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プチダークな俺のハンターライフ  作者: 秋ノ永月
序章:ガチビギナーな俺のハンターライフ
40/79

第38話:虚ろな解を求めて

Lock:エルメス、いるか?


 時刻は18時を過ぎた頃。

 宿屋の自室で、俺は神アプリを起動した。


HER.:あぁ。大変だったね、ロックくん?


 俺の送ったメッセージにエルメスはすぐさま返事をしてくれる。

 その口振りから察するに、屋敷での顛末は知っているようだ。


 レイザスの依頼を承諾すると、彼はさも当然といった表情で頷いた。

 そして、スナッツ達の安全を保証すると同時に俺を屋敷から追い出した。

 馬車内で知らされた誘拐の期日は明後日…期日を守れなかった場合は勿論"不慮の事故"が起こる可能性が高いということだ。


Lock:セラの"好意転換"はレイザスの仕業みたいだ…だけど、これからどうすればいいか分からない


 セラを助ければパーティーメンバーに危害が及ぶ。

 パーティーメンバーを守ろうとするにはセラを誘拐する必要がある。

 俺に突き付けられた選択肢は、二つに一つだ。


HER.:後悔してるかい?自分の意思で、どちらかを切り捨てなければいけなくなった現状になってしまったことを?


 そんな俺に、エルメスは問いかけてくる。

 後悔しているか、だって?


Lock:…いや、後悔はしていない。エルメスの依頼をそのまま受けていたらこの手でセラを殺すことになっていわけだし、完全に拒否していたら遠くない未来にレイザスはセラに何かしらのアクションを起こしただろう


 そうだ、別に状況が悪くなったというわけでもない。

 セラを悲劇のヒロインにするという選択肢のみだった状態から、パーティーメンバーを危険に晒すという選択肢が増えただけなのだ。

 手札が増えた、そう考えれば進歩があったようにも考えられる。

 …あくまで、そういった考えようによってはだが。


HER.:…どうやら、思考が鈍っているわけではないみたいだね。だったら君に、僕の案を一つだけ教えてあげよう

Lock:案?

HER.:そうだよ。名案にして妙案、今の君では絶対に思い浮かばない案だ

Lock:…聞かせてくれ


 えらく自信たっぷりなエルメスの言葉に俺は身を乗り出す。

 いくら必死に考えを巡らせているとはいえ、今の俺は完全にネガティブな思考に陥っている…こういう時は名案も妙案も浮かばないものだ。


HER.:パーティーメンバーが危険にさらされるというなら、危険因子を排除すればいい。セラちゃんがレイザスのモノにしたくないなら、君のモノにすればいいのさ。分かるよね、要は後手に回るからいけないんだよ?いつまでも受け身では先には進めない、先手に回らなければ状況は打破できないんだ


 先手に回る、か。

 簡単に言ってくれる。


Lock:排除とか、俺のモノとか…。相手は一応貴族なんだぞ、俺に何が出来るっていうんだ?

HER.:はぁ、ダメだよロックくん。君はこの世界に来てから…いや来る前から、今まで何をしてきたんだい?勉強、娯楽、労働、修行…他にも色々あっただろう。何より、今の君は以前までの君とは"違う"んだよ。君はなるんだろう、なってくれるんだろう?正義の悪人にさ


 エルメスが、畳み掛けるかの如く立て続けにメッセージを送り続けてきた。


 …勉強か、確かに嫌って程続けてきたな。

 でも大学に入ってからは、少しだけ娯楽にかける余裕も増えてきた。

 その後は就職して働いて…割と頑張ってたよな。

 そこから色々あって、エルメスのおかげでこの世界に来て。

 魔法とかハンターとか、新鮮なものにたくさん囲まれて。

 修行だなんて、漫画の世界みたいなことまで本気でしたりして。


「…色々、頑張ってきたんだよなぁ」


 力なく笑いをこぼし、俺は大きく息を吸う。

 そうさ…俺だって、それなりに努力はしてきたんだ。

 元の世界では力がなかったが、知識だけは蓄えてきた。

 この世界では知識などないが、力だけは人一倍に備わっている。


 だったら、その2つを掛け合わせればそれなりにまともなモノが出来上がるんじゃないか?

 今こそ、これまでの集大成を飾る時なんじゃないのか?

 流され続けるだけだった、"良い人"から。

 自分を信じて歩み続ける、"悪い人"へ。


「…一丁、本気出してみますか」


 我ながら、単純だと思う。

 少し背中を押されただけなのに、こうもやる気に差が生まれるのだ。

 だけど、単純というのも時には悪くない。

 男ってそういうものだろう?


 カミフォンを握る手へ、無意識の内に力が入る。

 タッチパネルを軽快にフリックし、ジワジワと頭の中に浮かんでくる作戦をエルメスへ相談していく。

 正直、出来るかどうかは分からない。

 だけどやるんだ。

 やるしかない、やってみせる。


HER.:…面白いね、作戦としては中々だと思う。でも、本当に出来るのかい?君はその手を、血に染めることになるかもしれないよ?

Lock:断言は出来ない。でも、全力は出すつもりだ

HER.:…そうか。なら僕も、ここまでの成果とこれからの進行に期待して追加報酬を前払いするとしよう


「追加報酬?…熱っ!?」


 エルメスのメッセージを復唱した瞬間、カミフォンを握る俺の左手に激しい熱が生じた。

 突然の出来事に驚き、俺は堪らずカミフォンを手放す。

 火傷を心配しながら左手に目を向けると、掌に小さな円形の模様が描かれていた。

 しかし、円は仄かに光を放つと黒い光と白い光に分散し瞬く間に掌から模様が消えてしまう。


 あっという間の出来事に呆けながらも、俺は再びカミフォンを手にとった。


Lock:エルメス、今のは何だ?

HER.:追加報酬のアビリティ"コード:エルメス"だよ。伝令神の加護のバージョンアップ版だね。同時習得の"展開(インストール)"を使えば一時的にだけど、邪神エルメスの力を引き出すことが出来るようになる。…でも、これは切り札だ。神様の力を使うわけだからね、身体にかかる負担は洒落にならないだろう

Lock:…分かった。


 此処に来て新技か。

 しかもエルメスの説明からすると超強力な技のようだ。

 加えて、伝令神の加護がバージョンアップされたということは、俺の身体強化と魔力耐性も強化されているということだろう。


 ハンターカードを取り出し、自分のステータスを確認する。

 すると、アビリティ欄から"伝令神の加護"が消え、新たに"コード:エルメス"という項目が加わっていた。


===============


アビリティレベル ll


身体強化 ll

魔力耐性 ll

魔力操作 l


===============


 …どうやら、完全に"伝令神の加護"の上位互換らしい。

 元あった能力は一段階ずつ強化されているし、新たに魔力操作の能力も増えている。

 ついでに、"展開"の説明文は以下のとおりだ。


===========


スキルレベル l


コード属性の能力を自身に展開する。


===========


 コード属性というのは恐らく、"コード:◯◯"という名前のアビリティのことだろう。

 つまり、エルメス以外にも色々と種類は存在することが予想される。

 とはいえ、今はエルメス以外のコードについて考える必要はないだろう。

 あくまでこのスキルは最後の切り札…出来ることなら使わずに済ませたい代物なのだ。






 翌日。

 昨夜に引き続きエルメスと入念な作戦の相談を行った後、俺は町役場へと向かった。

 セラと直接会うためではない、彼女に手紙を届けるためだ。


 役場内に入ると、一人の女性職員が俺の顔を見てにこやかに挨拶をしてくれた。

 直後、少々困った様子で「町長はまだ来ていません」と教えてくれる。

 どうやら、俺が昨日セラと一緒に居たのを見ていたようだ。


「そうですか。でしたら、此方をセラさんに渡して頂けますか?」

「手紙、ですか?…すみません、大変失礼だとは思うのですが念のため魔力チェックをしてもよろしいでしょうか?」

「魔力チェック?」


 俺が手紙を差し出すと、女性職員はそう言った。

 要約すると、友人といえども町長は町長なので、危険物でないか確認したいということらしい。

 当然といえば当然だな。


「構いませんよ」


 とはいえ、本当にただの手紙なのだから問題はない。

 職員に「必ず読むように伝えてくれ」と念を押し、俺はハンターズギルドへと向かった。








「あっ、ロックさん!」

「おうロック、昨日はどうしたんだ?」


 俺がハンターズギルドに着くと、そこには既にロゼッタとスナッツの姿があった。

 普段より少し早めに来たつもりだったんだが…。


「悪いな二人とも。昨日は昼過ぎぐらいに合流しようと思ってたんだが、思ったより用事が長引いちまったんだ」


 ヒラヒラと手を振ると、二人は安心したようにいつも通りの笑顔を浮かべてくれた。

 どうやら、レイザス側から何かされたりはしていない様だ。


「そうだったんですか、心配したんですよ?」

「急用なら無理にとはいわんが、次からは可能な限り受付嬢に伝言を頼むなりメモなりで連絡してくれ」

「あぁ、次からはそうするよ」


 受付嬢は伝言とかもしてくれるのか、覚えておこう。

 …とはいえ、"次"があるのかどうかは分からないが。


 その後、俺達は2日ぶりのクエストへと向かった。

 クエスト内容は「フォレストウルフの討伐」…文字通りオオカミ狩りだ。

 フォレストウルフは基本的に群れで行動しており、知能が高く、攻撃力も高い。

 おまけに移動速度もかなり早いため、トルテラ周辺の森にポップするモンスターの中ではトップクラスの危険度を持っているとされる。


 しかし高い攻撃性の反面、彼らは耐久性に欠けていた。

 フォレストベアよりも、フォレストボアよりも、挙句の果てにはロックビートルよりも柔らかい。

 その為、落ち着いて対処すれば大半の個体は一撃必殺ワンショットワンキルすることが可能だ。

 勿論、俺たちが大事なく依頼を遂行できたのは事前にスナッツからフォレストウルフの具体的な対処法を教わっていたからだろう。

 昼前から始まった狩りは日が暮れ始める頃に終わり、最終的には依頼内容で報告されていた2つの群れとその残党を討伐していた。


「いやぁ、さすがにフォレストウルフは足が速かったなぁ。ロックがいなけりゃ一日中追いかけ回す羽目になってただろうよ」

「本当ですね、ロックさんの脚力は凄いです。ケンタウロスか何かの生まれ変わりなのではないですか?」

「違いねぇ」


 森からトルテラへと戻る帰り道。

 スナッツとロゼッタは楽しそうに談笑しながら歩いていた。


「…あれ、おいロック。どうかしたのか?」

「ん、いや…」


 そんな二人の様子を眺めていると、スナッツが怪訝そうな顔で此方を見つめてくる。

 相変わらず鋭い男だ、このちょび髭は。


「あまり顔色が良いように見えませんが…もしかして、まだどこかに怪我でも!?」

「違う違う、怪我なんてこれっぽっちもしてないさ」


 曖昧な返事を返した俺に、ロゼッタも心配そうに見上げてくる。

 慌てた様子で魔力干渉による治療を行おうとしてくるが、俺は両手を振ってその可能性を否定した。

 フォレストウルフの攻撃によって受けたダメージは、既にロゼッタ自身によって治療されている。


「じゃぁ、ロゼッタちゃんのケンタウロス呼ばわりが気に食わなかったとか?」

「えぇ!?す、すみません…悪気があったわけじゃないんです…!!」

「それも違う、別に怒ってなんかいない」


 スナッツの茶化しを、ロゼッタが本気で捉えた。

 慌ててオロオロする彼女の姿は、まるで小動物のようで可愛らしい。

 いつも真面目で冗談に弱くて…本当に純粋だ、この娘は。


「だったら、どうしたっていうんだよロック?」

「そうですよ、何かあったなら話してください?私達、パーティーなんですから!」


 何時までたっても回答に渋る俺を、二人は気に掛けるように問いただす。

 そんな彼らの顔を見て、俺は改めて決意を固めた。

 二人を危険な目には巻き込ませない。

 この作戦は、絶対に成功させるんだ。


「…実は、大事な話がある。でも今は言えない」


 そして、俺は二人に今夜10時頃会う約束をした。

 待ち合わせ場所はトルテラから少し離れた場所にある森の一画。

 俺が初めてこの世界に来た時の場所だ。

 俺の言葉に二人は少し歯切れの悪そうな顔をしていたが、少しだけ考える素振りを見せた後には笑ってくれた。


「約束だぜ、今度は無断で遅刻したりするなよ?」

「言いづらかったら、無理はしないでくださいね。私はいつまでも待ちますから」

「…あぁ」


 その後は今までの依頼後と同じようなパターンだった。

 三人で談笑を交えつつ依頼の反省点や良かった所などを話し合いながらトルテラへと帰還。

 ハンターズギルドでクエストの報告を行い、報酬を山分けして解散だ。

 今回の報酬は一人当たりちょうど金貨1枚。

 フォレストウルフ一体当たりの報酬で考えると少し安い気がするが、基本的にフォレストウルフの討伐は群れ単位で行われるため最終的には妥当な金額になるようだ。

 そして、ハンターズギルドを出て別れる前にもう一度だけ二人と夜の約束を確認し、俺は宿へと…。


…戻らなかった。







 ハンターズギルドから離れ、宿屋とは別の方向へと足を運ぶ。

 大通りを歩き続けるに連れて人影は徐々に疎らになっていき、道も細く暗いものへと変わっていった。

 手入れの行き届いていない家屋、落ち葉の目立つ道。

 この周辺はスラム街とまでは言わないが、少しだけ貧しい雰囲気の漂う区画だ。


 やがて周囲に人目を感じなくなった頃、俺は目に入った路地裏へと進む。


 路地裏の道はゴミなのかゴミでないのか分からないものが散乱しており、足の踏み場も割と怪しいものだった。

 それらを適当にどかしながら、路地裏の曲がり角を何度か曲がる。

 どこか特定の場所を目指している訳ではない、むしろ自分が今どこにいるのかよく分からないぐらいだ。

 だが、今回はそれでいい。

 多くの人にとって"よく分からない場所"にたどり着きさえすればいいのだ。


 そして、最後の曲がり角を曲がった所で俺は深く息を吐いた。

 呼吸を整え、周囲の様子に耳を澄ます。

 傾き始めた西日も、この路地裏を照らすことはない。


 暗い空間にポツリと佇みながら、俺は周囲の魔力を"探った"。

 時を重ねるに連れて、自分の感覚がより鋭くなっていくのを実感する。

 路地裏の構造、足元に広がる散乱物。

 魔力を持たないオブジェクトの配置を感知しながら、俺はその有効範囲を少しずつ広げていった。

 …そして、有効範囲が今まで進んできた曲がり角を2つ程隔てた場所まで広がった時、ついに一つの魔力を"探り当てる"。


 小さな反応だが、誤感知ではないだろう。

 微弱ながらも揺らぎを感じさせるその反応は、魔力自体が小さいというよりは出来る限り目立たないように潜んでいるといった印象を受ける。

 …ビンゴだ。


 感知した対象に向かって思い切り地を蹴り、俺は全速力で接近を試みた。

 曲がり角で軌道を変え、2つ目の曲がり角では高く跳躍し、対象の横に立つ壁を蹴る。

 そうして、俺は"待っていた"相手の背後へと回りこむことに成功した。


「動くな」

「…っ!?」


 相手の背中にダガーを突きつけ、小さく呟く。

 あまりに突然かつ予想外の展開に、どうやら相手も困惑しているようだ。


「幾つか質問に答えてもらう。正直に答えてくれれば危害は加えない」

「…な、なんのつもりですか…?貴方は誰です…?」


 俺の要求を聞いて、相手は両手を上げながら問いかけてきた。


「とぼけても無駄だ、レイザスの部下なんだろ?」

「何の話です…?人違いなのではないですか…!?」

「…正直に答えろ、と言っているんだ」


 相手の背中に触れているダガーを少しだけ押し込み、相手を脅す。

 より鮮明に感じた凶器の感覚に、相手は「ひっ…」と小さく声を漏らした。


===============

シャラウ(Lv9) [狩人]


エイモンド兵団所属


アビリティ -

スキル :

・隠密 l

===============


 俺の視界に映る、"相手"の情報。

 "邪眼"の効果の前ではいくら身元を誤魔化そうとしても無駄だ。

 エイモンド兵団に所属していて、"隠密"などというスキルまで所持している始末。

 疑う余地など微塵もない…完全に偵察兵だ。


「あ、あの…ですから、人違い…」

「…一度痛い目に遭わないと分からないのか、シャラウちゃん?」

「な、何故私の名前を…!?」

「大きな声を出すんじゃない…殺すぞ」

「…っ!す、すみません…!」


 それでもどうにか誤魔化そうとするシャラウを名指しで警告する。

 すると、自分の名を呼ばれて驚いた彼女はビクリと身体を震わせた。

 自分の背中に触れているダガーに力を込められ、堪忍したかのように謝罪の言葉を漏らす。


「最後のチャンスだ…君はレイザスの部下だね?」

「は、はい…。コルマ部隊長率いるレイザス様の直属部隊偵察兵、シャラウです…」

「いい子だ。もう一度言うが、俺の質問に正直に答えてくれれば危害を加えたりはしない。わかったね?」

「…わ、分かりました…」


 怯えた様子でコクリと頷くシャラウ。

 脅しを掛けてはいるものの、命を奪ったりするつもりは毛頭ない。

 彼女には悪いが…少しだけ饒舌になってもらうとしよう。


閲覧ありがとうございました。

おかしな点、気になった点等ございましたら、報告してくださると助かります。

また感想等、心よりお待ちしております。

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