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プチダークな俺のハンターライフ  作者: 秋ノ永月
序章:ガチビギナーな俺のハンターライフ
39/79

第37話:その二択に解なし

 2~3時間程の時が経っただろうか。

 生まれて初めて乗った馬車の旅を終えると、それなりに立派な作りをした屋敷へと案内された。

 お世辞にも快適とは思えない旅だったが、そんなことよりも意外な真実に俺は驚いている。

 馬車というものは想像以上にスピードが出ないのだ。

 自転車といい勝負なのではないだろうか?

 まぁ、競馬のように単騎で走るわけでもないし…当然といえば当然か。


「レイザス様、例のハンターをお連れしました」


 俺を広い屋敷内でしばらく連れまわした後、コルマは一際大きな扉の前で立ち止まると大きく声を張る。

 よく通るいい声だ、ただ耳元で叫ぶのはやめてほしい。


「入れ」


 コルマの声に対して、扉の奥から小さな声が帰ってきた。男の声だ。

 それに、なんとなくだが…嫌味な声にも聞こえる。

 傲慢というか、偉そうというか…そんなイメージ。

 おそらく、噂のレイザス様の声だろう。


「失礼致します」


 相手から見られるわけでもないのに、恭しく扉の前で頭を下げるコルマ。

 中々に忠実な男のようだ。


 お辞儀を終えると、コルマは扉をゆっくりと押し開けた。

 中の部屋は広く、扉から20m程先の場所には数段の階段があり、その上では金髪ショートの男がアームチェアに座っている。

 勿論、アームレストには肘をついていた。


 コルマは階段の前まで滑らかに移動すると床に片膝をつき、俺を腕で指し示す。


「この者がロック=トライブ。セラ様と密な仲を持つDランクハンターです」

「…ふん、名などどうでも良い」


 密な仲って…ただの知り合いなのだが。

 というか、今の台詞でレイザス様の表情が露骨に歪んだんですけど。

 コルマさん一言多くない?


「えー、この度はお招き頂きありがとうございます?」

「本来ならば貴様のような下賎な者が私に謁見することなどありえんことなのだ、感謝しろ」


 とりあえず社交辞令的に挨拶をしてみると、予想の斜め上を遥かに超えて見下されてしまった。

 どうしてこんなに踏ん反り返ることが出来るのか。

 貴族怖い、後で覚えてろよ。


「それで、私に何の用でしょうか?」

「ロック=トライブ、頭が高い!相手はレイザス=エイモンド様なのだぞ!」

「構わん、ネズミに作法を教えることなど徒労だ」

「はっ、これは余計なことを」


 とりあえず要件を聞き出そうと口を開くと、コルマが膝をついたまま叫ぶ。

 頭が高いって、生まれて初めて言われたよ。

 そんな俺をネズミ扱いして許してくれるレイザス様は実にお優しい。


「貴様を呼びつけたのは他でもない、私のセラに二度と近付くな」

「…はぁ、なるほど」


 レイザスが口にした大体予想通りの言葉に、俺は拍子抜けしてしまう。

 完全に嫉妬だよ、恋する貴族だよ。


「あの娘は本当に素晴らしい。森しかない田舎町を僅か数年で興す程の実力を持ちながらにして、若く、美しく、未来がある。その才能は我が血筋を支える者として申し分のないモノだ」


 俺が力のない返事を返すと、それまで不機嫌そうだったレイザス様の顔は急に晴れやかになり、自分に酔いしれながらセラを褒め始めた。


「だから私は彼女に言ったのだ、我が側室に来ないか、と。すると彼女はこう言った、あの田舎町がもう少し発展したら是非とも、とな。だから私は彼女に金を渡したのだ。あんな田舎町、そうそう簡単に発展するものでもないからな。しかし実際はどうだ?彼女は渡した資金を全て使い切っても、一向にあの町から離れる素振りを見せない。それどころか、偵察の報告によれば以前よりも更に献身的に仕事を行っているというじゃないか。話が違う!!」


 晴れやかだったレイザスの表情が急激に曇り始め、遂にはアームレストに拳を叩きつける。


「この私が、あんな田舎町の為にいくら融通してやったと思っているのだ!一介の小娘に貢ぐ程の金額ではない!」

「レイザス様、気をお鎮めください…」


 突然怒りを露わにしたレイザスを慌てた様子でコルマが宥める。

 随分と落ち着きのない貴族だ。


「それで、ムカついたからセラに呪いをかけたのか?」

「…ほう、そこまで気付いていたか。その通りだ、中々私のものになろうとしないあの娘に対して私は他者と疎遠になる呪いをかけた…確かにかけたのだ。にも関わらず、今でも彼女は素知らぬ顔で町長を続けている。挙句の果てには貴様のようなネズミ風情と仲を深めている!」


 立ち上がるレイザス。

 こうもあっさり自白してくれるとは思わなかったが、扱いやすくて助かる。

 とはいえ、ここまで短気な男の言葉を安易に信じるのは危険だろう。

 とりあえず"邪眼"しておくか。


==================

レイザス=エイモンド (Lv23) [貴族]


ルリエル社交界所属


アビリティ :

・エイモンドの血縁

スキル :

・"好意転換"の呪い[効果]


==================


 …おう。

 Lv23だってよ…コルマよりも高いじゃないか。

 見たところ戦闘系のスキルやアビリティを持っているわけではなさそうだが、どういうことだろう?


 とりあえず、[貴族]の詳細を見ておくか。


==================

クラスランク -


爵位をもつ家庭の一員。

発言力が高まり、集団を動かす能力が上昇する。

資金に応じてその規模は変化する。


==================


 …えーっと。

 つまり、金に物を言わせるクラスってことですかね。

 資金に応じてって…それ当然じゃないですか。

 確かに、金だけあっても人望や地位が全く無かったら人やら物やらを集めるのに限界とかあるのかもしれないけども。


 まぁ、クラスの説明に突っ込んでいても仕方がないか。

 ついでにアビリティとスキルも見ておこう。


===================

アビリティランク -


エイモンド家の血筋


===================


===================

スキルランク ll


アイテム効果。

対象に"好意転換"のアビリティを付与する。


===================


 アビリティの方は特に何もないようだ。

 ただの血統書みたいなものだろう。


 一方、スキルの方は興味深い。

 なにせスキルランクが2だ、俺の盗取に匹敵する能力を持ってる。

 しかし、アイテム効果というのはどういうことだろう?

 ステータスの右部にも[効果]とついているし…。

 呪いの効果を持ったマジックアイテムか何かを持っている、という意味か?


「まったく、あの呪術師は当てにならん…。紛い品を売りつけおって」


 あぁ、どうやらマジックアイテムの線で概ねあっているようだ。

 しかし…好意転換もアイテム頼りだとすると、このレイザス様ってかなりの無能なのではないか?

 貴族クラスは金がなければ何もできないし。

 ルリエル社交界とかいうお洒落な場所に所属しているらしいが、この性格だとあまり高貴なイメージもできん。


「お言葉ですが、私とセラは特別な関係ではないですよ。偶然話をする機会があっただけです」

「白々しい嘘を言うな、既に報告は聞いている。それとも何か、貴様は今まで一度も訪れていない役場に偶然訪れ、偶然あの娘と出会い、偶然役場内で会話をしていたというのか?」

「…」


 今朝のことか。

 役場前で出会ったのは完全に偶然ではあるのだが。


「貴様はDランクハンターの割に、中々腕が立つようだな。先日も私の偵察兵を一人追い詰めたそうじゃないか」

「偵察兵?」

「昨夜、監視中だった偵察兵がお前から謎の攻撃を受けたと聞いている。おかげで今朝はこのように強引な手段をとる羽目になってしまった」


 疑問符を浮かべる俺に、コルマが説明を補足した。


 昨夜の偵察兵…か。

 どうやら、俺に魔力干渉を仕掛けてきた人物のことのようだ。

 偵察って相手に気付かれないように慎重にするものじゃないのか…?

 いや、というか待て。

 じゃあ何か、俺が書院に行った日には既に監視が始まっていたってことか?

 なんてこった…。


「そこでだ。貴様、私に協力しろ」

「協力?」

「そうだ。あの娘は貴様に対して心を許しているようだしな、彼女を誘拐してこい」

「…断る」


 名案だろう、とでも言いたげな顔で見下ろしてくるレイザス。

 突然何を言っているのだ、この能無しは。

 というか先程、自分で「二度と近付くな」とか言っていた癖に…。


「…ロック=トライブ。お前には2人のパーティーメンバーがいるそうだな」

「それがどうかしたのか?」


 その時、拒絶の意を示した俺に対してコルマが再び口を開いた。

 俺のパーティーがどうした、突然何を言い出すんだ?


「Bランクハンター、スナッツ=ミックラル。Dランクハンター、ロゼッタ=ビスク。パーティーの結成から日は浅いが、お前達のパーティーは素晴らしいペースで高難易度のクエストを完了させていっているそうだな」

「だから、それがどうしたんだ」


 どうやら、俺の身の回りのこともそれなりに調べているようだ。

 しかし、今の状況とそれがどう関係してくるというのだろう。

 そんな俺の疑問に、嫌らしい笑みを浮かべたレイザスが答える。


「こういった期待の新人というものは時折現れるものだ、実に喜ばしい。優秀な人材というのは人々の宝だからなぁ。だが、そういった新人に限って…突然不幸が訪れることがある」

「おい、まさか…」


 じわり、と額に汗が浮かぶのを感じた。


「いやぁ、偶然というのは恐ろしいものだからな。不慮の事故というのはよくある話だ…特に、ハンターという生業を持つ人間はね」

「…二人に何をするつもりだ」

「おやおや、人聞きの悪いことを言わないでくれ。私はあくまで世間話をしているだけだよ、ハンター(・・・・)君?」


 …迂闊だった。

 俺を名指しで呼びつける程だから俺一人で事が済むとタカを括っていたのだが…ただの能無しという訳ではないようだ。

 まさかここまで相手が周到に手を回していたとは。


 もしも俺の場合と同様に、今この瞬間も二人に監視の目がついているのだとしたら非常に危険だ。

 …この男なら、一時の気まぐれで二人に危害を加える可能性も否定できない。


「そういえば、先程の返事がよく聞こえなかったな」

「…っ」


 必死で思考を巡らせていると、レイザスがニヤリと笑いながらアームレストに肘をついた。

 どうする…どうすればいい。

 今この場で、何が最善の判断なんだ。

 考えろ、もっとよく考えろ。


 セラを助けるためには呪いを解かなくてはいけない、誘拐なんて論外だ。

 だが、ここでレイザスの頼みを断ったらスナッツ達の身が危ない。

 ならば、セラを誘拐する?

 いやダメだ…こんな能無しの勘違い野郎に彼女の身柄を受渡したら何をされるか分からない。

 軽い気持ちで呪いをかけるような男だぞ、良い扱いを受けるとは思えん。

 …しかし、それではスナッツ達が…。


「トルテラ町長セラの誘拐依頼…受けてくれるな、ハンター君?」

「…っぐ…」


 表情を見なくても分かるほどに、下卑た笑いを含ませた声のレイザス。

 俺の隣では、コルマが無言で此方の様子を伺っているようだ。


 あぁくそ、頭が痛い…最適な解を見出だせない。

 セラをとるか、パーティーメンバーをとるか…こんな二択、答えられるわけがない。

 答えられるわけがないんだ。


…そして俺は、小さく首を縦に振った。


閲覧ありがとうございました。

おかしな点、気になった点等ございましたら、報告してくださると助かります。

また感想等、心よりお待ちしております。


12/29:若干の表現修正を行いました。

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