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白いカトレアの花言葉(旧題:白いカトレア)  作者: 由布 叶
第1章  幼少編
3/39

【3】   睡眠学習?

説明が多くて長くなってしまいました。


※一部修正しました。話の内容に支障はありません。(2014/08/30)

祖父…リュード

父…ジーク

母…シルヴィア

※魔石の説明と法石の説明の一部、終わり部分の一部を修正しました。

 設定がやや変わっています。(2016/02/21)


 えーえー。テステス。

 ただ今勉強中のお兄様の話に聞き耳をたてております。

 しぃー! 大きい声は厳禁だから。バレちゃダメなんだよ。

 実況は心の中でならすらすら喋れる二歳児、カトレアちゃんがお送りします……あれ? 私痛い人?


         ○●○


 今日も今日とて子供部屋にある専用ベッドで至福のお昼寝をしていたカトレア。夢と(うつつ)の間をしばらくさ迷っていたが、馴染みのある声に目を開けた。


 ふぁー、と大きく欠伸をして、次いでぐぐっと伸びもする。

 くるりと身体を反転させてうつ伏せになり、そっと首を巡らせればエヴァートンが家庭教師に師事(し じ)している姿が目に入った。

 まだあちらはカトレアが起きたことに気付いていない。

 二十代半ばとおぼしき青年が穏やかに講義をしていた。

(ふはははははっ! いくら寝ているとはいえ同じ部屋で勉強を始めるとは愚かなり! 起きないと思ったか。ひっそりこっそり聞いてやる)

 カトレアの脳内では悪の帝王の如く仁王立ちして前方の二人に指を突きつける自分の姿がある。

 まあ、実際はうつ伏せの状態で含み笑いしているだけなのだが。

 

 勉強はカトレアにはまだ早いと誰もこの世界のことを教えてくれない。

 今、カトレアとして生を受ける前のこと、いわゆる前世の記憶というものをカトレアはもったまま生まれた。

 思い出したのはつい最近。高熱でうなされた時だ。

 最後の記憶は高校二年生。それ以降の記憶がないことから、それが自分の最期だと考えている。

 今の家族に不満はない。優しく才能豊かな家系に生まれて幸せである。

 年上の兄弟もいる。姉も兄もいなかったので嬉しい。

 ただ、心にぽっかり空洞ができたようでふとした瞬間に寂しさを覚える。

 前世の自分にとってなくてはならない存在。叶うことはないけれど、もう一度会いたいと思う。

 前世のことはカトレアにとっては紛うことなき事実でも他人にとっては荒唐無稽(こうとうむけい)な話だ。

 話そうにもまだ上手く話せないし、話したところで誰も信じてはくれないだろう。

 もし自分が同じことを言われたら、多分信じない。

 だから、カトレアはこのことを胸に秘めて黙っている。

 

 たとえ、身体は幼児でも精神は高校生レベルだ……多分。この世界のことだって説明してもらえれば理解できる……はず。

 幸い言葉に困ることはなく家族の言っていることは理解できる。

 ついでに言えば文字は書けないが読める。

 まさにご都合主義万歳だ。

 

 子供部屋はカトレアの昼寝部屋でもあるが姉兄の勉強部屋でもある。

 カトレアが昼寝から目覚めるとこうしてたまに家庭教師に師事している現場に遭遇することがある。

 始めこそ色々と知りたくて授業に乱入していた。すると姉も兄も自分の膝の上に座らせて授業を再開するのだが、集中力がもたない。

 もちろんカトレアではない。姉と兄のだ。

(だってほら、二人ともまだ子供だから)

 カトレアはこれでも精神面では年上だから。

 そうして中々進まない授業に痺れを切らせたのは他の誰でもないカトレアだ。

 

 カトレアは学習した。

 そも、自分が乱入するから進まないのだ。

 ならば寝たふりをしてバレないように聞き耳をたてていればいい、と、

 けれどしかし姉兄の膝の上(とくとうせき)に座っているより青年家庭教師の声が聞き取りずらい。

 それでもカトレアは頑張った。誰も褒めてくれないから自分で褒めてあげたいくらいには頑張った。

 エヴァートンの授業は良心的だ。

 まだ始めて間もないのかカトレアに優しい内容になっている。

 対して、ネフティリアの授業は時に謎言語(なぞげんご)で行われるのでその時はふて寝することにしている。

(だって分からないとつまらないし)

 カトレアが苦労して盗み聞……勉強して分かったことは次の通り。

 

 まずは家の事。

 この世界――正しくは王制の国の話なのだが――には爵位がある。とは言っても侯爵とか伯爵とか言い他呼び方ではない。

 王族の直系のみが名乗ることを許される「パラ」、王家から臣下に下った、地球で言うとこの公爵を「リダ」、実質貴族の中では最高位にあたる侯爵を「ミアー」、そして伯爵にあたる「ヒェガ」、子爵にあたる「ジィルソ」と男爵の「リフォ」、最後にカトレアの名前にもある「カーメルセ」だ。

 と、地球での爵位に当てはめてみたがやはり少し違う。カーメルセは存在すらしていないし。まあ、当然だが。魔法ないし。

 ここでよく間違われるらしいのだが、リフォとカーメルセは貴族ではない。

 リフォは地方領主に与えられる家位(かい)である。

 カーメルセは一代限りの家位で騎士や魔術師に与えられる。途切れることなく代々カーメルセを戴く家はその能力を認められているということ。下手な下級貴族より発言があり重要視されることもある。

 現在カトレアの生家、シゼリウス家の当主であるカトレアの父、ジークは騎士としてカーメルセの家位を名乗っている。

 次期当主であるエヴァートンが騎士になり認められれば引き続きシゼリウス家はカーメルセを名乗ることが許される。

 許されなければジークの代でカーメルセの家位は返上となる。世襲制であるリフォまでの家位とは違いカーメルセは完全実力制なのだ。

 

 次に、待ってました魔法について。

 この世界の全ての生き物は微量でも必ず魔力を持っている。

 その魔力が多ければ多いほど寿命は延びる。魔力量=寿命、という方程式が成り立つほどには。

 魔法、魔術の施行には複雑な術式と力のある言葉が必要だ。

 魔術発動の瞬間はリュードが幾度も見せてくれた。どうやらリュードはカトレアが魔女になることを期待しているようだ。

 ちなみに、魔法を自在に操る人の総称を魔法使い、または魔術師と呼び、その中で女性のことを魔女と呼ぶ。特に違いがあるわけではないらしい。


(あ、話が脱線してしまったよ……)


 それで、術式は光の線が幾重にも重なり、絡み合い複雑な模様を描くように組まれる。

 魔術は「古代語」と呼ばれる力のある特別な文字と言葉を使う。

 複雑怪奇に見える術式もその古代語で形成されており素人には読み取ることは難しい。

 難しいはずなのだが……。カトレアにはその古代語で書かれた術式が読めるし、呪文としてリュードが口にした言葉も難なく理解できた。

 当然初めて見る文字だし、聞く言葉だ。習った記憶はない。

(またまたでましたご都合主義、ありがとうございます)

 カトレアは誰にともなく感謝する。それはもう心の底から。


(これは将来お祖父様の希望通り魔女になれるかもっ!)

 自分が魔術を使う姿を想像して思わずニヤついてしまうカトレア。

「くふふ」

「カトレア? 起きたのかな?」

 思わす漏れてしまった声が聞こえたのかエヴァートンが恐ろしいくらい敏感に反応した。兄は地獄耳?

(ヤバッ、バレる!? 起きてない、起きてないよ。まだ寝てます。寝てるから私のことは気にせずそのまま続けて)

 カトレアは内心大慌てでスースー、と寝息をたて狸寝入りを決め込む。

 人が近づく気配がしてなぜか頬をつつかれた。何事!?

「うーん、声が聞こえた気がしたんだけどな」

「夢をみているのかもしれないね」

 残念そうなエヴァートンに青年家庭教師が言った。

(そうだよー。夢みてたんだよ。ほら、赤ちゃんは寝てる間も手足動かすでしょ?)

 それと一緒だよ、と無理な理屈を説きつつカトレアは戻れー、戻れー、と念じる。

「どんな夢みてるんだろう?」

 ふわりと笑う気配に目を開けそうになったが寸前で耐えた。

(ああ!! 美少年の微笑みを見逃した! 目の保養が!)

 下らないことを悔しがる。最早ただの危ない人。いや、幼児。

「エヴァ様、戻っておいで。続きをやるよ」

 救世主がいた。青年家庭教師に(たしな)められて渋々戻るエヴァートン。

 

 再び席に座る音がして授業が再開された。

「じゃあ、次は魔石(ませき)について話そうか」

(魔石っ!?)

 心惹かれる単語が飛び出した。

「魔石は二種類あることは知ってる?」

 指を二本立てて青年家庭教師が問う。

「うん。宝石に魔力を込めて作る魔石と、魔力だけで作られた魔石の二つでしょ?」

「正解。この二つを区別するのに一般的には純粋に魔力だけで作られた魔石を純魔石(じゅんませき)と呼んでいるんだ。魔石はどちらも作ることのできる人が限られている。だから高価で庶民にはなかなか手が出せない」

「先生は純魔石を作ることのできる人知ってるの?」

「残念ながら、そんな凄い人はそうそういないよ。城に仕えている宮廷魔術師は宝石に魔力を込めて魔石を作ることはできるけどね」

 なるほど。城仕えするほどの実力がないと魔石は作れないのかとカトレアは頷く。では祖父(リュード)はどうなのだろう?

 国に認められるほどの魔術師だ。魔石は作れるのだろうか?

「お祖父様はできるのかな?」

 カトレアと同じこと思ったようでエヴァートンが聞く。

「できるよ。魔術師でカーメルセの家位を戴く最低条件の一つに魔石の生成があるからね」

 祖父はやはりすごい人だったようだ。

「さすがお祖父様。すごいね」

 嬉しそうなエヴァートン。

「純魔石が作れる人なんて……あ、宮廷筆頭魔術師のサントス様は純魔石を作ることができると聞いたことがあるよ」

「へぇー、そうなんだ」

 リアクションが薄いのはあまりにも遠い存在だからだろうか。

「先も言ったように魔石は高価で庶民にはなかなか手が出せない」

「でもそうしたら、魔具(まぐ)が使えないよ?」

 魔具、事前に術式を組んで書き込み、魔力で動く道具のことだ。照明にも使われている。

「そうだね。少し使うだけならまだしも、継続して使う時は魔力もたないかもしれないし、ずっと魔具の近くに居るわけにもいかないだろうからね。魔石は使い続けると次第にくすんで石のようになるんだ。だからそうなる寸前の魔石を砕いて小さくし……さらにそれをガラスに混ぜて加工した物を安く買えるようにしているんだよ」

 青年家庭教師の声が途中、聞き取れない所あって直ぐ、ジャラリ、と机に何かを置いた。

 カトレアの位置からでは見えない。

(何? 何て言ったの? ってゆうかそれ何? すっごく気になるんですけど)

 どうにかして机の上の物が見えないか必死に身体を捩る。が、疲れて諦めざる得なくなった。二歳児の体力は少なかった。

「キレイだね。あ、でも何か……こっちにはないのにこれには小さい粒が混ざってる?」

 予想するに、市井で売られている魔石を出したのだろう。

 青年家庭教師、確か彼は貴族だったはず……。わざわざこのために用意してきたらしい。すばらしい。教師の鏡である。

「よく気づいたね。庶民向けに売られている魔石にも色々あって、最初にエヴァ様が手に取ったキレイな方は劣化した魔石を細かく砕いて砂状にしてからガラスと混ぜてあるんだ。だから見た目はキレイなんだよ。もう一つの方はただ砕いただけの魔石を使用しているから異物が混じっているように見えて外見はあまりキレイではないんだ」

 ちなみに、劣化した魔石は脆く加工がしやすくなるらしい。

(私にはこれっぽっちも見えないけどねっ!)

 ちぇっ、と少しいじけてみたり。

「あ、ホントだ。もしかして、これのせいで価値も違う?」

「察しがいいね。うん、手間がかかっているということもそうだけど見た目というのは重要だからね」

(青年家庭教師、あなた本当に貴族だったよね? 何でそんなことまで知ってんの? なに、この世界の貴族って庶民派なの? それとも彼が特別フットワーク軽いの?)

 カトレアに疑問の種を残しつつ、エヴァートンの授業は進む。


「では、最後に法術師について勉強しようか」

(なぬっ!!)

 しかし、青年家庭教師のセリフに次の瞬間には疑問は彼方(かなた)へ飛んで行き、機嫌は直っていたり。

 単純なカトレア。そんな彼女はまだ二歳。

 閑話休題(それはさておき)

 法術師と言えば聖女である母と姉のことだ。

 法術が魔術と違うことは知っている。

「母上と姉上のこと?」

「うん、そうだよ。法術師はかなり特殊なんだ」

 法術師は治癒全般を得意とする。男性を聖人。女性を聖女と呼ぶ。

 訓練次第で誰もがなれる可能性がある魔術師と違い、法術師は先天的な、とある要素で決まる。


 法術師には魔力がないのだ。


 命あるもの全てにあるはずの魔力がない。

 代わりに法力、というものを持っている。それが魔力に代わる役割を果たしているのでは、と言われている。

 カトレアたちとそれ以外は何も変わらない。

 何故なのか? 彼らの存在は理由も原因も不明である。一般の家庭に突然聖人・聖女が生まれるなんてこともあるらしい。

 片親が魔術師の場合もあるし、両親とも法術師だということもある。

 しかし、決して数が多いわけではない。

 治癒術の玄人(プロ)と言っても過言ではない彼らは常に引く手数多だ。

 法術師であることが分かると専門の知識をつけるため協会に引き取られる。

 ネフティリアが引き取られずに家に居ることができるのはシルヴィアが聖女であり身近に教師がいるからだそうだ。

 それに月に一度は必ず協会を訪れる義務があるらしい。間違った知識を教えてないか、覚えていないか。

 人の命に関わってくることなので重要なのだそうだ。

 

 本来なら引く手数多で忙しいはずのシルヴィアが家に居るのは聖女育成もそうだが、一番の理由はカトレアらしい。

 まだ幼い子供がいるため聖女業はお休みらしい。要するに育児休暇みたいなものだとカトレアは理解している。なんとも女性に優しい職場だ。

 カトレアがこう少し大きくなれば少しずつ聖女としての仕事を再開するそうだ。

 ネフティリアの教育もあるのでフルに仕事はしないだろうとのことだ。

 魔術師が魔石を使うように法術師は法石(ほうせき)、というものを使う。

 これは、なぜか魔石と作り方は同じでこちらも廃棄寸前の物を砕いて売っている。

 加工についても魔石と同じだが、こちらの使用回数は一度だけでちょっとした切り傷、かすり傷、打撲などを治す程度の効力しかないらしい。

 お分かりだろうが、価値や希少性は断然こちらの方が高い。

 さすがに法石の持ち合わせはないのか、もし見たいのならシルヴィアに聞けば一つくらいなら持っているかもしれないと青年家庭教師が言っていた。

 法石は魔石に比べ作れる人の絶対数が少ないのだ。当然と言えば当然かもしれない。


「では、今日はここまでにしようか」

「はあい。ありがとうございました」

(ありがとございました。これからも、私の昼寝中にどんどん子供部屋使ってね)

 これぞ正に睡眠学習、というやつだ。厳密に言えば本当に寝ているのではなくて狸寝入りだけれど。

(これからも頑張って寝たふりしながら情報収集をしたいと思います)

 さて、そろそろ起きるかと意気込みも新たにベッドで身体をのばすカトレアだった。





この後すぐ、起きたのが兄に気付かれ使用人が呼びに来るまで遊んでもらったカトレアでした。


どの国でも三歳になると全国民は魔力を測定する義務があります。

その時に、魔力がないと判断されると法術師候補として協会に登録され、六歳になると教会でもう一度魔力測定を行い間違いなく法術師であれば協会にて専門の知識を学びます。

二度魔力を測定するのは幼いと魔力が安定しなくて例え魔力があったとしてもないと測定されることが稀にあるからです。その逆も然り。

なので、最初は候補として目をつけておくだけ。


とてもフレンドリーな青年家庭教師は身分だけで言えば貴族なのでシゼリウス家より上です。が、代々カーメルセの家位を戴く家なので蔑にはできません。する気もないし。


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