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【9】   誘拐事件とその後3

今週も予告通りの更新です。よかった……。



「お取込み中、失礼致します」

「入れ。どうしたのじゃ?」

 リュードの入室を促す声にリリアが扉を開けた。

 片手はリシューと手を繋いでいる。


「ネフティリア様とエヴァートン様がお帰りです。それと、リシュー様がとうしても奥様の元へ行きたいと申されまして……。先ほどからリシュー様に精霊が何かを訴えている様なのです」

 精霊がみえないリリアが自信なさ気に言った。


「おかーさま」

 部屋に入ったリシューはリリアと繋いでいた手を離すと、真っ直ぐにシルヴィアの元へ駆け寄る。

「お母様、カトレアが行方不明になったって本当なの?」

「最近多発している誘拐事件と関係がある?」

 ネフティリアとエヴァートンがリシューの後に続き入室するなりそう聞いてきた。

 学校が終わり、事件のことを聞いた二人は着替えも後回しに、帰宅して直ぐこの部屋を訪れたのだ。

 リシューを連れたリリアとは扉の前で出くわした。


 ネフティリアとエヴァートンの姿を見て、リュードやシルヴィアたちは気づかぬうちにずいぶんと時間が経っていたことを知った。

「ネフティリア、エヴァお帰りなさい。えぇ、カトレアが行方不明になってしまったのは本当だけれどジーク様、騎士団の方々に私兵団の方々も皆様が探して下さっているわ」

 今にきっと見つかるわ、と言うその言葉はシルヴィアが自分自身に言い聞かせているようにもとれる。

「なに、そんな顔をするでない」

 カトレアが心配なネフティリアとエヴァートンにリュードは慰めるように頭を撫でる。


「おかーさま、おかーさま」

 状況が理解できないないリシューはシルヴィアの袖を引く。

「どうしたの?」

 抱き上げて膝に座らせる。

「おかーさま。おねーさまがね、くらいくらいって」

「暗い?」

「うん。なんにもみえないって」

 リシューに集まっていた視線が「姉」という単語でネフティリアへ向く。

 しかし、当のネフティリアは首を傾げている。

 確かに、日が傾き室内は薄暗いが何も見えないことはない。

 第一、この部屋にはネフティリア以外にも同じ条件でここにいるものが何人も居て、彼女だけが見えないということはあり得ない。


 では、リシューは誰の事言っているのか?


 リシューにとって姉はもう一人いる。

 現在行方不明のカトレアだ。

「リシュー、それはカトレア姉様のことかしら?」

「うん。かとえあねーさま」

 何の躊躇(ためら)いもなく肯定が返ってきた。

「リシューにはカトレア姉様がどうしているか分かるの?」

「……リシュー、もしかして精霊がカトレアの近くにいるのか?」

 先ほどのリリアが言ってたのはこの事かとリュードが尋ねる。

「うん。おしえてくえるの」

 その精霊の居場所が分かればカトレアの居場所も分かるかもしれない。

「暗い場所か……? その精霊にはカトレアが見えているのじゃな? 他には何が見えるか分かるかの?」

 まだ空は暗くない。どこか屋内に閉じ込められているようだ。

「うーん……?」

 できれば近くに目印になりそうな物があれば話は早いのだが……。


《わかる?》

 リシューは首を傾げてから、誰もいない方へ精霊たちの言葉である精霊真言(せいれいしんごん)で話しかける。

 リシューは彼らの言語を短文を話せる程度には習得している。

《ええ、分かるわよ》

「案内しましょうか?」

 答えたのは黒髪に黒目、黒い服の漆黒を纏った精霊だ。

 暗闇を(つかさど)る精霊で返答の後半はひとの言葉を話し、リシュー以外にも可視できるようにということだろう。姿を現した。


 高位の精霊であるようだ。

 外見の年齢は人間で言うところの、まだ二十歳には満たないほど。若い娘の姿をしている。

「頼めるだろうか?」

「構わないわ。我らが愛し子がそれを望んでいるのだもの」

 ついてきて、と黒いレースの裾を翻し歩き出す。

《ありがとー》

 精霊真言でお礼を言うリシューに暗闇の精霊は微笑(びしょう)で応えた。

「ジディバクト、ついて行くのじゃ」

「……畏まりました」

 返答に間があったのは己の主を心配したからだ。


 ジディバクトに暗闇の精霊を追うよう指示を出すと、次に通話用の魔具に魔力を通す。

「……ジーク、カトレアの居場所が分かった。今ジディバクトを向かわせておる。町の中心部へ向かったからそこで合流せよ」

 別の使用人が確認したことを踏まえ、報告する。

[分かった。すぐに向かう]

 互いに用件のみの会話で通話を終了する。

 騎士団や私兵の目をかいくぐって町の中心部に潜んでいるのか、はたまた町の外れに潜んでいて中心部はただ通過するだけなのか。

 どちらにせよ精霊の目からは逃れられなかったということだ。


「すごいわ、リシュー」

「精霊ってそういうことも教えてくれるのね」

 シルヴィアとネフティリアが興奮気味に言う。

 褒められたリシューは嬉しそうだ。

「精霊はよくカトレアを見つけられたね。お祖父様、分かるものなの?」

 精霊は人間を()として認識できているのかと問うエヴァートン。

「ふむ。おそらくではあるが、彼等にとって特別なのはリシューだけであろうの。家族故に魔力が似ておるからリシューの縁者、として認識しておるのじゃろ」

 なるほど、とエヴァートンは納得する。



「さて、あとはいつカトレアが帰ってきてもいいように準備をしておこうか」

「そうね、そうだわ。お義父様の仰る通りだわ。カナ、軽い食事とお風呂の準備をしておいてちょうだい」

「畏まりました」

 一礼してカナが退室する。

「さあさあ、あなたちも着替えていらしゃい」

「「はーい」」

 シルヴィアに言われて帰ってきた時のままだったネフティリアとエヴァートンはそれぞれ着替えに一度自室へ下がった。


 まだ油断はできないが、一つ山を越えただろう。

 カトレアの居場所が分かったという知らせはすぐさま屋敷中に知れ渡った。


(どうかカトレア様が無事に帰ってきますように)


 誰もがそう願った。




次回は騎士団サイドに戻ります。


では、早ければまた来週に……頑張ります。

失礼します。

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