【7】 誘拐事件とその後1
皆さんお久しぶりです。
遅くなって申し訳ないです。
第一章の最終話「誘拐事件」の別視点とその後のことを少し。
カトレア視点では語られなかった部分と本編では書ききれなかった部分をお届けいたします。
シゼリウス家の現当主であるジークは王都にある騎士団に所属している。
そしてそこからこの領地に派遣されている、という形で王命によりこの地を守っている。
当然、町には領主が所有する私兵も存在するが、それとは別に数十名ほどの騎士が常駐している。
常に魔物の脅威にさらされているこの土地を彼らに与えられた力をもって守っているのだ。
日々鍛錬を怠らず、有事に備えることはもちろん。町や町の外の巡回や私兵団との合同訓練も行い良好な関係を築いている。
その日、ジークは午前中を鍛錬にあて、午後からは執務室で書類仕事を行っていた。
この領地に派遣されている騎士一団を預かる身なため、執務も大事な職務の一つだ。
静かな日だった。
大きな揉め事もなく、事故もない平穏な日だった。
故に、誰が予想できただろうか? この平穏を揺るがす事件が起こると。
ジークの元に知らせが届くまであと少し。
◇◆◇◆◇
その知らせは突然だった。
ジークが自分の執務室で、来月に迫った私兵団との合同訓練の計画書をまとめている時だった。
袖口から覗くブレスレット型の魔具が反応していることに気付いたのだ。
これは魔力を流すことにより、対になる魔道具同士で会話ができる優れものだ。
ちなみに、魔具同士の距離と必要になる魔力量は比例する。
距離が遠ければ遠いほど魔力の消費は激しい。
それを補助する意味として魔石を施す。
ただの装飾として施す者もいるが、そういった者は家位の高い経済的に余裕のある者に限られる。
ジークのブレスレット型の通話魔具にも魔石が施してあるが、これは当然補助を目的とした魔石である。
いくら魔石が入手しやすい環境にあると言っても高価なことに変りはないのだ。
実用性が優先である。
その魔具が、今反応している。
「はて、こんな時間に何だ?」
ジークが勤務中に直接連絡を寄越すなんて珍しい。
この時点でジークは嫌な予感を覚えた。同時に外れてくれ、と思う。
普段使われない時間に反応を見せる魔具。何かあると思うのが普通だろう。
「はいはい、何事?」
[ジーク、一大事じゃ!]
魔具を通して父、リュードの焦った声が届く。
当たってほしくない予感というものは、得てしてよく当たるものだ。
[カトレアが行方不明になった]
単刀直入に用件のみを伝えてくるリュードに感謝する。
事のあらましを聞き、ジークは無意識に口角を上げた。
「……ほう、余程命が要らぬとみえる」
ジークの可愛い可愛い娘を誘拐するとは、犯人は自殺願望者に違いない。
「誘拐」はあくまで可能性だが、ジークはそうに違いないと決めつけていた。
なんせカトレアなのだ。
賢しくて可愛いジークの娘なのだ。異論は認めない。
[最近魔力の多い者ばかり狙っとる奴等やもしれぬ]
「確かに、カトレアは魔力が多いし可愛い。年のわりにはしっかりしているし可愛い」
[うむ。魔術の技量も高くて将来は色々と有望じゃ(当然容姿的な意味も含めて)。これでは狙われぬ筈がない!?]
ツッコみの不在。
じじバカと親バカのダブル。
親子故か思考が似ている。
止める人物はここには居ない。
[分かっておるわ。ちと黙っておれ。ホントにジディバクトは小言が多くていかんわい]
いや、居た。
通話するリュードの傍にジディバクトが控えていたらしい。
あの屋敷でリュードに容赦しない希少な人材だ。
[ゴホン……とにかく、わしも再度探してみるが……カトレアの魔力が感じられぬのじゃ。この町の範囲くらいならば分かるのじゃが……]
「魔具で魔力を封じているか、あるいはすでに町の外へ逃げ出しいるか?」
[うむ、だが後者の可能性は低いじゃろう。カトレアが行方不明になってからまだそれほど時間は経っておらん。魔具で魔力を封じて隠し、どこかに潜伏している可能性が高いじゃろうて]
「それならばその線で捜索してみよう。カトレアが行方不明になった所を中心に、けれど念のために町の出入りにも普段以上に警戒するよう伝えよう」
[頼んだぞ]
通話が切れ、それとほぼ同時に扉をノックする音がした。
ジークが入室を促すと年若い騎士が扉を開けて姿勢を正す。
「ほ、報告します。先ほどよりシゼ、シゼリウス様よりご息女が行方知れずだと通報がありました。詳細につ、つきましては団長もすでに聞き及んでいると伺っております」
どうやらリュードは騎士団の方にも連絡を入れて説明する手間を省いたらしい。
すでに聞いているとはいえ、娘が行方不明になったと凶報を届けなければいけなかった年若い騎士の心境は如何なるものか。想像できよう。
それが仕事だと言ってしまえばそれまでなのだが。
年若い騎士はつかえつつもその役目を果たした。
リュードの配慮にありがたいことだと、一つ頷いて指示を飛ばす。
「一番と二番隊は本部にて待機。巡回を行っている三番隊は姿が消えた周辺の捜索と聞き込みを。四番隊を町の出入り口に向かわせ、不審な動きや怪しい荷を運ぶ者がいないか見張らせろ」
「はっ!」
短く返事をすると年若い騎士は足早に部屋を出て行った。
しばらくしたら現われるであろう副団長に全てを押し付けて、ジークも今すぐにカトレアを探しに行きたいがそうもいかない。
ジークは一人、町を駆け回るより集まった情報を集約しそれを元に新たな指示を出さなければならない。
決して、これを副団長ができないというわけではない。ただ、ここは情報が一番はやく手に入る場所だ。
大丈夫。ジークの部下は皆優秀だ。
「おい、オレだ。入るぞ」
ノックと同時に声が聞こえ、返事を待たずに扉が開いた。
「お前はマナーというものを知らないのか」
「緊急事態だお……」
「大目に見ろ、なんて言うなよ? カイル、お前には日に何度緊急事態があるんだ?」
ため息をつく。
カイル。
「カイル・カーメルセ・モデュイ」
その技量が認められ「カーメルセ」の家位を名乗っている。
黄金色の髪に天色の目。武人らしく体つきはしっかりしている。
ジークとは学生時代からの付き合いだ。
因みに、いまだ独り身である。
「そんなことより大丈夫か?」
「大丈夫? 何に対してだ?」
怪訝そうに眉をひそめる。
「いや、行方不明になったのは下の娘だろ? まだ十にもなってなかったよな。溺愛している娘が行方不明になったって聞いたら冷静さを欠いて無茶なことをしでかすんじゃないかって皆心配してんだよ」
ジークはいつも子供達のことを自慢気に話す。
ジークの親バカ度合いを知っている団員たちは溺愛している愛娘が行方知れずと知らされた団長が独り、町へ飛び出して行ってしまわないかと心配しているのだ。
「良い部下たちだろ?」
当然オレも含めてな、とニヤリと笑うカイル。
対して、ジークは
「そうだな」
当たり前だが、と口角を上げた。
コンコン。
「来たか。入れ」
ノックの音が聞こえ、ジークの許しで扉を開けた部下が知らせを持って来た。
「巡回に出ている三番隊より報告です。ご息女が行方不明になった付近で、ご息女と思われる子供を見たと言う者が居たそうです」
「目撃者かっ!?」
カイルが聞き返す。
「はい。なんでも、子供が突然消えたとか。慌てて付近を探してみたがどこにも居らす、白昼夢でもみたのかと思っていたそうです」
てっきり白昼夢でもみたのかと思っていたら、消えた子供と特徴が一致する子供を探していると聞いて急いで報告に来た、ということらしい。
「目の前で人が消えるか……転移ならば術の痕跡や魔力の残滓があるよな」
そのどちらも現時点では見つかっていない。
カイルは腕を組んで考え込む。
と、その時。
[……ジーク、カトレアの居場所が分かった。今ジディバクトを向かわせておる。町の中心部へ向かったからそこで合流せよ]
屋敷に居るリュードからだ。
「俺も出よう。すぐに三番隊へ伝えろ。カイル、お前はここで待機だ。新たに報告が入った場合の指示と中継役を頼む」
「はいよ、了解」
「了解しました」
カイルと部下に指示を出すとリュードからの報告通り、ジークは町の中心部へ向かった。
元々、一話で終わらせようと思っていたのに、(内容が)増える増える。終わらない終わらない。不思議。
「GWには更新できるかな」とか思ってた時期もありました。ええ、甘かったです。
でも! まだ五月! 日付変わってないです! 月も変わってない!
間に合いました。セーフです。
それでは、早ければまた来週に。
失礼します。