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プチダークな俺のハンターライフ  作者: 秋ノ永月
序章:ガチビギナーな俺のハンターライフ
22/79

第21話:魔力を帯びた剣

「うわぁ、凄いです。こんなお店があったんですね!」


 町の大通りから少し離れた場所に位置する、小さな店。

 その中で、多種多様な剣に囲まれながらロゼッタは感嘆の声を漏らした。


「まぁ、目立たない店だからな。ロゼッタちゃんが知らないのも無理はないさ」


 そんなロゼッタを見て、案内人スナッツが笑みを零す。

 確かに、俺もこの辺りには足を運んだことはない。

 というか、目的もなく足を踏み入れるような通りではないと思う。

 人通りも少なく、道も狭い。


 こんな穴場みたいな店を知っているとは…さすがのちょび髭ハンターである。


「ここの店主は俺の知り合いでな、たまに飲んだりするんだよ。いつも暇そうにしてるんだが…今日も暇そうだな。少し話してくる、ゆっくり見ててくれ」


 ヒラリと手を振り、スナッツは店の奥へと消えていった。

 そうか、知り合いの店だったのか。

 友人ならたくさん居る、と言っていたスナッツの話の信頼度が上がったな。


「えーと、どれにしようかなぁ」


 口元に手を添えながら、樽の中に沢山詰め込まれているソードを見比べているロゼッタ。

 大変可愛らしい台詞と素振りには全く似合わない商品選びである。

 全く同じシチュエーションで、おやつのケーキを選んでいても違和感など全くない。

 いやむしろ、そちらのほうが正しい気がする。


「ロゼッタは、剣の目利きができるのか?」


 結構慎重に品定めをしているロゼッタに、問いかける。

 昨日持っていたショートソードと同じような長さの剣を探している、というわけではなさそうだが。


「剣の良さが分かる、なんて大層なことではないですが…剣が帯びてる魔力を見比べることはできます。とても微弱ですが、何本かは綺麗な魔力を持っていますよ」


 …おぉ。

 ロゼッタさん、恥ずかしそうに言ってますけど…それ滅茶苦茶格好良いですよ。

 物が帯びている魔力まで分かるとは…。

 それも"魔導"のアビリティの恩恵なのだろうか。


 というか、魔力を帯びている剣とか言われると大分強そうに聞こえる。

 魔剣とか、妖刀とか…そういったレアアイテムなイメージだ。


「そんなセール品みたいな物の中にも、良い剣はあるのか…」

「せーる…?えぇっと…とは言っても本当に微弱です。私の魔力付与には耐えられそうにありません」

「魔力付与…って、あの光る剣のこと?」

「はい、そうです。あれは、剣に私の魔力を注ぎ込んで切れ味や射程を伸ばしたりしているんです」


 剣に魔力を注ぐ。

 そのフレーズに、俺は聞き覚えがある。

 セラから魔力の話を聞いた時に、魔力をモノに流しこむことで強化することができるという話もあった。

 確か…魔力の扱いを熟練していないとできない芸当とかなんとか言っていたような…。

 …ロゼッタって、実はかなり凄い人間なんじゃ…。


「ん…ちょっと待って。っていうことは、あの光る剣は魔法じゃないの?」

「魔法ではないですね、あくまで魔力を剣に付与しただけですから」


 剣に光が宿った時、確かロゼッタは

 "主"がどうとか唱えていた気がしたが…あれは魔法の詠唱とかそういうものじゃなかったのか?


「呪文みたいなこと言っていたような気がするけど、あれは?」

「えっと…魔力を操作するにはイメージすることが大切なんです。私は神に仕える身ですから…強い武器をイメージするときに、神々の武器をイメージしています。それで、その…」


 もごもごと言い淀むロゼッタ。

 まぁ、言いたいことは大体分かった。

 簡単にいえば、あの呪文は"気分を盛り上げる為の儀式"なのだろう。


「なるほどね…。魔力をたくさん帯びている剣ならロゼッタが魔力付与をしても壊れないの?」

「試したことはないので確証はないですが…多分そうだと思います。教会にいた頃、魔力を含んだ物質は魔力に対して耐久性が高いという話を聞いたことがありますから」


 ほう…。

 これは興味深いことを聞いた。

 ロゼッタは実に博識だ…大変素晴らしい。

 これはご褒美をあげないとな。

 これからも色々教えてもらわないといけないし…。

 授業料先払いだ、先行投資だ。


「ロゼッタ、実は俺もショートソードに興味があるんだ。選ぶの手伝ってくれないか?」

「あ、そうなんですか?私なんかで良ければ、構いませんよ」


 俺が頼むと、ロゼッタはニコリと微笑んだ。

 天使の微笑みだ。

 神に仕える者にふさわしい笑顔である。


「えーっと…予算はどれくらいですか?」

「ん、そうだな…」


 スナッツに金貨2枚の武器を贈ろうとしたら、ドン引きされてしまった。

 だとすれば、金貨1枚でも結構ヤバい贈り物になってしまうだろう。

 金貨1枚の半分ぐらいの価値なら大丈夫だろうか。

 しかし…金貨1枚の半分というのが、銀貨何枚に相当するのかが分からない。

 銀貨1枚で銅貨30枚っていうのは分かるんだが…。


「金貨1枚で、2~3本買えるぐらいのモノがいいかな」

「となると…銀貨10枚ぐらいですか。そうですね…」


 できるだけ頭が悪くなさそうな提案をすると、ロゼッタはさらりと返事をした後に剣を何本か見比べ始めた。

 あの計算で銀貨10枚ということは、金貨と銀貨の価値も1:30の計算で間違いないようだ。


「ロックさん、この辺りの剣がよさそうです」


 また一つ賢くなった自分に満足していると、ロゼッタが3本の剣を持って来てくれる。

 その内の2本は、昨日ロゼッタが持っていたものと同じぐらいの長さをした、ショートソードらしき剣。

 残る1本は、鞘に収まった小さな剣だ。短刀、というのだろうか?

 いや、脇差し…はたまた小刀?


「このショートソードは帯びている魔力量が多いんですが、少しムラがあります。此方のショートソードは、とても綺麗な魔力を帯びています。ですが、ロックさんにとっては持ち手が少し小さいかもしれません…。それと、ショートソードではないのですが、魔力がとても綺麗だったので此方のダガーも一応持ってきました。この3本の中で…いえ、この店の剣の中でもトップクラスに上質な魔力だと思います」


 手に持つ3本の剣を順番に差し出しながら、ロゼッタが解説してくれる。

 どうやら魔力には、ムラとか美しさといった質の差があるらしい。

 小さな剣は、短刀ではなくダガーと呼ぶようだ。

 元の世界でも、聞き覚えのある名前だな。


「んー、確かに。2本目の剣は俺には持ちづらいかもしれないね」


 差し出された剣を受け取り、持った感触を確かめる。

 ロゼッタの言う通り、2本目のショートソードは俺の手には合わないようだった。

 グリップ部分が少し細いのだ。

 俺の手は特別大きいとは思わないが…手が小さい人向けの武器なのかもしれない。


 ダガーの方は、悪くない握り心地だ。

 しっくりと手に馴染む感じがする。

 ロゼッタも推してるみたいだし、俺用に買ってもいいかもしれないな。

 このサイズなら嵩張(かさば)らないだろうし。


 1本目の剣は…まぁ、普通の剣だった。


「ロゼッタ。このショートソード、ロゼッタの手なら丁度いいんじゃない?」

「私、ですか?そうですね…。…はい、とてもいい剣です」


 ダガーを受け取るついでに、ロゼッタに2本目のショートソードを持たせてみた。

 すると、俺から少し距離を置き、何度か構えをとったり逆手に持ち替えたりし始める。

 どうやら、大分いい感じのようだ。


「そっか、分かった。じゃ、1本目の剣を置いてきてくれる?」

「ショートソードとダガー、両方を買うんですか?ロックさんなら、2本目よりも1本目の方がいいと思いますが…」

「大丈夫、ちゃんと考えがあるから」

「そうなんですか?分かりました、では置いてきますね」


 そう言うと、ロゼッタはダガーとショートソードを俺に託し、1本目のショートソードを棚に戻す。

 彼女が戻ってくると、俺は店の奥にあるへと向かう。


 レジに着くとそこには誰の姿も見えなかった。

 レジの奥からは、おっさんの笑い声が聞こえてくる。

 スナッツの声だ。


「あのー、お会計お願いしまーす!」


 少し大きめの声でレジの奥に呼びかけると、2人のおっさんが出てきた。

 片方はスナッツ。もう片方のおっさんは、日に焼けた肌でガタイがい。


「おう、毎度あり!あんたがロックか…中々の美形だな!」

「…そりゃ、どうも」


 店主と思わしき焼け肌おっさんは白い歯を見せてニッと笑うと、俺が手に持つ2本の剣を受け取る。

 そして2本の剣を見つめた後、感心したようにコチラへ視線を向けた。


「へぇ〜。ロック、あんた見る目があるな。この2本はウチの中でもかなりの品だぜ」

「選んでくれたのは俺じゃない。この娘さ」

「ほぉ…。やるな、お嬢ちゃん。どうだ、ウチの店で働かないか?いい仕入担当になれるぜ」

「えっ…!?あ、いや…それは、その…」


 俺が訂正すると、店主は唐突にロゼッタをスカウトし始めた。

 突然の出来事に、ロゼッタもどう答えたらいいかわからない様子だ。


「悪い、おっちゃん。この娘はウチの大切なメンバーなんだ。おっちゃんには譲れないよ」

「はっはっは!冗談だよ、冗談」

「なぁにが冗談だよ、お前顔がマジだったじゃねぇか」


 タジタジしているロゼッタに代わって、俺が店主のスカウトを断る。

 すると、店主の側にいたロゼッタが店主の脇腹を肘でつつきながら口を尖らせた。


「ま、2本で銀貨25枚だ。手持ちは足りるかい?」

「金貨1枚でいいかな?」

「もちろん、大歓迎さ」


 今一度、歯を見せて笑う店主。

 俺から金貨1枚を受け取ると、銀貨5枚を差し出してくる。

 金貨1枚で、ぴったり銀貨30枚なのだろうか。


「メンテナンスが必要になったら、何時でも持ってきてくれ。格安でサービスしとくからよ」

「あぁ、分かった」


 俺にダガーを手渡しながら、店主がちゃっかり宣伝してくる。

 とはいえ、アフターサービスもきちんとしてるのは好印象だ。


「お嬢ちゃんもな」

「えっ…あ、いや…これはロックさんの…」


 そして何より俺の印象を良くしたのが、店主はショートソードをロゼッタに手渡したことだ。

 戸惑いながらも、ロゼッタは差し出されたショートソードを仕方なく受け取る。


「ん?このソード、このお嬢ちゃんが使うんだよな?」

「あぁ、そうだよ」


 ロゼッタの言葉に、冗談だろ、とでも言いたげな表情をしながら俺に問いかけてくる店主。

 この店主…どうやらきちんと客のことを見ているようだ。


「えっ…えっ…?」

「じゃ、行こうかロゼッタ。スナッツも、もう出るか?」

「おう」


 状況が理解できない…といった様子のロゼッタを引っ張りながら、俺とスナッツは店主に手を振って店を出る。

 店の外に出ると、ロゼッタが革製の鞘に収められたショートソードを抱えたまま俺の腕を引っ張った。


「あ、あの…ロックさん?この剣…」

「あぁ。それ、ロゼッタへのプレゼント。大切にしてね?」

「…え、あの…えぇ…?」


 より一層困惑している様子のロゼッタ。

 そんな彼女を見て、スナッツが喉を鳴らし始める。


「くくっ…」

「何がおかしいんだよ、スナッツ?」

「いや何、予想通り過ぎてな…」


 やがてスナッツは堪え切れず、声を漏らしながら笑い始めた。

 その笑い声に釣られて、俺も自然と口元が緩む。

 ただ一人、ショートソードを抱えているロゼッタだけは呆然と立ち尽くしていた。


剣の買い物:金貨-1枚,銀貨+5枚

金貨1枚で銀貨30枚。

銀貨1枚で銅貨30枚。

銅貨1枚は1000円程度。

だとすれば、ロックが渡したショートソードの値段は…。


閲覧ありがとうございました。

気になった点等ございましたら、報告してくださると助かります。

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