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プチダークな俺のハンターライフ  作者: 秋ノ永月
序章:ガチビギナーな俺のハンターライフ
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第01話:転じて生じたハンターライフ



ーーーチャンスはあげるよ。







 誰かの声が聞こえた、そんな気がした。

 優しいような、意地悪なような、掴みどころのない声。


 「…う…んん…?」


 声の主を探すように意識を集中させると、なにやら優しい香りが俺の鼻孔をくすぐった。

 爽やかな、木々の匂いだ。

 心地のいい香りに目を覚ますと、朧気な視界には森が広がっていた。


「…どこだ、ここ…」


 見覚えのない森だ。

 全く知らない森で、幹の太い木に背中を預けながら、俺は座っている。

 周囲の様子を探ろうと辺りを見回すと、背中に小さな痛みが走った。

 どうやら、それなりに長い間もたれ掛かっていたらしい。


「…ん?」


 視界の隅で何かが光った。

 光のした方向へと歩み寄ると、そこには銀色の板が落ちている。

 拾い上げてみると、それは縦長の長方形をした薄い板。

 重さはほとんどなく、上辺には白いリボンがついている。

 例えるなら、そう、読みかけの本に挟む栞のようだ。

 どことなく美しい輝きを放つ栞をまじまじと観察し、銀色の栞を裏返す。

 すると、裏面には何かの記号が刻まれていた。

 ほとんどが見覚えのない記号の羅列だったが、上部分の文字だけは日本語で彫り込まれている。


 「…『旅のしおり』…?」


 銀色の栞に彫り込まれた文字を、俺は無意識のうちに発声した。

 直後、栞に彫り込まれていた記号が光を放ち始める。


 「うおっ、まぶしっ!?」


 突然の輝きに、思わず栞からの光を手で遮った。

 不意打ちで目くらましとは、なんて卑怯な栞なのか。

 新手のイタズラグッズか?


 数秒ほど経って、光は完全に収まった。

 恐る恐る目を開くと、先程まで栞を掴んでいた手に、その姿はなかった。

 代わりに、手の先には一枚の紙が掴まれている。


 (イタズラの次は手品か…?)


 怪しい、実に怪しい紙だ。

 A4ほどのサイズの紙が、三つ折にされて俺の手の中にある。

 しかし、いくら怪しいとはいえ、中身を見てみたいという己の好奇心には勝てない。

 既に栞でいっぱい食わされたのだ。命を取られるわけでもないだろう。


 自分にそう言い聞かせながら、俺は三つ折の紙を広げる。


 すると、そこには独特のフォントで日本語の文章がズラズラと書き綴られていた。


==========================


 神頼みの君へ



 詳細は省くが、君の願いは聞き入れた。

 この世界は君の元いた世界と違って、基本的に実力がものをいう世界だ。

 君にはそれなりの可能性を与えてある。適当に過ごしても不自由はしないだろうし、努力すれば君の望む悪人生活も堪能できるだろう。

 以降は、今後の立ち回りに対する私からのアドバイスだ。



 1.君のポケットに、ハンターカードと呼ばれるカードが入っている。この世界での身分証明書のようなものだ。


 2.ハンターカードには名前が入力できるようになっている。この世界での君の名前だ、好きに決めるといい。ただし、名前の変更は出来ない。吟味して決めた方がいい。


 3.この世界で生き残るために、君の身体能力はかなり高めに設定してある。それから、特殊な能力もプレゼントしておいた。詳しくはハンターカードを参照してくれ。



 最後に、君の存在はこの世界において極めて異常だ。判断は君に任せるが、異世界から来たというのはあまり公表すべきではないだろう。記憶を失っている、ということにして人と交流することをオススメするよ。



 本当に存在する神様より


==========================



 …ふむ、なるほど。

 あの栞は実は手紙で、それも差出人は神様だったということか。

 これはすごいな、イタズラとか手品とか、そんな次元ではない。

 本当にいたんだな、神様。

 …。

 なんてな、栞が手紙にすり替わっていたのは確かに驚いたが、今度のはあまりに突拍子過ぎて置いてけぼりだ。

 というか俺の願いってなんだ?

 俺の望む悪人生活って…俺がいつ悪人なんか望ん…。


 「…え、あれ…え!?」


 いや、望んだ…確かに俺は望んだ。

 というか俺は死んだ。

 自殺したのだ、自宅で首を釣って。

 そのはずなのに、俺は何故こうして生きている?


 縄で締められたはずの首に、そっと手を添えてみる。

 …うん、鏡もないし、よくわからない。

 少なくとも外傷はなさそうだが…。


 頭が混乱する中、俺はとりあえずズボンのポケットに手を突っ込む。

 手紙に書いてあった、ハンターカードとやらを確認するためだ。

 すると、ポケットの中には手のひらサイズのカードが入っていた。

 恐る恐るポケットからカードを取り出すと、そこには小さな文字で何やら色々と書いてある。


 名前、ハンターランク、所属ギルドにクラス。

 それぞれの項目には、名前の部分の空欄を除いて、Eランク、所属なし、無職と書かれている。

 名前部の空欄には文字の代わりに青い石がはめ込まれていた。


 「これが、ハンターカード…?」


 カード文字を指でなぞりながら、それぞれの項目を確かめていく。


 ハンターランクは…ハンターとやらのランクなのだろう。

 Eランクとかかれているからには、アルファベットでランクの高さが決まると見える。

 ギルドというのはよくわからないが…まぁ何かの団体だろう。

 ゲームなんかだとよく聞く単語だしな。

 それからクラスは…職業のことだろうか。

 …無職、か…。

 確かに会社からは首切りされたけども…。


 名状しがたい敗北感に苛まれながら、俺は名前欄にはまっている石に触れる。

 俺の指が触れると、石はカードから飛び出し、すぐ側の宙にふわふわと浮かんだ。

 大きさも変わっており、最初に拾った栞程のサイズに変形している。

 …これはもう、手品とかいうレベルじゃないぞ…。


 よく見ると、変形後の石には「Name? >」という表示がされており、右上の部分にはx印が円で囲まれていた。

 とりあえずx印に触れてみると、石は音もなく元の形へと再変形し、カードの名前欄へカチリと収まった。

 …すごい。


 ハンターカードを裏返す。

 裏面には、アビリティという項目とスキルという項目があった。

 アビリティ欄には"伝令神の加護"、スキル欄には"盗取(スティール)"と書かれている。

 盗取とは…なんだか狡いな。小物臭がするぞ。

 しかし、"伝令神の加護"というのは何だ?


 疑問に思い、アビリティ欄を指でなぞってみる。

 すると、"伝令神の加護"という文字が仄かに輝き始めた。

 文字の明滅に合わせて、文章が浮かび上がる。


===============


アビリティレベル l


身体強化 l

魔力耐性 l


===============


 …ふむ。

 どうやらアビリティとやらは効果を確認することができるようだ。

 熟語の後ろに添字されているギリシャ数字から察するに、アビリティというものにもランクが存在するのだろう。

 また、この中で一番目を引いたのが魔力耐性だ。

 この効果があるということは、この世界には魔力というものが存在するということを匂わせている。

 魔力か…オラ、ちょっとだけワクワクしてきたぞ。


 異世界だとか神様だとかに対していまいち実感が湧かないが、少なくとも悪い気はしない。

 本当に異世界とやらで俺の新しい人生が始まるというのなら結構。

 もし夢だとしても、目が覚めるまで精一杯楽しんでもバチはあたるまい。


 今はまだ、この不思議な現状に付き合うことにしよう。


 続いて、スキル欄に書かれている"盗取"にも指を添えてみる。

 すると思惑通り、"伝令神の加護"と同様にスキルに関する文章が浮かび上がった。


=============


スキルレベル l


触れている対象が所持しているモノを盗む。


=============


 …ふむ。

 大体予想していた通りだな。

 アビリティと同じように、スキルにもレベルというものが存在するのが少し意外だったが。

 スキルのレベルが上がるとどうなるのだろうか、盗める確率が上がるとか?


 まぁ、考えても仕方がないか。

 ハンターカードを再び念入りに調べてみるが、他にこれといったギミックはないようだ。

 とりあえず、アビリティの身体強化とやらがどれほどのものなのかを確かめてみよう。


 神様からの手紙を再び丁寧にたたみ、ハンターカードと共にポケットへと収納する。

 空いた両手を軽く開閉し、握りこぶしを作った。

 ボクシングの経験はないが、適当に見よう見まねのシャドーボクシングを試してみようと思ったのだ。

 両拳を体の前に構え、無駄な力を抜き、拳を突き出す。

 俺の拳の動きに合わせて、小気味よい風切り音が起きた。

 少し遅れて、足元ではふわりと小さな旋風が吹く。


「…おぉ」


 かっこいい。地味だが、地味なりにかっこいい。

 少しずつ、だが着実に俺のテンションが上がっている。

 次は何かを殴ってみようか。

 幸いなことに、周囲には有り余るほどたくさんの木々が生い茂っている。


 とりあえず、すぐ側に生えていた木の前へと歩み寄る。

 軽く木の幹を小突いてみると、トンという頼もしい音が聞こえてきた。

 …結構固そうだ、全力で殴るのはやめておこう。


 先程と同様に両拳を体の前に構え、少しだけ息を整える。

 軽く、それでも少しだけ力を込めて、拳を振りぬく。

 木の幹に拳がヒットすると、予想外に大きな殴打音と共に木の葉が舞い落ちる。

 強く殴りすぎてしまったかと一瞬不安になったが、幹を捕らえた拳に痛みは全くなかった。


「…おぉ…!」


 これは、結構すごいかもしれない。

 身体強化ってのは、力が強くなるだけじゃないらしい。

 これでも全く痛くないのなら、次は全力で殴ってみようか。


 再び呼吸を整え、今度は少し、拳を腰のあたりまで引き絞る。

 正拳突き、というやつだったかな?


 「きゃぁぁー!!」

 「!?」


 いざ目の前の大木にフルパンを叩き込もうとした時、俺の耳に悲鳴が聞こえた。

 女の子の声だ。


 「な、なんだ?」


 耳を澄ますと、なにやら遠くのほうから騒がしい音が聞こえる。

 あまり穏やかではなさそうだ。


「…行ってみるか」


 別に何をどうするというわけでもないが、俺は音のした方へと駈け出した。




閲覧ありがとうございます。

気になった点等ありましたら、報告してくださると助かります。

感想等もお待ちしております。

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