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プチダークな俺のハンターライフ  作者: 秋ノ永月
序章:ガチビギナーな俺のハンターライフ
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第07話:雷鳴と戦斧

「おらぁ!!」


 戦斧を振り、遠心力の乗った刃をエルダーの牙に打ち込む。

 しかし、完全にへし折るつもりで打ち込んだ斧は凄まじい打撃音と共に弾き返された。

 とはいえ、相手もノーダメージとはいかなかったようで、低い唸り声を出しながら僅かに後退する。

 ダメージを与えられたのは良かったが…恐ろしい程の強度だ。

 いくら斧の使い方がよくわからないからと言えども、こっちはフルスイングだというのに。


「だったら…!」


 体制を立て直し、エルダーの横っ腹へと駆け出す。

 牙を破壊するのは諦めるしかない、本体を直接削る!


 エルダーの横へと回りこみ、俺は再び戦斧を振るう。

 戦斧の刃はエルダーの外皮を切り裂き、返り血が少量ではあるが俺の頬に飛んだ。

 表情は見えないが、エルダーが漏らした声は若干苦しそうに聞こえる。

 かなり固いが…いける。この巨体だ、小回りはきかないだろう。


「よし…いける、いけるぞ!」


 俺が勝利を確信したその時、イノシシの身体が光を纏い始めた。

 突如起きた異常な状態に、俺の身体は硬直してしまう。

 …何だ、これは。何が起きる!?


「止まるな、ロック!!そこを離れろ!!」

「なっ!?」


 状況判断に迷っていると、どこかからスナッツの声が聞こえた。

 同時に、バチッという音が俺の耳に届く。

 何の音だ…?小枝を踏んだような…いや、これはむしろ…。


 音の正体を思い出そうと思考を巡らせた瞬間、俺の視界は真っ白に染まった。

 爆音と共に、全身を痛みが駆け巡る。

 まるで血管の中を刃物が流れているかのようだ。


「ぐっ…これは…電気…!?」


 聞き覚えのある音。

 そう、この音は…放電音。

 学生時代、意図的に放電を発生させる装置で耳にした音だ。

 って、今はそれどころではない…。


 身体中を駆け巡る電気のせいか、思うように身体が動かない。

 だがそれでも、スナッツの声を信じて足に力を込め、何とか後方に跳躍する。

 ほんの数歩分の距離しか移動できなかったが、それでも俺の身体を蝕んでいた電流は完全に消え去った。

 念のためもう一度だけ後ろに飛び、息を整える。

 何だ今のは、滅茶苦茶焦ったぞ。


「大丈夫か、ロック!?」


 エルダーの動向に注意しながら呼吸を整えていると、スナッツが駆け寄ってきた。


「スナッツか…何だ、今の雷は?」

「多分、エルダーフォレストボアの魔法だ…。詳しいことは分からないが、お前の足元に魔法陣が浮かんでた。場所を指定して攻撃するタイプの魔法だろう」

「魔法…?…そうか、今のが魔法か… 」


 魔法と聞いただけで、全身の痛みが少し引いた気がする。

 ついに見たぞ、感じたぞ。この身で、魔法を。


「しかし、よく耐えたなロック…お前が魔法陣から抜け出なかった時は焦ったぜ。魔力抵抗の装備でもつけてるのか?」

「え、あぁ、いや…タフだからな、俺は」


 魔力抵抗の装備。

 この世界にはそんな便利そうなものもあるのか。


 などと感心していると、足元が仄かに輝き始めた。

 視線を落とすと、そこには不思議な円形の模様が輝いている。

 これがスナッツの言っていた魔法陣か。

 スナッツと共にその場を離れると、魔法陣は徐々に薄れ消えていった。


「魔法陣の中にいなければ、魔法は発動しないのか…?」

「あぁ、みたいだな」


 何だ、大したこと無いな、魔法。

 踏まなければどうということはない。

 ヒットアンドアウェイ戦法でエルダーの攻略余裕そうだ。

 …そう思ったのも束の間。


グルルァ!!


 エルダーが吠えた。

 その声に合わせて、エルダーの足元に俺達が避難したものと同じ模様の魔法陣が出現する。

 魔法陣は徐々に広がっていき、エルダーの全身を包み込むほどの大きさで停止した。

 …先程の魔法陣のように消えゆく様子はない。


「…まじかよ」


 もし、もしもだ。

 もしも俺の予想が的中しているのであれば、これはマズい。

 あの魔法陣の中に入ると雷が襲ってくるというのであれば、奴に近づくことは用意ではない。

 さしずめ、雷の結界といったところだろう。

 かっけぇ…かっこ良すぎるよエルダー…。


「マズいな…あれじゃぁ近付けねぇ…」


 同じことを思ったのか、スナッツが呟く。


「いや、だけどあのままじゃ、あいつも身動きがとれないだろ…互いに打つ手が無…」


 互いに打つ手が無い。

 そう言おうと思った瞬間、視線の先にいたエルダーの頭上に魔法陣が現れた。

 先程までのものとは模様が少し違う。

 嫌な予感がする…!


「スナッツ、離れろ!!」


 思わず、側にいたスナッツを蹴り飛ばす。

 不意打ちの蹴撃にスナッツは苦悶の声をあげたが、致し方ない。

 そうすべきだと思ったのだ。どうにかして、スナッツと距離をとらなくてはいけないと。

 そして、幸か不幸か、その予感は的中した。


 スナッツを蹴った足を地につける前に、雷撃が俺を襲ったのだ。

 先程受けたものに比べて威力は低い。その上単発式のダメージだったが、それでもかなり痛い。

 魔力耐性のアビリティがあってこれだ…普通の人間が受けたらひとたまりもないだろう。


「っ…!…結界に遠距離攻撃とは、些か卑怯なんじゃぁないですかねぇ…」


 ジャケットから漂う焦げ臭い匂いを嗅ぎながら俺は若干の危機感を覚える。

 こちらから攻めることは困難。

 あちらからは遠距離攻撃が可能。

 とんでもない無理ゲーである。


「ロック!」

「大丈夫だ、だから俺の側に来るな!!」


 俺に蹴られた腹部を抑えながら、スナッツが心配そうに声をかけてくる。


 大丈夫、とは言ったもののどうしようか。

 岩でも投げるか?そこら辺の木々を引っこ抜いて投げる?

 いや…投げることはできるだろうが、あのエルダーに効果があるとは思えない。

 そもそも、あの結界は物に対しても機能するのだろうか。

 通電性とか関係するのだろうか…。


…パチッ。


 雷撃についての考察を始めようとした時、小さな音が聞こえた。

 それは、木の枝を踏み折った時に発せられるような、小さな音。

 放電音だ。

 再び敵の攻撃が来るのかと身構えると、エルダーの周囲には変わった様子がない。

 足元を確認しても、魔法陣はなかった。

 まさかと思いスナッツの足元も確認するが、魔法陣は見受けられない。


 気のせいだろうか?

 自分の耳を疑った時、再び小さな放電音が聞こえた。

 音の聞こえた方向に目を向けると、視線の先には戦斧の刃部。

 俺が手に持っている戦斧の先でバチバチと放電が起きていた。

 だが、戦斧を持つ手には何も起きていない。

 戦斧の先端部分、刃部分のみが放電を起こしていた。

 …これは…。


 視線の先で起きている現象へ気を引かれていると、エルダーの頭上に再び魔法陣が現れた。

 先程と同じ、単発式の雷撃だ。

 魔法陣が輝くと共に、雷撃はエルダーの頭上から放たれる。

 真っ直ぐに此方へと向かってくる雷撃に向けて、一か八か俺は戦斧を振り下ろした。

 俺の予想が正しければ…この斧は…。


「止まりやがれ!!」


 魔法陣から放たれた雷撃が、戦斧の刃に触れる。

 雷撃は激しい輝きを放ちながら、爆音と共に戦斧の刃先を駆け巡った。

 そして戦斧を振り切ると、雷撃は一瞬の煌きと共に空へと散る。

 …俺の予想は正しかった。

 この斧は…あの雷撃を防げる…!


「スナッツ、いい武器もってるじゃねぇか!」


 先程よりも強く、バチバチと放電現象を起こしている刃部を見つめながら、俺は確信する。

 原理はよくわからないが、恐らくこの斧は刃の部分だけ通電性が高く、柄の部分は絶縁性が高いのだろう。

 この斧さえあれば、雷撃をノーダメージで弾くことができる。

 近付けない点を除けば、状況は悪くない方向に動いた。


「ロック…お前、魔法を切ったのか…!?」

「大袈裟だな、スナッツの斧が優秀なだけだ。お前でもできるさ」

「できるわけねぇだろ…命にかかわる攻撃を迎え撃つなんて…」


 …なるほどな、確かに。

 痛いには痛いが、あの雷撃を受けても一発や二発なら俺は耐えられる。

 だが、通常ならあの雷撃は致命傷らしいからな、避けるのがベターだろう。


「そんなことより、スナッツ。なにか手はないのか、あいつの魔法が使えなくなるような手は?MP切れとかないのか?」

「"エムピー"…ってのはよくわからないな…。だが、魔法ってのは使うのに発動体と魔力が必要なはずだ。だから、エルダーの持つ発動体さえ壊すことができれば魔法は使えなくなる…と思う。魔力切れでも使えなくなるとは思うが…そっちに期待するのは難しいな」

「発動体…」


 セラの言ってた、魔法具とやらのことだろうか?

 モンスターの持つ物をそう言うのか…あるいは総称か…?


「だが、発動体がどこにあるのかは分からねぇ。体内に埋まってるのかもしれないしな…」

「特徴とかは?」

「魔法使いなら見分けがつくかも知れんが…俺には分からん」


 スナッツでも分からない、か…。

 となると、発見するのは難しい。

 なにせ、俺にはモンスターに関する知識が全くないのだ。

 体内に埋まってるなんてことになったら、破壊するなんて不可能…。


 再び訪れた絶望的な状態に意気消沈していると、エルダーの頭上で再び魔法陣が発生した。

 雷撃だ。

 とはいえ、あの雷撃は既に対策済みである。

 恐るるに足らず。


 魔法陣が発光し、雷撃が発せられた。

 雷撃の描く軌道に合わせて、戦斧を振るう。

 雷撃は戦斧の刃部へと直撃し、爆裂音と共に空中で弾けた。

 っふ、またつまらぬものを斬ってしまった。


「ロック!まだ来るぞ!!」

「えっ!?」


 ドヤ顔を決めて油断した俺に、スナッツの声が届く。

 慌ててエルダーの頭上を見つめると、再び先程の魔法陣が現れていた。

 それも、一つや二つではない。

 軽く二桁には到達している。


「マジかよっ…!?」


 戦斧を構えると、各魔法陣が輝き始めた。

 幾つもの雷撃が此方へと飛来する。


「っくそ…!」

「ロック!!」


 一発、二発…。

 飛来してくる雷撃を、素早く、丁寧に戦斧で弾いていく。

 徐々に雷撃間の攻撃時間差が詰まってくるが、二発同時にくるということはなかった。

 せめてもの救いである。

 …だが、きつい。滅茶苦茶きつい。

 十発を超えた辺りで、心の余裕がなくなってくる。

 この数だ、一発受けてしまったら、動きが止まって残り全発受けてしまうだろう。

 そうなれば、さすがにこの体でも無事では済まない。


 あとどれだけ耐えればいいのか不安になり、視界の隅で写っている魔法陣へと意識を向ける。

 魔法陣が消えては現れ、消えては現れを繰り返している。

 だが、攻撃開始時には十数個あった魔法陣も、今では七,八個まで減少していた。

 終わりは見える。


「…っ…?」


 残弾数が存在することを確認したと同時に、何かが俺の中で引っかかった。

 魔法陣の配置だ。

 単発式だった時には気付かなかったが、魔法陣はエルダーの頭上にいろんな角度で描かれている。

 そして、それらの魔法陣はどことなく、多面体のように配置されているのだ。

 いや、多面体なんてまどろっこしい言い方はやめよう。

 言い換えれば球…ポリゴン表示の球のように、魔法陣が配置されている。

 そしてその中心には…。


「あの…角か…」


 角、エルダーの角だ。

 魔法陣は、エルダーの眉間に生えている赤黒い角を中心に展開されているように見える。

 偶然ではないだろう。

 きっと、あの赤黒い角が…エルダーの発動体なのだ。


「焦ったな、デカブツ…!」


 雷撃を弾きながら、俺は自分が笑っているのを実感した。

 俺が雷撃に耐えたからか。俺に雷撃を弾かれたからか。

 エルダーが雷撃の数を増やした理由が、焦燥感に駆り立てられたものかどうかは分からない。

 だが、ヤツが此方に弱点を晒したのは紛れもない事実だ。

 勝つ…俺は絶対に、あのデカブツに勝つ!


 気付くと、弾いた雷撃が完全に消えることなく、俺の身体を何度か掠めていた。

 余計なことに思考を割いたからか、それとも疲労からだろうか。

 はたまた勝利が見えた故の慢心だろうか。

 まぁ、どれでもいい。

 痛いことには痛いが…最早こんなもの、冬場の静電気と大差ない。


「行くぞ!!」


 薄まりつつある雷撃の弾幕の隙を突いて、俺は駈け出した。

 飛来する雷撃を弾き、躱し、エルダーとの距離を詰める。

 目指すは発動体と思わしき角。

 魔法陣の一歩手前で思い切り踏み込み、全力で目標物の上空へと跳躍する。

 魔法陣の上部へと踏み入った瞬間、凄まじい放電音と共に激痛が俺の全身を覆った。

 だがそれでも、俺は目標の角を一心に見つめ続け、痛みに耐え続ける。

 肉を焼かせて、角を断つのだ!


「かち割れぇぇ!!」


 俺の動きを阻害するかのように、全身を雷が襲う。

 全身が熱い…まるで炎の中に飛び込んでいるかのようだ。

 それでも、痺れる身体を気合で動かし、俺は全力で斧を振り下ろした。

 赤黒い角に刃部が触れると、より一層激しい雷が巻き起こる。


 そして、間も無くしてソレは粉々に砕け散った。

 …戦斧の刃が、砕け散った。


「…なっ…!」


 目の前でキラキラと輝く、銀の欠片。

 先程まで俺を雷撃から護ってくれていた欠片。

 そんな欠片達が、視界の端々で輝きを放ちながら宙を舞う。


「…嘘だろ、おい…」


 なんだよ、それ。

 耐えて耐えて耐え忍んで、ようやく弱点を見つけたと思ったのに。

 痛みに耐えて、覚悟して、決死の思いで飛び込んだというのに。

 ここは俺が勝つ流れじゃないのか。

 俺が間違ってたとでもいうのか…?

 こんなイノシシ放っておいて、とにかく逃げていればよかった?

 自分がやりたいことだ、なんて都合のいいこと言ったからこんなことになった?


 …認めたくない、そんなこと。

 それでは、元の世界と一緒じゃないか。

 神様は言った…俺にはそれなりの可能性をくれた、と。

 それなのに、こんな結末はあんまりだろう。

 俺はまだ、この世界のこと全然知らないんだ。

 俺はまだ、やりたいことがあるんだぞ!

 魔法だって使ってないんだ…このデカブツは平気でバンバン使ってるというのに…!


「…ふざけんなよ…!!」


 支えを失い、宙に浮いた俺の身体がグラリと傾き始める。

 …不公平だ、こんなの。

 たかがイノシシのくせに、雷魔法を使えるなんて…。

 モンスターのくせに、格好良すぎるんだよ…! 


 刃を失った斧を手放し、俺は拳を握った。

 落下運動に身を任せながら、片手で狙いを定め、拳を引き絞る。


「その魔法…俺にも使わせやがれ、エルダー!!」


 照準代わりの手が角に触れた。

 同時に、全てを込めた拳と位置を入れ替える。

 渾身のストレート、全力の一撃。

 作戦も考えも何もない、破れかぶれで、苦し紛れの一撃だ。


 俺の拳が赤黒い角に触れると、斧が触れた時と同じように、凄まじい電撃が接触部から発生する。

 そして、俺の身体はまるで何かに弾かれたかのように吹き飛ばされた。


「…ぐっ…ぁ…」


 恐ろしい程にゆっくりと、俺の視界が変化していく。

 空と木々がスロースピードで視界の中を動き、風が流れる音が俺の耳をくすぐった。

 …宙を舞っている、それぐらいしか分からなかった。

 …俺は、負けてしまった。

 …完全に。


「ロック!!」


 風の音にまぎれて、スナッツの声が聞こえた。

 直後、背中に強い衝撃を受けながら、俺の視界は激変する。

 着地したのだろう、受け身も取らずに。

 骨の数本程度なら折れたかもしれない。

 いや、折れないか。頑丈さだけは一人前だからな、この身体は…。

 そこまで思考して…俺の意識は、完全に闇へと消えた。


駆け足になってしまった感が否めません…。

実力不足を痛感しています…。

戦闘シーンはこれからも度々書くことがあると思いますので

修練に励みたいと思います。


閲覧ありがとうございました。

気になった点等ございましたら、報告してくださると助かります。

感想等もお待ちしております。

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