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【5】   寝る子は育つ+他

短編集のようになりました。

ある日のワンシーンや、没ネタですので脈絡なく突然始まりますがご了承ください。

  ◆寝る子は育つ◆


 ふわあ、とあくびを一つしてカトレアは目を覚ました。

 聞き慣れた声に薄目を開けて辺りを窺うとネフティリアが勉強をしていた。

 彼女の本日の先生は母だ。

(と、いうことは法術の授業か)

 飛び交う謎言語にカトレアはもう一つあくびをしてころりと二人に背を向け、贅沢にも二度寝をすることにした。

(寝る子は育つのです)

 別にいじけているわけではない。ないったらない。……違うからね?




          ◆◇◆




  ◆危機一髪!?◆


「さすがに三度目ともなると大旦那様も奥様も落ち着いていらしてよかったです」

 サイドテーブルにある水差しや白湯を入れていたコップを片付けながら言ったカナにカトレアは視線だけで問う。

 先ほど軽く食事をとり、薬を飲んだところだ。

「カトレア様が一つの時だったでしょうか? 突然熱を出して倒れられたカトレア様をベッドに運んだまではよかったのです」

 それまでにもいろいろ大変だったそうだ。

 祖父は離れに住んでいるのでその時はまだいなかったらしい。

「ベッドに寝かせてお医者様をお呼びして待っている間に奥様は屋敷中の掛け布団を持って来てカトレア様に被せようとしまして。お止めしている最中に、大旦那様が駆け込んでいらして、状況を説明した途端に氷柱が現れるんですよ?」

 驚いたなんてものではないです、と言いつつ近くまで引いてきたワゴンにまとめた食器等を積む。

「奥様をお止めするだけでも大変でしたのに。でも、額に乗せるタオルに『保冷』の魔術をかけてくださったのは助かりました。熱が高くてすぐにタオルがぬるくなってしまいましたから。奥様の法術をもってしても少し熱を下げて気分の悪さを和らげる程度しかできないと嘆いておられましたから。まだ幼い身体にはどれほどの負担でしょう。数時間後には旦那様もお帰りになって。誰もが眠れぬ夜でした。最悪の結果も覚悟しておいた方がいいとお医者様が……」

 ですから熱が下がった時には(みな)心より安堵したのですよ、と掛け布団をカトレアの顔の下まで持ち上げ目を合わせる。

「あんなに心臓に悪いことは一度でも多いくらいです。それが毎年のことになるなんて……。皆心配しているのですよ?」

 さあ、私たちのために早く治してください、とカナは微笑んだ。

 カトレアがおとなしく目を閉じるのを確認するとワゴンを押して音をたてないように退出する。

「お休みなさいませ。カトレア様」

 返事をしたかは分からない。目を閉じたカトレアはすぐに眠気に襲われ、夢の世界へ旅立った。




          ◆◇◆




  ◆有名人◆


「ボクはロイド。君、名前は?」

「カトレア。カトレア・シゼリウス」

「シゼリウス? あの?」

 あの、がどの、かは知らないが頷くカトレア。

「そうか、君があの有名なシゼリウスの幼い魔女、か」

(え? 何その恥ずかしい呼び方。いや、有名って?)

「知らないの? 君の事はけっこう有名だよ」

 カトレアの疑問を察してくれたのかロイドが教えてくれた。

「先代の当主、君のお祖父様が行く先々でよく自慢しているらしいから」

(お祖父様ー!! そんなとこで孫バカ発揮しないで! 恥ずかしいから。変なプレッシャーかけないでよ)

「あ、あとご両親もね。出来た子どもたちだって。さすがはシゼリウスだってみんな感心してるよ」

(親バカもかっー!?)

 せめてもの救いはその話の内容が、カトレアだけでなく姉兄も対象であることか。

だがしかし、恥ずかしすぎて憤死しそうだ。あ、すでに死んだ身か。

 赤面しているだろう顔を隠して転げまわりたい気分である。

 ちなみに、ネフティリアはシゼリウスの儚き聖女、エヴァートンはシゼリウスの果敢なる騎士、と言われているらしい。




          ◆◇◆




  ◆影◆


 いつものようにカトレアは魔術の練習をしていた。

 無詠唱で魔術を使う練習だ。

 午前中は祖父、リュードと勉強の時間。午後からは別邸の図書室にこもり先人たちの書き遺した知恵を読み漁った。

 知識は浅くてもいいから広く、だ。

 その後は休日だった姉、ネフティリアと兄、エヴァートンを捉まえて仲良くお茶をした。

 姉兄の学校の話が聞けて実に有意義な時間だった。

 そして、夕方からは一人で練習をしているのだ。

 季節は夏。日は長く、暗くなるまで二・三時間はある。

 たとえ暗くなったとしても『(ともしび)』の魔術で照らせば問題ない。

 問題ないのだけれど、いくら屋敷の敷地内だとは言え暗くなってから帰宅すると両親を始め、多くの人に心配をかけてしまう。

 前に一度怒られた。怖かった。

 『灯』の魔術はまだカトレアには難しくて一から詠唱しなくてはいけない。

 ゆえに、それを十個近く次々に発動させることはとてもいい練習になる。

 今はまだ同時に発動、ということはできないがゆくゆくは無詠唱の同時発動が目標だ。

 一つ一つはロウソク程度の明るさしかないがそれが、十が集まるとなかなか乙な風景になるものだと一番星が輝く空の下、噴水の縁に腰かけながら思った。

 その後、心配をかけてと怒られたのは記憶に新しい。怖かった。

「さてさてさて、今日は何を作ろうかな?」

 手のひらにテニスボールほどの氷の塊を作る。

「っと言うか、このまま“水晶”って言っても問題なくない? 完璧じゃない?」

 空に掲げるように手を上にあげる。

「あ、落ち……たぁぁえぇぇっ!?」

 角度が悪かったのかカトレアの手のひらから氷の塊が滑り落ちた。

 滑り落ちた氷の塊は地面に落ちた、かのように見えたが驚くことに地をすり抜けてしまった。

 そこはカトレアの影のある場所だった。

「え、なに? なんなの? 入っちゃったんですけど?」

 しばらく地面を凝視していたカトレアだが、それでは何の解決にもならないと考え恐る恐るその場所に触れてみた。

 いつもの「アレ」ではないかとちょっと期待もしたりしている。

「あ、入った」

 恐々と伸ばした手は地面に触れることなくすり抜け、影の中に飲み込まれた。

(おー、きたー。お約束きたよー。わあー、影の収納スペースですね。おーけー、分かりますよぉ。ありがとうございます)

 テンション低く、棒読み気味に反応する。

(期待はしたが、ここまで予想を裏切らないともう、何と言うか……毎度毎度ハイテンションに反応することもないかな、と)

 ぱちぱち、ととりあえず拍手はしておいた。

「……と、これはどれだけ入るんだろ?」

 ものは試しだと別邸に行ったときにもらったお菓子を二個投入。

「問題なく入るね」

 ふむ、と腕を組む。少し考えてから手元にあった魔術に関する書物を三冊投入。

「余裕だね」

 ならば次、と自前の魔石を入れてみる。

 宝石に魔力を込めたタイプの魔石を四個投入。

「なんだ。魔石を入れたら入る量が増えるわけじゃないのか。つまらぬ」

 色々投入して気づいたのだが。なんとなく、どれだけ入るのか分かる気がする。

(多分これあれだよ。本人の魔力量に比例するんだ。きっと)

 内包する魔力量が増えれば入る量も増えるかと思ったがやはり無理らしい。

「当然と言えば当然か」

 まあ、魔石を入れたらその分だけ内容量が増えるのならカトレアは魔石を大量投入するだろう。

「そういえば……入れたはいいけど、これちゃんと出てくるんだよね!?」

 思いつくままに次々と入れてしまったが戻ってこないとヤバい。

 何がヤバいって? 魔術に関する書物はカトレアの私物ではない。無傷で返さなければ駄目だ。でないと雷が落ちる。

「えーと、えーっと……どうしよう?」

 今さら焦るカトレア。

 興味の赴くままに、好奇心を抑えられずに行動した結果がこれだ。物事の後先を考えて鼓動することは大切だ。

「怒られちゃうよー。大変だよー出てきてー。出て来―い、本―!」

 影に向かって叫ぶ。

 ドサッ。

「え?」

 音のした方へ顔を向ける。

「で、出たー」

 カトレアの横、影の外側に魔術に関する書物があった。

 これで怒られなくてすむと胸を撫で下ろす。

 早急に解決しなければならない心配事が消えると気になるのは別の事。

「これって呼べば出るのかな……?」

 さっきは本と言ったら出た。

「……魔石」

 なんとなく、遠慮がちに呼んでみる。

 ポンッ、ポンポンポンッ。

 小さく弧を描いて吐き出されるようにカトレアの手に収まったのは四個の魔石。

「おぉー! 面白い。やり方、分かったかも」

 わざわざ呼ばなくてもいい。取り出したい物を思い浮かべて念じればいいようだ。

「なるほど、なるほど。ってことは入たことすら忘れたらずっとそのままってことか!」

 ダメじゃん、と自分で言って自分に突っ込む。

「ちなみに、中はどうなってるのかなー?」

 先ほどは恐々と触れた手を今度は腕の付け根まで差し込む。

「ひゃっ!? 冷たっ! なに今の?」

 咄嗟に手を引っ込める。指先にないか冷たい物が触れた。

 ポンッ。

「あ」

 出てきたのはカトレアの手を滑り、一番最初に影に落ちた氷の塊だった。




・寝る子は育つ

カトレアがまだ子供部屋で昼寝した居た時の話。神聖語がわからなくてつまらない。

・危機一髪!?

四話の時の話です。話が長くなりすぎてカットした部分ですので何の脈絡もなく突然始まります。

ちなみに、この祖父と母の暴走は一話のとある部分の別視点となっております。

・有名人

十話の時のIFの話になります。もし、カトレアがロイドに自己紹介をする時にフルネームで名乗っていたらこうなった、かもしれない。

・影

影の収納スペースが発覚した時の話です。これの数日後、別邸でもらったお菓子のことを思い出したカトレアが慌てて取り出してみたら時間が止まっていたかのようにお菓子はその時のまま出てきたので、影の中では時間の干渉を受けないことがわかりました。

もちろんお菓子はカトレアが美味しくいただきました。食べ物大事。

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