第14話:導く者へ導かれる者
森での"雷纏"秘密特訓を失敗した後、宿屋で食事を済ませ、俺はハンターズギルドへとやってきた。
ハンターズギルドの中は相変わらず賑わっており、鎧を着た性別不明の人物や、剣を腰に下げた男、斧を背負ったちょび髭など様々なハンターが互いに情報交換などをしている。
ちなみに、ちょび髭はスナッツだ。
「よう、スナッツ」
「ん、おぉロック!今日も早いな、またどこか案内して欲しいのか?」
スナッツの肩を軽く叩くと、ニコニコしながら話しかけてきた。
えらく機嫌がいいな、新しい斧のせいか?
「あぁいや、今日は此処に用があったんだ。スナッツ、お前の友人のハンターを俺に紹介してくれないか?」
「俺の友人?なんでまた?」
「色んなハンターと関わった方が、色々為になるかと思って」
「あぁー、なるほどな。いいぜ、紹介してやるよ。…っていっても、紹介できる奴なんてほとんどいないけどな!」
カラカラと笑うスナッツ。
Cランクハンターであるにも関わらず、交流関係は狭いのだろうか?
「スナッツ…お前、友達いないのか?」
「なんでそうなる!?」
なんとなく思ったことを、直球で問いかける。
すると、スナッツは心外そうに声を荒げた。
「いや、だって紹介できる人間少ないんだろ?」
「待て待て、お前が紹介して欲しいのは俺の友人じゃなくてハンターだろ!?同業者で仲の良い奴は少ねぇって話だよ!ただの友人なら山ほどいるわ!」
スナッツはそう言うと、俺を指差しながら「ちょっと待ってろ!」と捨て台詞を吐き、ギルドの外へと駆け出していった。
…そしてすぐに戻ってきた。
「…っと、今はハンターを紹介して欲しいんだったな。そこら辺に何人か居るからよ、すぐに会えるぜ」
スナッツは親指をグッと立て、再び「ちょっと待ってろ!」と笑うとギルドの奥で会話をしているハンター達の方へと向かっていった。
忙しいやつだ。
…そして、30分程時間が経過する。
「じゃぁね、ロック君。機会があればいつかクエストを共にしよう」
「はい、その時はよろしくお願いします」
握手を交わし、Cランク男性ハンターの軽戦士と別れる。
スナッツの友人ハンター、5人目だ。
5人目の男性でもあり、最後の一人でもある。
「どうだ、なんか参考になったか、ロック?」
「あぁ、色々参考になったよ」
5人のハンターから受け取ったハンターカードを整理しながら、隣で座っているスナッツに感謝する。
スナッツが紹介してくれたハンターはCランク4人にDランクが1人。
それぞれのクラスは軽戦士,重戦士,重戦士,剣士,戦士だった。
戦士以外の3クラスは、どれも戦士の上位職だ。
…いやいや、戦士に偏りすぎだろ。
魔法使いはどうした、魔法使いは?
類は友を呼ぶというやつか?
呼びすぎだろ!
あと男しかいないのか!
「なぁスナッツ、お前…」
「あ、あの!」
「?」
魔法使いの友人はいないのか。
そうスナッツに問おうとした瞬間、背後から声が聞こえた。
女の子の声だ。
振り向くと、そこには金髪の少女が立っていた。
此方を見上げて、なにか言いたそうな顔をしている。
俺に用だろうか?
「えーっと…俺に何か用ですか?」
「え、えっと…私とカード交換していただけませんか?」
「おいおい!なんだよロック、モテる男はつらいなぁ!」
「…?」
少女がハンターカードを胸に抱えながら、上目遣いでこちらの表情を伺っている。
その様を見て、スナッツは突然立ち上がり、俺の背中をバシバシと叩き始めた。
痛いな…なんだよ、モテるって?
カード交換だろ?
「構いませんよ、どうぞ」
「あ、ありがとうございます!!」
スナッツの言う意味がよく分からないまま、俺は少女にハンターカードを差し出す。
すると、少女は慌てた様子で俺のカードを受け取り、代わりに自分のカードを差し出してきた。
俺が少女からカードを受け取ると、スナッツは唐突に俺の首に手を回してくる。
そして、無理矢理ぐいと俺を引き寄せると、耳打ちをしてきた。
「おいロック…お前、そのカード交換の意味が分かってるのか?」
「意味?ただのカード交換じゃないのか?」
「バッカ、ちげぇよ。パーティーを組んでもらえませんかって意味だ。…まぁ、知ってるわけ無いよな…。悪い、俺が教えておけばよかったな」
へぇ、そういう意味が隠されていたのか。
パーティーを組みたいなら組みたいと、そう言えばいいと思うのだが…。
ハンターなりのマナーみたいなものなのだろうか?
面と向かって直接的にパーティーに誘うのは、あまり良いことじゃないのか?
うーん、相変わらずの知識不足だ。
「どうすればいいんだ、スナッツ?今からでも謝って、カード返したほうがいいのか?」
「いや、それはさすがに可哀想だろ…相手は女の子だぜ?しかも、さっきの喜びよう…お前に何か思い入れでもあるんじゃないのか?」
「思い入れって言われてもな…」
「とにかく、今から断るのはあまり褒められたことじゃない。仕方ないから、俺とのパーティーは一旦解散してその子と何かクエストを受けてこい。難易度は、その子に合わせろよ?」
そこまで言うと、スナッツは俺の首から手を放した。
その後、俺の背中を一発強く叩くと足早に受付の方へと立ち去っていく。
だから、割と痛いんだって…。
「え、えぇと…ロックさん。あの方はロックさんのお友達ですか?」
「え、あぁうん。まぁ、そんなとこだよ。えぇっと…」
少女の名前を確かめるため、受け取ったハンターカードへと目を落とす。
ロゼッタ=ビスク、Eランク、教会ギルド、修道士。
…おぉ、教会ギルドに修道士。
完全に新しいタイプのハンターだな。
って、修道士は戦闘ができるのだろうか?
「よろしくね、ロゼッタさん」
「は、はい!よろしくお願いします!」
手を差し出すと、ロゼッタはワタワタしながら俺の手を掴んだ。
なんだか、忙しい子だな。
彼女の装備を見てみると、普通にハンターらしい軽装備をしていた。
とてもじゃないが、一見して修道士とは思えない。
腰からは短い剣をぶら下げている。
確か、昨日行った武器屋ではショートソードとか呼ばれていたはずだ。
修道士なのに、十字架とかで戦ったりはしないのだろうか?
…十字架でどうやって戦うのかは想像できないが。
ロゼッタとの握手を終え、互いに手を放した。
その際、すかさず俺はポケットにしまいながら彼女のハンターカードの裏面をチェックする。
スナッツの友人5人のカードも同様の方法で全てチェックしたが、彼らはスナッツと同じくスキルもアビリティも持っていないようだった。
あまり、アビリティ等を持っている人間はいないのだろうか。
できれば色んな種類を知っておきたいのだが…。
などと考えつつ、俺は半ば諦め気味に視線をカードへと向ける。
すると、予想外にも彼女のアビリティ欄には項目が一つだけ書いてあった。
意外だ…彼女はEランクなのに。
って、俺もそうだったか。
アビリティは生まれつき持っていたりするものなのだろうか?
わずかに驚きながら、俺は目を凝らし、ロゼッタのアビリティ欄に刻まれた文字列を解読する。
すると…。
「…っ!?」
彼女のカードに刻まれていたアビリティを見て、俺は息を呑んだ。
そんな…見間違いではなかろうか?
「…ロックさん、どうかしましたか?」
「え、あぁいや、なんでもないよ?」
突然様子が変化した俺を、不思議そうな目で見てくるロゼッタ。
いけない…不審に思われても良いことはない。
俺は慌ててカードをポケットの中に突っ込んだ。
いや、しかし…このタイミングで、まさかこんなアビリティを持った人間に会えるなんて…。
頬を伝う汗を感じながら、俺は首を傾げている少女をなんとか笑顔でごまかす。
焦るのだって、無理は無い。
なぜなら、彼女のアビリティ欄には…。
…"魔導"の文字列が刻まれていたのだから。
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