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白いカトレアの花言葉(旧題:白いカトレア)  作者: 由布 叶
第1章  幼少編
5/39

【5】   シゼリウス家の教育方針

長くなりました。 

そして、説明しかない。


※一部修正しました。話の内容に支障はありません。(2014/08/30)

祖父…リュード

父…ジーク

母…シルヴィア

 あれ? おかしいな……。

 また一つ年をとった……あ、間違えた。成長したカトレアです。

 三歳の時に体力をつけるために始めた走り込み。

 なぜかお兄様と一緒に剣術の稽古をする羽目になりました。

「やる気があっていいことだ。よし、ならば剣の稽古をやるか!」

 というお父様のお言葉のもと日々お稽古に励んでおります!

 ん?


          ○●○


 敷地の隅にある広くない訓練場でカトレアは黙々と模擬剣を振っている。

 三歳から体力をつけるために始めて、ようやく先日型を一通り教えてもらった。

 身体が暖まったらその練習もしなくては。

 型通りにやって実践ではどれ程の役に立つのか? 

 それでも基本は大事だとカトレアは与えられた課題をこなす。


 今、シゼリウス家の恐ろしい教育方針を己の身をもって体験している最中だ。

 その教育方針とは「知識は(つるぎ)よりも鋭く、情報は拳よりも強靭である」というもの。

 一つの事をより深く極めることも大切だが、浅くてもいいから知識を広く持て、ということだ。

 最低でも兄弟たちが持っている知識は共有できるように、と。

(身体動かすのは好きじゃないのにー)

 愚痴るカトレア。彼女は今も昔もインドア派だ。だがしかし! いや、それ故に? 妄そ……いや、想像力は豊かであると自負している。

 

 姉のネフティリアが聖女であるため、法術に関する基礎知識と法術で使われる「神聖語」を覚えなくてはいけない。

 これはもちろんエヴァートンも同様である。

 この神聖語は魔術で言うところの古代語にあたる。神聖語もまた力のある言葉なのだ。

 ネフティリアは協会の一角にある学校に就学しており日々勉学に励みながら週に一回、実地訓練を、と言うことで先輩の聖人、聖女の方に付いて聖女としての訓練を始めている。

 ちなみに、協会にある学校には主に近隣の子どもたちは当然の事、ネフティリアの他にも未来の聖人、聖女が就学している。

 わざわざ、集めて育てているのだから当然と言えば当然だ。

 

 次に、兄であるエヴァートンは騎士を目指しているからそれに(なら)い、何か一つは得物を扱えなくてはならない。

 とりあえず、運動神経は人並みにあるようなので安心した。

 今年で八歳になったエヴァートンだか、カトレアが素人目に見ても彼の実力は高いのだと思われる。

 同年代の比較対象が居ないため何とも言い難いが父も褒めていたので少なくとも八歳にしては一歩抜きんでているとカトレアは予想している。

(まあ、私のお兄様だし。才能だけは豊かな家系だし、お父様の子どもだし当然だよね)

 自慢の兄である。

 騎士になるには当然ながら試験があるのだがエヴァートンならば余裕で受かりそうだ。

 

 そして、カトレアは魔術師になりたいと思っている。いや、むしろそれ以外は受け付けない。

 幸い、ご都合主義のおかげか魔力の量はけっこう多い。

 なんと、魔力量を(はか)る魔具が祖父の住む離れにあるのだ。

(内緒だって言ってお祖父様が触らせてくれたんだよね)

 (こぶし)一つ分の水晶のような魔具は触れた者の魔力量を明度で表すことができる。

 カトレアが測定してもらった時は眩しいくらいに光っていた。

 また発熱してやっと熱が下がった翌日にリュードが頑張ったご褒美に内緒で、と特別に触らせてくれたのだ。 

 しかし、幼い間は魔力が安定しないので正確に量ることはできない。

 魔力を量る魔具はきれいな球体で、カトレアにはそれがテレビとかでよく見た占い師がよく持ってるアレにしか見えなかった。

(敷物が紫色のミニ座布団(ざぶとん)とか、私の偏見を忠実に再現したようなものだよ。でもこの世界に座布団はないんだろうなー)


 ちなみに、この魔具は普通個人で所有できるような代物ではない。

 ならばなぜあるのかと言うとリュードが知人の作った失敗作を譲り受けたからだ。

 失敗作なので少々性能は劣るが魔力を量るだけだ。充分である。

(これ、作れるんだ)

 「魔具」であるのだから、製作者がいるのは当然なのだがこんなものを作っている所が想像できないのも事実なのだ。

(漫画とか小説だとこういうのって、既にそう在る物で作るものじゃないもんね。いつか魔具の製作現場を見学したいな)


 そして古代語であるが、それは難なく読めるし練習したので書くこともできる。当然日常で使われている文字だって余裕で書ける。

 両親はカトレアがすでに読み書きが習得済みであることを知ると早速家庭教師について学べるように手配をした。行動がとても速い。カトレアとしては万々歳だけれど。

 

 余談だが、カトレアが読み書きができることを最初に知ったカナは驚かなかった。さすがは旦那様と奥様の子だ、と感心したくらいだった。

 むしろ、驚かれないことにカトレアが驚いた。

(三歳で読み書きができることは普通なのかな? しっかりと教えてもらったことないけどいいのか?)

 報告を受けた両親に至っては「カトレアも君に似て賢いな」「あら、あなたに似て賢いのよ」と、二人の世界に入ってしまった。

 それに対してカトレアは、遠い目をして両親の仲が良好なのはいいことだと思うことにしてその場を離れた。決して逃げたのではない。


「あ、そろそろ時間だ」

 覚えたばかりの型を一通りやり終えると、丁度終了の時間だった。

 稽古の時間は一時間。張り切り過ぎて身体に負担がかっては意味がないとジークが決めたのだ。

「お兄様ー。時間がきたから先に戻るねー」

「あぁ、次はお祖父様のとこだっけ?遅れないようにね」

「はーい、お兄様」

 時間きっちりに稽古を切り上げたカトレアは同じく稽古をしていたエヴァートンに一言掛けて屋敷に引き上げた。


 エヴァートンはカトレアの声に一度模擬剣を下ろして返事をした。

 パタパタと走り去る、剣の稽古をしていた時より嬉しそうな背中を見送り再び自主稽古を再開するのだった。



          ◇◆◇



 一時間の稽古の時間が終われば待ちに待った魔術の時間だ。

 軽く汗を流してリュードの住まう離れに急ぐ。

 もっと幼い頃は離れをずっと遠く感じたが今では単なるご近所、だ。リュードがカトレアたちの暮らす本邸を訪れる時は特別なお客さんが来るような感覚だった。


「カトレア、丁度いい所に来たの」

「お祖父様!」

 離れに行く途中で呼び止められた。

「どうしたの?」

「今日は外でやろう。いつも部屋の中でやっていては詰まらんじゃろ」

 そう言ってカトレアの手を引き歩き出す。

「お祖父様、どこ行くの?」

「ふむ。カトレアはどこか行きたい所はあるかね?」

 聞き返された。

(お祖父様、質問に質問で返されると困るんだよ。でも、ここはちびっ子らしく無邪気を装って……)

 ……などと考える時点でカトレアに無邪気さなどないのだろう。

「うーん……中庭の噴水!」

「よしよし、今日はそこで勉強をしような」

「うん!」

 

 季節により様々な顔を見せる中庭の中心にある少し開けた場所。

 周りを低木に囲まれた真ん中にお目当ての噴水がある。陽の光を浴びて水飛沫がキラキラと輝いている。

 噴き上がり、落ちた水はゆるゆると螺旋を描き中央に集まる。そして『上昇』と『放出』それと『ろ過』の術式が彫り込まれている筒状の柱から再び外に噴出されるのだ。

「カトレアはここが好きじゃな」

 繋いでいない方の手でカトレアの頭を撫でる。

「うん。きれいだから好き」

 水が通る中央の円柱には三つの術式が細かく正確に彫り込まれている。

 実はこれ、ただ彫り込まれているのではない。

 一見彫刻かと思ってしまうほどに精緻かつ緻密。そこには計算された美しさがあるのだ。

「そうか、そうか。ならば今日はさっそく勉強を始めようか」

 これ以上は無理だと言うほど目尻を下げてリュードは頷く。

「はーい、お祖父様」

「では、四歳児にはやや早いがカトレアは賢いから何ら問題あるまい」

 カトレアは可愛い上に(さか)しいからのぉ、と親バカならぬ孫バカな台詞を吐く。

 普段なら赤面ものの台詞であるが魔術の前には(かすみ)(ごと)し。些細なことと片付けられる。

「魔術学の基礎はもういいじゃろ。魔術だって剣の稽古と同じじゃ。実際にやってみなければの。ほうれ、最初は噴水の水を使おうかの」

「水の魔術?」

「うむ。どれ、実際にやってみようか。よく見ておれよカトレア」

天恵(てんけい)たる水』

 リュードが手の平を上に向けて古代語で呪文を唱える。

「おぉ!」

 すると噴水の水が見えない何かに吸い寄せられるように祖父の手の平へ集まっていく。

 そうして見ている内に野球ボールほどの球体が出来上がった。

「すごいすごい!水の塊が浮いてる」

 表面を指で突くと波紋が広がった。

 リュードが魔術を使うところを何度か見たことがあるが、何度見ても魔術はすごいとカトレアは感嘆の声を上げる。

「でも、お祖父様。いつも見せてくれる魔術よりもなんだか小さいね?」

「これは水魔術の基礎じゃ。ここから徐々に難しくなってゆくのじゃよ。そしてこれが……」

 パシャリ、と音を立てて水球が崩れた。

(いにしえ)の大地』

 リュードが再び呪文を唱えると地面が盛り上がり、先ほどの水球と同じ大きさの土塊が出来た。

「地の魔術」

悠久(ゆうきゅう)の風』

 土塊は砕けて祖父の手の平の上で空気が螺旋を描き幾重にも重なり球体を作った。

 カトレアがそう認識できるのは魔力の流れを無意識に感じ取っていることと、少しだけ砂塵が混じり舞っているからだ。

『原始の火』

 砂塵は散って火球が現れた。

「おぉおおおぉ!」

 次々と姿を変え、形を変える魔術にカトレアは目が釘付けだ。

「魔術はイメージが大切じゃ。頭の中でしっかりとイメージを固めてから呪文を唱えるのじゃ。イメージが曖昧で中途半端に魔術を施行しようとすれば……」

 ぼふん。火球が霧散した。

「不発に終わるか、最悪暴走する。自身の発動した魔術が失敗し暴走に巻き込まれて命を落とした者もおる。十分に気をつけなさい」

「はい、お祖父様」

 大きな力を扱分失敗した時の代償も大きいのだ。

「さて、カトレア。わしが唱えた古代語は理解できておるな? やってみなさい。習うより慣れろ、じゃ」

「はーい!」

 元気よく返事をし、先ほどリュードが実演してくれた魔術を思い出しながらカトレアは古代語を唱える。

『天恵たる水』

 カトレアの小さな手の平に野球ボールほどの球体が出来上がった。

『古の大地』

 地面が盛り上がり土塊を作る。

『悠久の風』

 幾重にも重なった風が螺旋を描き球体を形作る。そして最後。

『原始の火』

 ぼっ、とロウソクくらいの火が燈った。小さい。

 カトレアがさらに魔力を注いでやれば火は形を変え火の玉になった。

「ほぉ、魔力調節をやるか。誰に教わることもなく感覚だけでやるとは……カトレアは実に賢しいのぉ」

 眉が下がりまくりである。

(うわあああああ!魔術だよ。魔法だよ。私が魔術を使ってる!)

 カトレアはテンションが上がりまくりである。

「出来た!出来たよ、お祖父様」

 火を振り回しては危ないと振り向き様に手の平の火球を握り潰す。

「……術の処理までも無意識に……。カトレアはすごいのぉ。一を教えれば十を悟る。もう才能がるのではなくて、才能しかないわい。才能の塊じゃ!天才じゃ!才女じゃ!」

 カトレアを褒めちぎる。

「お祖父様、落ち着いて。お祖父様の教え方が上手いから私は出来たんだよ」

 リュードのあまりの褒めぶりにカトレアは逆に冷静になった。

「なんと!才能を鼻にかけるどころかわしに気を使って……。カトレアはできた子じゃ」

 どうやらリュードはカトレアの事となると若干暴走気味になるようだ。

 褒められるとのびる、と言うけれど自分は違うのだなと頭の片隅でカトレアは冷静に自分を分析する。

 これは決して現実逃避ではない。


「お祖父様、次は何をするの?」

 放っておいたら貴重な魔術の勉強の時間がなくなってしまいそうで、カトレアは多少強引でも話を進めようとリュードに尋ねた。

「うん? ああ、そうじゃな。魔力が枯渇すればどうなる?」

「魔力は生命力そのものだから、無くなれば死んでしまうんだよね?」

 この世界は恐ろしいことに魔力がなくなると死ぬのだ。

「では、逆に多ければ?」

「その分、寿命は延びる、かな?」

 魔力の量はそのまま寿命となる。

「ふむ。では魔術が枯渇しそうになった場合やってはいけないことは?」

「魔力を分け与える事」

「なぜ?」

「魔力には相性があって、合わない魔力を与えると死んでしまうから、だよね?」

 輸血と同じだったはずだとカトレアは記憶している。ただ、輸血ほど許容範囲が広くない。

 魔力の相性は合うか合わないかの二択だ。

「正解じゃ。よく学んでおるな。魔力の相性は親子や兄弟姉妹(きょうだい)ならば合い易いと言われるが絶対とは言い切れん」

 そういう状況にならぬのが一番じゃ、とリュードは付け足した。

「カトレアは魔力量が多いようだからの。枯渇することはそうそうありはせんじゃろ。じゃが、自分の限界を知るのも必要じゃ。とは言えまだカトレアは幼いからの。魔力が安定せんうちは限界もわからんじゃろな。とにかく無理はせんことじゃの」

 と言うわけで本日はここまで、そう言ってリュードは手を叩いた。

 まだまだやりたいカトレアは大変不満であるが、まだ身体が幼いせいだということも知っている。

 魔術の連続使用は身体に負担なのだろう。剣の稽古と同じだ。

「はーい」

 ちょっとふて腐れ気味に返事をしたのがバレたのかリュードに苦笑された。

 孫に甘い祖父は仕方がないと言いつつ、嬉しそうに日が暮れるまで講義だけならばと色々カトレアに教えてくれたのだった。




カトレアの残念度がさらに上がっている気がします。

残念主人公に残念祖父。残念率の高い小説になりそうです…(涙)

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