【20】 学園生活二年目9
もはや設定が思い出せないです…。
リズがカトレアに気づき手を振った。
人混みに揉まれながらもたどり着いたカトレアにユリアと二人でホッとした表情を見せる。
「無事に合流できてよかったわ」
「そうだね、ちょっと集合場所を間違えた気がするね」
「昨年はずっと一緒でしたものね」
そう、昨年は三人で行動していたので集合の必要もなく、ゼリムやロイドともまだ再会していなかった。
そのため待ち合わせ場所なんて考えなくてよかった。
しかし、学年が上がり今年は各科等で役割があったりして終始一緒に居ることができなくなった。
そのため分かりやすい所に集まろうということになったのだが、まさかこんなにも大変だとは思わなかった。
「あとはゼリムと合流できればいいんだけど…」
見つかるだろうか?
改めて周りを見回して三人とも無言になる。きっと思ったことは同じだ。
すぅーと覚えのある魔力が近づいて来るのを感じてカトレアが振り返る。
それは人混みの上を滑るように飛来した。
ゼリムによる伝達魔法である。鳥の姿をしたそれは1度カトレアの頭上で旋回した後、伸ばした手に止まり手紙へと姿を変えた。
「どなたからですの?」
「ゼリムから。えっと…もう会場内に居るみたい。それで、場所取りしてくれてるって」
今からゼリムを探して合流し、席を探すとなると大変だ。
それなら先に着いたのであろうゼリムが場所取りをしておいてくれたのはとてもありがたい。さすが、機転が利く。
「あら、それなら行きましょう」
『帰還』
差出人の元へ戻るように伝達魔法に魔力を込め直す。
これを道案内として迷うことなくゼリムの元へと行くのだ。
途中飲み物を4人分購入し、屋外と負けず劣らず混み合う場内を歩く。
すり鉢状になっている会場の中心では名も知らぬ生徒による試合が行われている。歓声と野次で叫ぶように話さなければ会話もできない。
ジャンとルールー・ルッカの試合がまだ終わっていないことを祈る。
唐突に、ワッという歓声と落胆の声が場内に響き渡る。どうやら試合が終わったらしい。
勝ったのはメイスを持った男子生徒だ。
(うーん、なんだかどこかで見たことあるような? ないような?)
男子生徒の顔に見覚えはないが、得物の方は遥か彼方の記憶に引っ掛かるような気がして首を傾げるカトレア。
(思い出せなくてちょっとモヤモヤする。授業で見かけたのかな~?)
パーティーを組んでの課外活動なら学年関係なく合同で行われるのでそこで見かけたのかもしれない。
大事なことならそのうち思い出すだろうと伝達魔法の鳥を追うことに集中する。
器用に観客の間を縫うように飛ぶ鳥を追うのはなかなかに骨がおれる。はぐれないように3人で手を繋いで通路を進んでいるが、同じく移動で通路を歩く人や飲食物を販売する売り子もいるのでけっこう大変なのだ。
しばらく歩くと鳥が小さく旋回しホバリングをしてから差し出された手に止まり光の粒になって消えた。
手の主はもちろんゼリムでカトレアたちに気づくとココだと言うように手を振る。
何か言っているようだが、生憎周りの喧騒のせいで聞こえない。
「お待たせ、ありがとう」
「ありがとうございます」
「ありがと」
「おー、来た来た。こんだけ人が多いだろ?落ち合うのも大変だと思って先に場所取りしといた。カトレアが居れば連絡取り合うのは簡単だしな」
大きな声を出せばなんとか聞こえる所まで来て、ゼリムが確保しておいてくれた席に腰を下ろす。
前後二席で、前にゼリムとカトレア、後にリズとユリアが座った。
買っておいた飲み物をゼリムに渡し、やっと一息つけた。
「間に合って良かったな。まだジャンさんもルールーさんも勝ち進んでるよ」
先輩二人の勇姿を見逃さずにすんだようだ。
「さっきの試合見たか?スゴかったな!」
興奮しているのか、場の空気にあてられたのか、頬を少し赤くして話す様子はカトレアから見たらとても可愛い。
同年代の彼に思うことではないだろうが、先の生と合わせたらかるく20歳を超えるのでその為だろうか。
「去年も参加してた選手なんだけど大きいメイスを振り回してさっ、相手が近づけないんだよ。体格がいいとああいうこともできるんだよな~、羨ましいな~。俺も早く大きくなりたい」
年下の女の子であるカトレアとほぼ変わらない身長のゼリム。
可能性はゼロではないが道のりは長い。
「ところでゼリムはここに来る前は他の科を見てきたでしょう? どこか面白い所あった?」
「そうだな…色々回ったけどやっぱり作る科が一番だな!よく分からなくて面白かった」
「よく分からない、とは?」
とても良い笑顔で答えるゼリムに困惑するカトレア。頭上には見えない疑問符が乱立している。
「うーん、たくさんの種類の机が並べられていたり。あ、イスもあった。穴の開いた小さいガラスの粒が売られてたりもした。何に使うんだ? あと、使いどころの分からない剣帯があった。あれは派手すぎて逆に邪魔になるだろう」
さすが作る科だ。彼らの作る物は多岐にわたる。どんなに怪しいものができても作る科だからで納得されている節がある。
何の意味も成さない物から世紀の大発明まで様々な物が生み出されるのが作る科である。
「悪食も美食も作ってるけどね」
謎肉怖いよね、と笑いあう。
談笑している間に準備が整ったのか次の試合が始まるようだ。
「あ、ルールーさんだ!」
「対戦相手は?」
いかにもなローブを纏った魔術師だ。
今にも折れそうなほどの細身の男性である。後ろ姿なので顔は見えない。どのような外見であっても今あそこに立っているということは実力は言わずもがなである。
カトレア達の座る席からははっきりと顔は見えないがルールー・ルッカは余裕そうな、もしくは期待に満ちた表情をしていると容易に予想できる。
「ルールーさんて勢いで押しきろうとするところがあるからな」
「……」
無言で頷くカトレア。
彼女は少々好戦的なきらいがある。
両者が向かい合い、簡単なルール説明の後審判の手が振り下ろされ試合が始まった。
距離をとろうと後ろへ下がる相手に対し、ルールーは逆に追いかけるように前へ出た。
準備していたのだろう、手を伸ばし火炎を放つ。「先手必勝!」そう言っていそうだ。
試合開始前の攻撃は当然違反だが、詠唱までなら許される。魔方陣の展開も同様だがどちらも高等技術である。
が、相手もさすがで障壁を張り難なく火炎を防いで見せた。火の粉が消え散るより速く反撃がルールー・ルッカを襲う。
剣先を模した鋭い氷の塊がいくつも飛んでいく。下から巻き上げるように炎の壁が立ち上がり飛来した氷塊を瞬く間に蒸発させる。
「おぉぅ、ダ、ダイナミック…」
「すげぇなルールーさん」
「楽しんでる気もするけどね」
「あー…ありえる」
炎の壁が消える際、霧散した赤い火の粉が舞い散る花弁のようでとても綺麗だ。その余韻を楽しむ暇もなく、今度は地面が盛り上がり大きな刺が生えたような連なりが迫り行く。
すぐに張った障壁を破壊し、眼前まで迫ったそれを慌てることなく冷静に同じ術で返した。強気な対応だ。
ぶつかり合った術同士は破壊され砕け散る。砕け散った後ろから再度同じ術が駆け抜けていく。
それを今度は相手が同様の術で迎え撃つ。そして誰もが予想した通りぶつかり合い砕け散った。
魔術師同士の試合らしく魔術が飛び交う光景に観客は大喜びだ。
ルールー・ルッカが手元に魔力を集め出したのをカトレアは素早く認識する。
この距離では見ることはできないが魔力の流れを「視る」ことはできる。
それは徐々に大きくなり渦巻いて、ルールー・ルッカの手を離れた時には大きな竜巻となり会場の砂を巻き上げ砂嵐を作り出した。
相手は身を守るために半球体のドームを作るも荒れ狂う竜巻の前に呆気なく崩されてしまう。
その破片を巻き込み砂嵐は勢いよく会場を暴れまわる。観客席まで被害が来ないようにと張られた障壁すらも軋んでいるような錯覚を受ける。
砂埃で視界が悪く審判の姿も見えない。
「今どうなってるんだ?」
「うーん、ルールーさんの居ると思われる所にかなり大きな魔力が視えるね」
こういう時に魔力が視えると便利だ。
その魔力はぐんぐん膨れ上がり…爆発した。
(爆発した!?)
轟音と衝撃波は完全に抑えきれず観客席まで伝わってきた。
「「きゃっ!」」
前の席に座る2人から可愛らしい悲鳴が聞こえた…気がする。轟音でかき消されて何も聞こえず、彼女たちの動作から予測しただけだ。
砂色だった障壁の向こうは一瞬で炎の赤に塗り変わった。
うねるように、全てを呑み込むように燃え上がる。
控えていた教師陣が対処を始めたのかしばらくすると視界が晴れて会場の全貌が分かるようになってきた。
先に見えたのが対戦相手の生徒だ。
端の方、壁際でうつ伏せになり動かない。近づいた教師の一人が声をかける反応もなくどうやら気を失っているようだ。
そうしている間に、反対側では同じようにルールー・ルッカが壁際でぐったりとしている姿が見えた。
「ルールーさん!」
思わず立ち上がるカトレア。
先程と同じく教師が一人意識の有無を確かめるが、どうやらこちらも意識がないようだ。
両方の結果からこの試合は引き分けとなった。
「ルールーさん大丈夫かな」
「かなり大きな魔術だったな」
不安になるカトレアと感心するゼリム。
「すごい音と衝撃だったわ」
「あれほどに迫力のある魔術をこれほど間近で見たのは初めてですわ」
少しの怯えと感嘆の声をもらすリズとユリア。
「私心配だからルールーさんの様子見てくる」
優秀な治癒師が居るだろうが、あれだけ派手な術を行使したので心配だ。
「うん、分かった。頼んだ。カトレアが戻る前にジャンさんの試合があったらしっかり見とく」
「よろしく、行ってくるね。ユリア、リズ、少しルールーさんの様子見てくる」
前の席に座る2人にも声をかける。
「ええ、分かりましたわ。最後すごかったですものね」
「ええ、すごかったわ。そうね、意識がないのは心配だものね」
珍しく2人も興奮気味だ。
行ってくるね、と席を立ち医務室のある通路へと向かう。




