第12話:紐解かれゆく謎
あ…ありのまま、今起こったことを話すぜ。
俺がハンターカードの形状変更について悩んでいたと思ったら、何時の間にかスキル欄に"雷纏"という項目が増えていた。
な…何を言っているのかわからねぇと思うが、俺も…
「詳しく!」
自分の中で奇妙に広がる困惑の波紋を吹き飛ばし、俺は"雷纏"の項目に指を添える。
すると、俺の期待通り"雷纏"の文字は仄かに輝き、文章が浮かび上がって来た。
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スキルレベル l
体表周囲の魔力に雷属性を付与する
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…お、おう。
思いの外に理解しづらい説明をされ、苦笑いを浮かべることしかできない。
とりあえずカードから指先を話すと、難解な説明文はふわりと消えた。
説明ありがとう、ハンターカード。
さて…体表周囲の魔力に雷属性を付与する、か…。
いまいちよくわからないが、"魔力"という単語と"雷属性"という単語から、魔法っぽさは感じる。
…まじか。魔法なのか、これ?
期待と困惑が入り交じる中、ハンターカードに書かれた"雷纏"の文字を見つめる。
…"雷を纏う"、か。
スキル名からは、説明文だけでは釈然としない新スキルのイメージがなんとなく伝わってくる。
魔力を使うことにより、穏やかで純粋な心を持ちながら強い怒りを覚えた戦闘民族のようになれるスキルなのではないだろうか。
強化系の魔法、って感じだろう。
多分。
…いや、しかし…。
「…ふひっ」
…いかん。
「…ふひひっ…」
まずい…このままでは、抑えきれない…!
「…ひぃやっふぅぅー!!」
魔法の力を手に入れた喜びが、抑えきれるわけがなぁい!!
オーバーオールを着たちょび髭配管工よろしく高い声を上げながら、俺はベッドから立ち上がる。
あぁ、素晴らしい。
なんて最高な気分なんだ。
愛してるぜハンターカードちゃん!
手の中にあるハンターカードに軽くキスをし、今一度スキル欄を確認する。
…うん、間違いない。見間違えじゃない。
俺は、念願の、魔法を手に入れたんだ!
自分の口角が上がりっぱなしなのを自覚しながら、俺は再び"雷纏"の項目に指を伸ばす。
だがしかし、テンションが急上昇したせいか俺の手元は安定していなかった。
僅かに行き先を誤った俺の指先は"雷纏"の項目には触れず、偶然にもその上にある"盗取"へと触れてしまう。
すると当然、"盗取"のスキル説明文が表示された。
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スキルレベル ll
触れている対象が所持しているモノを盗む。
-- 空きスロット 1 --
・雷纏
・
==========
…うん?
なんだ、この表記は?
俺の知ってる"盗取"のスキル説明文と、少し違うぞ。
空きスロットなんて、新出単語のはずだ。
それに…空きスロットの下に書いてある項目。
紛れも無く、俺のテンションを有頂天まで達させた単語である。
「なんで…ここにも"雷纏"が書いてあるんだ…?」
落ち着け、落ち着くんだ。
冷静に考えろ。これはきっと、考えれば分かるタイプの謎だ。
深呼吸をしろ。素数を数えるんだ。
よし。
1…は素数じゃないんだよ落ち着け…!!
「…すぅー…はぁー…」
混乱している脳に、新鮮な酸素を供給する。
何度か深呼吸を繰り返す内に、頭の熱が冷めてきた。
…ふぅ。
さて、改めて考えよう。
まずは"盗取"の新しい説明文についてだ。
この説明文ではスキルレベルがllになっているが…一昨日見た時にはlだったはずだ。
何故かレベルアップが起きているな。
次に、その下の説明文。
"触れている対象が~"のくだりは、以前見たものと代わりはないようだ。
よしよし、順調に考察できているぞ。
そして最後に、謎の「空きスロット」項目だ。
隣にはアラビア数字で「1」と書いてある。
スキルレベルの表記はギリシャ数字なのに、この違いは意味があるのだろうか。
それから、その下に書いてある"雷纏"の文字。
これはおそらく、先程俺が狂喜乱舞していた強化系魔法(仮)の"雷纏"で間違いはないだろう。
さらにその下には、「・」だけが寂しげに表記されている。
…この情報から察するに、"雷纏"の下にある「・」部分の空白が空きスロットを表しているのではないだろうか。
というか、"空き"スロットという表現からするとつまり、"雷纏"が2つあるスロットの内1つを埋めたということになる。
…"盗取"の空きスロットを1つ埋めている、"雷を纏う魔法"。
一度頭を冷やしたおかげで、俺はこのキーワードに覚えがあることに気がつくことができた。
言わずもがな…フォレストボアエルダーの魔法である…。
奴の使っていた魔法に、似たような魔法があった。
正確には魔法陣内へ敵が侵入した際に雷が襲いかかるというものだったが、エルダーが自分の足元に同じ魔法を展開した時はそれこそ結界の如き存在となっていた。
雷を纏っている、と言えたかどうかは微妙なところだが…雷で身を守っていたという意味合いでは間違ってはいないだろう。
現に、俺がエルダーの角を折ろうと試みた時には、ヤツの周囲から並々ならぬ雷が襲ってきたのだ。
あの時は、洒落にならないほど痛かった…。
おまけに奴の角は恐ろしく硬く、ヒビ一ついれられなかったからなぁ…。
原因不明の逃走をしてくれなければ、今頃二度目の昇天となっていたかもしれない。
…ん?いや、待て。
何かが引っかかる。
今の回想で、俺は何か重要なことを見落としている気がする…。
落ち着け、もっとよく考えるんだ。
エルダー…魔法…雷…角…逃走…。
…逃走?
エルダーが逃走したというのは確か、スナッツから聞いた話だ。
俺が気絶している間に、エルダーは何故かあの場を離れてどこかに去っていったと言っていた。
あの時、スナッツが何か重要なことを口走っていたんじゃないのか?
思い出せ、スナッツがなんて言ったのかを…!
『お前が最後に吹き飛ばされた後、あいつは魔法陣も消してどこかに行っちまったよ。理由はよく分からんが…少し様子が変だった』
…魔法陣を消して…様子が変…。
俺が吹き飛ばされた後、エルダーは何故か攻撃を止めてどこかに去っていった。
理由は分からないが、魔法陣を消して去っていった…スナッツはそう言っていた。
様子が変だったエルダーと、消えた魔法陣…。
エルダーの使っていた魔法と、新スキル"雷纏"…。
吹き飛ばされた俺と、立ち去ったエルダー…。
「…!」
その時、俺に電流が走った。
エルダーの角を破壊しようとした時、俺は失敗してしまった。
斧が砕けてしまったのだ。
そんな結末に俺は絶望し、憤怒し、そして恨んだ。
弱い自分と、強いエルダーの差を。
魔法を使えない自分と、魔法を使えるエルダーの差を。
猪などという野獣の分際で、超絶かっこいい雷魔法を使えるエルダーを。
そして、願ったんだ。
俺も使いたい、と。
エルダーの持つ雷魔法を自分も使いたいと…そう願った。
その後、破れかぶれのフルストレートを奴の角にお見舞いした結果、俺は奴の雷撃をもろに浴びて気絶。
気が付けばスナッツの腕の中だった。
「…そういう…ことなのか…?」
歯車が、噛み合い始めた。
俺が、願ったから。
"エルダーの持つ雷魔法を使いたい"と願ったから。
願いをこめて、ヤツに拳を叩き付けたから。
だから…エルダーの"雷魔法"を"盗取"したのではないか?
その結果、エルダーは"雷魔法"を使うことができなくなってしまった。
俺に奪われてしまったのだから。
突然魔法が使えなくなったことに驚いたエルダーは、気絶した俺達のことなど放置し慌てて退散。
その行動を見ていたスナッツが、魔法陣を消して立ち去ったと認識。
ただし、正確には"魔法陣を消した"のではなく"魔法陣が消えてしまった"と言うべきだが…スナッツは"盗取"のことなど知らない。
故に俺が気絶から覚めると、スナッツは自分が見たとおりの説明を俺にした…と。
…完璧じゃないか?
これなら辻褄が合う。
戦闘不能の俺や、明らかに格下のスナッツをエルダーが見逃した理由も。
俺が"雷纏"というかっこいいスキルを手に入れられたことも。
きちんと筋の通った説明がつく。
…だが、この結論によって新たな問題も浮上する。
"盗取"についてだ。
使い方が分からなかったから放置していた"盗取"だが、使えてしまうというのなら話は別。
今回は偶然良い方向に暴発したが、毎回こうなるとは限らない。
意に反して発動してしまうことで、取り返しの付かない事態に陥ることもありえるはずだ。
セラ曰く、スキルはとても強力な技である。
他のスキルと比べたことがないので断言はできないが…魔法を盗むことができるような技なのだから、"盗取"も十分に一級品のスキルと言えるだろう。
だが、薬も使い方を間違えれば毒になる…。
強力な能力であるが故に、その能力を制御し、きちんと管理しなくてはいけない。
現時点で不明な点が多いこの"盗取"…能力の解明を早急に行わなくては。
…とはいえ。
「…ふへへ」
明日からは、"雷纏"の方を優先して解明することにしよう。
…実に楽しみだ。
最近、1日に1人前後でお気に入りに登録してくださる方がいらっしゃいます。
お気に入り登録者が1人増えるだけで、 私はアホみたいに喜んでおります。
作者として冥利に尽きるというものです。
それから、大変申し訳ございません。
R15タグを付け忘れていた為、本日急遽設定し直させていただきました。
将来的に、少々ピンクなシーンや痛々しい戦闘シーン等が出ることが想定されます。
本当に申し訳ございませんでした。
今回も閲覧ありがとうございました。
気になった点等ございましたら、報告してくださると助かります。
感想等もお待ちしております。
これからも、どうぞよろしくお願いします。