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白いカトレアの花言葉(旧題:白いカトレア)  作者: 由布 叶
第1章  幼少編
6/39

【6】   木陰にて、お勉強

遅くなりました。短めです。


※一部修正しました。話の内容に支障はありません。(2014/08/30)

祖父…リュード

父…ジーク

母…シルヴィア

 好きこそものの上手なれ、とはよく言ったものだよ。

 私の場合、正にそれだ!

 今日も今日とて魔術の練習に励んでいるのだけれど……。

「ぐぬぬ……。解せぬ、解せぬぞぉぉぉーー!」

 今現在、私の心境です。そう叫びたい気分なんです。


          ○●○


 ぽかぽかと暖かな日差しが降り注ぐ昼下がり。今日は絶好のお昼寝日和だ。

 それにも関わらず木陰で本の山に囲まれて難しい顔をしている子供が一人。

 カトレアだ。

 五歳になり、まだ年に一度の発熱はあるが何日も寝込むことはなくなった。体力がついてきたのかもしれない。

 カトレアがおもむろに突き出した手の平に水球が作られる。

 続けざまに土塊、風の玉、火の玉を作って……消す。

 無言で一連の動作を行い、口をへの字にしてうーんと唸る。


 魔術は地水火風の四つの属性があり、そこからさらに氷や雷とのような派生魔術が存在する。

 また、一度行ったことのある場所なら一瞬で移動することができる『転移』の魔術や、視覚等の撹乱(かくらん)を引き起こす魔術がある。

 これらは先の魔術に比べ術式が複雑で扱いが難しい。

 複雑で扱いが難しい魔術を安全に、確実に発動するためには魔力で魔法陣と呼ばれる陣を組み、いくつもの古代語を連ねて詠唱を唱える。

 難しい術を使おうとすれば当然詠唱は長くなり魔術発動までの時間は長くなる。詠唱をより短く、術式をより簡略化させることが魔術師たちの一生の目標である。


「ここまでなら無詠唱できるんだけど」

 手の平に作った水球を伸縮させながらカトレアは独りごちる。

 呪文や詠唱を行わず魔術を施行させることを無詠唱と呼ぶ。

 これはとても高度な技術で五歳児が易々とできるものではない……本来ならば。

 しかし、それを簡単にやってのけるカトレアはやはり才能があるのだろう。

(いや、才能と言うよりはご都合主義の恩恵だね)

 本人はそう自分を評価しているが。


 カトレアは悩んでいた。

「この四つだけなら無詠唱でできるんだよ」

 魔術の初歩とは言え、十分に凄いことだ。カトレアは知らないが、無詠唱など極一握りの者にしかできない。

 彼女の祖父、リュードでさえ呪文を唱えて魔術を発動する。

 しかし、カトレアの基準はあくまで前世の記憶の中にあるライトノベルや漫画、アニメにあった。

 ちなみにカトレアは、どちらかと言えば長く詠唱を唱えるより無言で指を鳴らすだけとか、踵を鳴らすだけで魔術を使える方がかっこいいと思う派だ。


『我は世界の(ことわり)を紐解く者ぞ。天の恵みの雫は夜の闇と北風の吐息で氷塊となる』


 カトレアが古代語で呪文を詠唱すると冷気が漂いピシピシと水の凍る音がして氷の塊ができた。

「……恥ずかしっ!」

 うわー、と顔を覆って赤面する。

「魔術が使えるのは嬉しいけど、詠唱が恥ずかしすぎる。一人称が我……。これはもしかしなくても中二病……?」

 パタパタ、と手で顔を扇ぐ。

(五歳にして中二病を患うとか勘弁して。何年早いと思ってるの……ってわざわざ患いたいわけじゃないけどさ)

 痛い、痛すぎる。真面目な場面でこれはできない。カトレアだったら絶対に途中で笑ってしまう。

 リュード一人の前でやるのですら恥ずかしいのだ。

 しかし、カトレアのその定義で言うと、この世界の魔術師は(みんな)中二病ということになる。

 下は子供から上はお年寄りまで。厳つい顔のおっさんや色気ある美女まで(みんな)(みんな)中二病。なにそれこわい。

「よもや魔術の勉強を苦痛に思う日がこようとは……解せぬ」

 ぐぬぬ、と再び口をへの字にして難しい顔をする。

 

 今日だって、リュードが用事があるというのをいいことに自習にしてもらい図書室の本を持ってあまり人が近づかない所まで逃げてきたのだ。

 せめて呪文を唱えるだけで魔術が発動できるようになりたい。切実に。

 それには反復練習が一番効果的だと本に書いてあった。

 個人で得手不得手はあるが、詠唱をして魔術が発動できるなら可能性はある。

 

 カトレアがこれ程までに回避したい詠唱。ならばリュードが唱えるのはいいのかと問われれば答えは「是」である。

「お祖父様は外見が魔法使いっぽいから何ら問題はないのだよ。あれに片眼鏡(モノクル)とか長くて真っ白な口髭とか三角のトンガリ帽子を被ったらもっといいんだけどね」

 トンガリ帽子に続き魔法使いの必須アイテムと言えばローブやマントだ。あれがあると途端に雰囲気が増す気がする。何が? もちろん魔法使いの雰囲気だ。

 まあ、自分で着る気はないのだが。


 閑話休題(それはさておき)


 今は無詠唱の練習中である。

 幸いカトレアは良い目を持っている。魔力の流れが視えるのだ。

 魔力を視覚でとらえることができると術を発動する時に魔力の動きを知る事ができる。

 もちろんこれはカトレアだけの特権ではない。多くはないが魔力の流れを視ることのできる魔術師はいる。だが、魔術師の大半は魔力を視覚でとらえることはできない。彼らは感覚で魔力をとらえ、術を発動する。

 カトレアにとっては視えることが当たり前だったので知った時は驚いた。と、同時に羨ましくも思った。

(視るよりも感覚で魔力をとらえるっていう方がかっこいい! 職人の勘みたいで)

 などと言うどうでもいい理由で。

 自分も感覚で魔力をとられることができないかと目を閉じたまま術を発動してみたり練習をした。

 結論。視た方が速い。

 感覚ではどうしても曖昧でわかり難い。リュード曰く、これは経験に左右されるところが大きいそうだ。今のカトレアでは経験値が足りないのかそうなのか。

 カトレアには魔力は色が付いて視える。着色されてこれほどに分かりやすくなっているのだから無理に感覚に頼る必要はない。

 たとえいくらかっこよくても、だ。

 

 世界は魔力に満ちていて様々な色に溢れている。

 カトレアが少し「視る」ことに集中するとたちまち世界は色付く。

 いつも視えているわけではない。常に視えていたら目が疲れてしまう。それにこの世界は小さな虫から植物に至るまで、命ある全てが微量でも魔力を宿している。

 そのため、視える状態で多くの人が行きかう町をちょっと歩いただけで目を回してしまうこともある。魔力の流れを視ることのできる人特有の症状だ。

 ついでに言えば感覚が敏感な魔術師の中には魔力に酔ってしまう人もいるらしい。

 これで常に魔力の流れが視えていたら目を回すだけでは済まないだろう。

 

 何度も何度も術を使って魔力の流れを視て、効率よく魔力を使う(すべ)を身体で覚えるのだ。

 例えば、1+1=2である。

 この時、まだ計算を習い始めた子どもは最初から計算をして答えを出すだろう。けれど、何度も同じ計算をくり返せば1+1=2であることは計算せずとも知って(・・・)いる。

 同様に、10+10=20であることも25×4=100であることも覚えてしまえば計算なんて不要だ。

 無詠唱とは、要するにそういうことなのだ。

 反復練習が最も効果的だということも頷ける。

 カトレアは何度も何度も練習を繰り返した。自分が恥ずかしいと言っていた詠唱を何度も何度も繰り返す事態になっているという本末転倒なことになっていることにも気付かずに……。

 残念ながらそれを指摘してくれる人はここにはいない。

 まあ、カトレアはそれだけ必死だったということで。



 余談だが、シゼリウス家の教育方針の元、姉兄は古代語を習得しなければいけない。 

 が、魔術師として「カーメルセ」の家位をいただくことも多々あるシゼリウス家では古代語は日常で使う文字が書けるのと同じくらいに重要だということで、たとえ兄弟に魔術師が居なくても覚えなくてはいけない。まさかの必修科目宣言だった。

 従って、ネフティリアもエヴァートンも改めて習い始めなければいけないものではなかったようだ。

 しかし、カトレアには神聖語の習得が待っていた。そう、まだ赤ちゃんだったカトレアを散々苦しめた (?) あの謎言語だ。

 けれど現実は、戦々恐々としていたカトレアの予想をいい意味で裏切った。これもご都合主義の恩恵か、はたまた幼児の頭は柔軟で知識の吸収が早いのか、あっという間に習得することができたありがとうござます。

 今ではネフティリアの言っていることも理解できるし神聖語で書かれた文章も難なく読める。

 前世、英語には悪戦苦闘していた記憶があるのでこれには心底ホッとしたカトレアだった。




ついこの間三月が終わったと思ったんですけど。なぜもう四月も終わりが近いんでしょう? 時間泥棒でしょうか?

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