【11】 誘拐事件とその後5
頑張りました。
カトレア誘拐事件から三日。
無事に家に帰って来られた安心感から大泣きしてしまった。
あんなに大泣きしたのはカトレアの人生では初めての事ではないだろうか?
思い返すと恥ずかしい。
怪我なのどの外傷ははないがしばらくは安静に、という主治医の診断によりカトレアは引き籠り生活を余儀なくされている。
正直、暇である。
カトレアより痛い思いをしたのはゼリムだ。
魔力を封じる魔具を外してもらってすぐに氷を作り、患部を冷やしたがあれがどれほどの助けになるか?
少しでも早く治ることを祈るばかりだ。
「カトレア様、起きていらっしゃいますか?」
ノックの後に扉の外から声がかかった。
「起きてるよ。お見舞い? 入ってもらって」
失礼致します、と使用人が空けた扉からシルヴィアが現れた。
「カトレア、気分はどうかしら?」
「悪くないよ。ずっと籠りっぱなしで暇なくらい」
「うふふ。だいぶ顔色もいいわね」
よかった、と胸を撫で下ろすシルヴィアにカトレアは申し訳なく思う。
誘拐されたのはカトレアのせいではないけれど、要らぬ心配をかけたことに罪悪感があるのだ。
だから、カトレアは普段通りに振る舞う。
もう大丈夫だと、なんともないのだと態度で示すのだ。
「ふむ。落ち着いているようじゃの」
シルヴィアよりやや遅れて入室していたリュードも安堵した表情を浮かべる。
「うん、もう平気だよ」
「ところで、なぜカトレアがビーを持っているんじゃ?」
「リシューの所にないと思ったらカトレアが持っていたのね」
カトレアの膝の上にはビーが座っている。
「ねぇ、お祖父様。ビーの魔石盗られちゃったんだよ」
質問には答えず、そう切り出すカトレア。
「窃盗か」
気づいた時にはなくなっていたのだ。
「ビーにはね、いくつかの魔術を仕込んであるんだけどね? 魔石がなかったから行使されなかったの」
当然である。
カトレア自身も魔力を封じられていたから術は行使されず、ビーはただの可愛いぬいぐるみ状態だった。ただの可愛いぬいぐるみ状態だった。
大切なことなので二度言ってみた。
「でもね、でもね。私がホントに危なくなった時に助けてくれたの! 魔石もないのにだよ? ……これはもう愛だね!」
「愛じゃな」
「愛ね!」
カトレアはボケてみた。
カトレアはボケ返しを喰らった。
カトレアは心にダメージを受けた。
(うおぅ……誰も止めてくれない)
カトレアはボケる時を間違えたようだ。
「……お守りが効いたのかな?」
気を取り直して、そう言いながらビーの口に手を入れる。
口は袋状になっていて、そこにお守りのつもりで小さな石を入れておいたのだ。
ぬいぐるみの口に手を突っ込む少女。視界に優しくない光景である。
「……ん? あれ? ……ない!」
確かに入れてあるはずなのに……ない。
「まあ、お口が開くようになっているのね」
「カトレア、何がないのじゃ?」
「これくらいの小さな石をね、お守りのつもりで入れておいたんだけどなくなってるの」
せっかくネフティリアとエヴァートンがくれたものなのにと落ち込むカトレア。
「仕方がない。新しいのを入れておくか」
ベッドの横にある収納機能もあるサイドテーブルから小袋を持って来て適当に一つ取り出す
「っ!?」
「まあ、綺麗な石ね。魔力を帯びているわ……魔石?」
「……カトレア……それはどうやって手に入れたのじゃ?」
掠れた声で問うリュードを疑問に思いながらカトレアは答える。
「え? 私が熱だして寝込んでいる時にお姉様とお兄様が枕元に置いておいてくれるんだけど……どこから入手しているのは分からない」
「カトレア、これは……」
「カトレア、起きているって聞いたのだけど」
「カトレア、気分はどう?」
「あ、お帰りなさい。お姉様、お兄様」
リュードが何か言いかけたが、学校から帰ってきて直行で訪ねてきてくれたらしい二人に気をとられて気づかなかった。
「もう何ともないよ。平気」
「そう? それならいいけど」
「無理はしちゃダメよ?」
「うん、ありがとう。あ、そうだ。私が熱を出して寝込んでいる時にいつも枕元に置いておいてくれるこの石ってどこにあったの?」
二人してカトレアの手元を覗き込む。
「ああ、カトレアのお気に入りの石ね。綺麗だわ。魔石……かしら?」
「これは魔石? 俺は知らないけど、姉上?」
「私も知らないわ」
「え? 違うの!? 私、今の今までお姉様とお兄様が持って来てくれたのだとばかり思ってた……って言うかこれ、言われてみればただの石じゃなくて魔石だね。それもかなり魔力が込められてる」
ネフティリアとエヴァートン、二人ではなかったらしい。
では、誰が?
いや、それ以前に今の今までこれが魔石であると気づかなかったカトレア。
魔女として如何なものか。
「お、お、お前たち! そんな呑気なことを言っとる場合ではないぞ。それは間違いなく魔石じゃ。それも魔石は魔石じゃが、魔力のみで作りだされた純魔石じゃ!」
魔石とは二種類あり、多く世間に流通しているのが宝石に魔力を込めたものだ。
当然これは高価で庶民には手が出ない。庶民が使うのは、長く使用し劣化して使い物にならなくなる前の魔石を砕きガラスに混ぜて成形した物である。
それらとは別に、魔力のみで作られた魔石は純魔石と呼ばれ、作ることができる人物は極わずかなため大変貴重な物なのだ。
かつて国にその技量が認められ「カーメルセ」の家位を賜っていたリュードでもでもそれを作ることは叶わない。
現在、この国で純魔石を作ることができるのは一人だ。つい先程まではそれが事実だった。
「これが純魔石? 私の小指の爪くらいしかないけど」
まじまじと小石、もとい純魔石を凝視する。
「純魔石なんて初めて見るわ」
「お母様も見たことないの?」
「ないわよ。 純魔石なんて一生に一度お目にかかれたらそれだけで凄いのですもの」
「そんな凄い物がどうしてカトレアの枕元に?」
エヴァートンの言葉は誰もが思ったことだ。
全員の視線が純魔石からカトレアへ移り、少々居心地が悪い。
カトレアだって疑問なのだか。
「……おそらく、じゃがの……カトレアが毎年寝込んでいたことと関係がある……と思われる」
確証はない、と前置きしてからリュードが言った。
「カトレアは魔力量が多い。今でこそ、毎日魔術の練習で魔力を使い身体の外へ出しておるが赤子にそれは無理じゃろて……」
まだ幼く脆い身体に年齢に対して不相応に多い魔力。
まだ、外へそれを出す術を持たなかった小さなカトレアは循環せずに体内に滞った魔力に耐え切れず体調を崩し、熱を出した。
寝込んでいる間にカトレアの身体は溜まった魔力を外へと追い出そうとした。
結果、外へ外へと追いやられた魔力は形を成し、いくら小さくとも純魔石となってカトレアの枕元へ顕現した。
魔術の勉強を始め、魔力を自分の意志で外へ出せるようになったカトレア。年々症状が軽くなったのに
はそういう訳があったのだ。
「意識的にしろ、無意識にしろ純魔石を作れるということは一大事じゃ」
「お祖父様、これは隠した方がいい?」
「そうじゃな。純魔石を作れるなどと知れるのは危険じゃ。絶対に他言無用じゃ」
誘拐拉致監禁。
連れ去られたが最後。どこかに閉じ込められて一生純魔石を作らされる未来が簡単に予想できる。
少なくとも、カトレアが自分の身を自分で守れるようになるまでは知られてはいけない。
「しかし、これ程の才能。埋もれさせるのは惜しい」
リュードとしては、引き続き手元に置いて自ら育てたい。
しかし、もっと広く外の世界を知る事も必要になってくるだろう。
「お義父様?」
「シルヴィア」
「はい」
「次の誕生日にはカトレアは十歳になるの。就学できる年齢か」
「ええ。もう準備を始めているわ」
「そうか。……カトレアはペルガニュス学園に行かせよう」
「え?」
(え? 全然話についていけないんだけど。私の話をしてんだよね!?)
本人そっちのけで話は進む。
シルヴィアが何に驚いているもカトレアには分からない。
もしかして分かっていないのは自分だけかと思い、ネフティリアとエヴァートンを盗み見るとカトレア同様頭の上に疑問符を浮かべていた。
少し安心するカトレア。仲間がいた。
「お祖父様、カトレアはどこか遠くに行ってしまうの?」
おずおずとネフティリアが言った。
「ん? ああ、お前たちは知らなんだか。ペルガニュス学園といってな全寮制のな、ちと変わった学校じゃ」
「全寮制!? 家から通うことはできないんだ?」
「通いじゃのう……かなり遠いのじゃ、エヴァよ」
「でも、お祖父様。長期休みには帰って来られるでしょ?」
そうでなくちゃ我が家の天使に会えなくなるではないか。
カトレアにとってはけっこう重要なことだ。
「ううむ。難しいじゃろな」
どれだけ遠い所にあるのだ。そのペルガニュス学園とやらは。
そも、カトレアは絶対にその学園へ行かなくてはならないのだろうか? ……ならないのだろうな。
リュードの話を聞く限り決定事項のようだ。
一縷の希望を求めて父ジークに直談判をするつもりではあるが覆りそうにない。
なんだか面倒なことになったぞ、と驚きや不安よりも面倒臭さが先にたつカトレアだった。
毎年恒例? カトレアの発熱の原因が発覚。やはり主人公はすごい、ということですね。
「異世界転生のご都合万歳!」(byカトレア)
話の流れから察していただけると思いますが、新章は学園ものです。ここからは一話で一年ではなくカトレアの学園生活をお送りします。
一話で一学年分終了、とはならない予定です。
この話で書き溜めていたストックが尽きました。
なので、次話の更新まで期間があくかと思われます。いえ、確実にあきます。
どうぞ気長にお待ちいただけると嬉しいです。
では、失礼します。




