書き起こす。

 その絵に満足すると、リリアは素早く必要な道具から材料までをあっという間に用意してくれた。

 欲しかった材料は一つも漏れることなく揃った。

 突然の事なのに、カトレアの望むものが全て揃うことに驚くべきか、この短時間でそれを成したリリアに驚くべきか……。

 たとえ、どちらであっても素晴らしい手腕である。脱帽ものだ。

(肌触りは重要だと思うんだ)

 カトレアが一番こだわったのは生地。

 もこもこの生地を使用。つい頬ずりしたくなる気持ちよさ。

 準備が整うと、リリアが「職人かっ!?」と目を疑うほどの鮮やかさで型をおこし、カトレアにはまだハサミは危ないからと流れるような動作でパーツごとに生地を裁つ。

「ほほ。昔小物を作るのに凝っていた時期がありまして……」

 とはリリアの談である。

 カトレアには、最早これは神業としか思えない。


 チクチク、縫い縫い、チクチク、縫い縫い……。

「リリア、これでいいかな?」

「どれどれ……はい、とてもお上手です。では次はこの部分と、こちらの部分を……そうです。印の所まで縫い合わせてください」

 リリアに教えてもらいながらパーツとパーツとを縫い合わせてゆく。


 この等身大のぬいぐるみを唯のぬいぐるみにするつもりは毛頭ない。色々と細工をしている。

 まず一つ。『浄化』の術式を組み、たとえ汚れてしまった場合も魔術が発動して自動できれいになるようにしてある。

 二つ目。『復元』の術式を組み込むことにより、もし壊れてしまっても魔術が発動し自動で壊れる前の状態に戻るようにしてある。

 そして三つ目。『固定』の術式を組み、これらの魔術を発動させるのに必要な魔力の供給を担う魔石を取り付けた。

 首元に付けたチョーカーの飾りとして絶対に外れないように、間違ってリシューが口に入れないようにしっかりと念入りに術を施した。

 まだ幾つか細工がしてあるが、それはカトレアのちょっとした遊び心なのでここはあえて割愛しよう。


「よし、こんなんでいいかな? ちょっと見てくれる?」

 最後にしっかり糸を結んでリリアに確認をしてもらう。

「はい。では少々拝借します――――はい、よろしいですわ。カトレア様は手先が器用ですね。とてもお上手です」

 くるくるとぬいぐるみを回してチェックをしたリリアから合格が出た。

「やったー!! 完成!」

 完成したばかりのリシューと等身大のウサギのぬいぐるみを掲げる。

 八割以上をリリアがやってくれたので、きれいにできたのは当然だ。カトレアは短い距離を縫っただけだ。

 それでも満足のいく出来のウサギのぬいぐるみについニヤけてしまう。

 生地はもこもこの生成り色で、目はリシューとお揃いの藍色にした。耳は垂れ耳にして可愛いさアップを(はか)ってみた。

 ウサギの口の部分はポケットのようにして、いつもカトレアが発熱するといつの間にか枕元に置いてある小石ほどの乳白色の粒を入れてある。お守りのつもりだ。

 そう、このお見舞いの品。一度も絶えることなくまだ続いていたのだ。

 今年で七つ目。律儀な姉兄であると感心するばかりだ。


(そうそう、首元を飾るチョーカーの留め具にある魔石は実は私のお手製なんだよねぇ)

 これも恒例となったお約束「異世界転生のご(以下略)」のおかげか、この年にして魔石――――もちろん魔力のみでできる純魔石の方ではなく宝石に魔力を入れて作る魔石の方――――を作ることができるようになった。わーい万歳。


 完成したならすぐにでもプレゼントしたくなるの心情だ。

「手伝ってくれてありがとう、リリア」

「どういたいまして。満足のいく出来のようで私も嬉しいです」

「うん。じゃ、早速プレゼントしに行ってくるね」

 ウサギのぬいぐるみを腕に抱いてベッドから降りる。

「カトレア様。どちらへお越しですか?」

 降りたタイミングでリリアが尋ねた。

「リシューの所までかな?」

 いい笑顔で答えるカトレア。

「いけません。部屋からでないで絶対安静だ、と旦那様と奥様から言いつけられていますでしょ? また明日になさいませ」

「気づかれたか……」

 ちぇっ、そのまま流れで気づかれずに部屋を出るつもりだったのに、とバレないように舌打ちする。意外と侮れないな、リリア。

 いそいそとベッドに戻り口を尖らせる。

「そんな顔したって駄目なことは駄目です。夕食を持って参りますから、少々お待ちください」

 使用した道具を片付けて、リリアが一度カトレアの夕食をとりに部屋を辞した。

気がつけばもうそんな時間だ。集中していたせいで気づかなかった。 

 仕方がないとウサギのぬいぐるみを枕元に置いて、カトレアはおとなしくリリアの戻りを待つことにした。

 不本意だが。




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