プロローグ:冤罪
いわゆる異世界転生ものです。
新しい世界で、主人公が自分のやりたいように生きていく物語。
主人公はなれるのか、彼の目指す"悪人"に!?
冤罪。
無実の罪やぬれぎぬとも呼ばれる、現代社会の陰たる問題。
冤罪を掛けられた人間はありもしない罪で咎められ、見に覚えのない非難を受け、社会から孤立していく。
運が悪ければそのまま刑に処され、運が良ければ無罪放免と許されるが…例え無罪と判決されたとしても、社会からの非難の目が消えるわけではない。
冤罪の容疑を掛けられた時点で、容疑者の社会的地位は大幅に下落するのだ。
かくいう俺も、そんな容疑者の一人だった。
俺の罪状は…いや、今はそんなことどうでもいいか。
兎にも角にも、品行方正、清廉潔白に生きていた俺の人生は理不尽な社会の陰によっていとも簡単に崩壊させられたのだ。
努力して入社し、地位を築き上げてきた会社からは見放された。
信用して交友し、親友とまで呼び合った友には裏切られた。
信頼して面会し、悩みを打ち明けた家族には切り捨てられた。
俺は一人になった。
俺は何もしてないというのに。
俺は孤独になった。
俺は誠実に生きてきたというのに。
まったく、正直者が損をするとはまさにこの事である。
「なぁ、神様。もしあんたが本当に居るっていうのなら、一つだけ願いを聞いて欲しい」
一人きりでは広く感じる自宅のリビングで、俺は小さく呟いた。
「俺が生まれ変わったなら…ルールに縛られないで、自由に生きられるような…悪人にしてくれ」
まるで他人の声のように聞こえる台詞を言い終え、俺は足元の椅子を蹴る。
三十余年と共に生きてきた俺の身体はふわりと宙へと浮かび、心地の良い浮遊感が俺の全身を包み込んだ。
直後、ギシリという縄の軋む音と共に、俺の首は強く締め付けられる。
(…なんてな)
俺は静かに嘲笑した。
神頼みなんて、受験の時以来である。
信仰心などというものは持ち合わせていない、我ながら都合のいい話だ。
「…っぐ…くぅ…」
生温かいものが、俺の頬を伝った。
吐きたい溜息が吐き出せず、俺の喉は虚しく振動した。
あぁ…苦しい…悔しい…。
なんで俺がこんな目にあわなくてはいけないんだ…。
向ける先のない怒りが、惨めさが、俺の意識を埋め尽くしていく。
後悔しない、そう決めていたはずなのに。
理性が決壊し、感情が荒波となって押し寄せる。
くそ…本当は死にたくなんてない…。
こんな情けない死に方なんて…俺は…嫌だ…。
世界が闇に閉ざされていく。
縄の軋む音も徐々に遠ざかっていった。
ジワジワと、身体の感覚が虚ろなものへと変わっていく。
「…っ…」
そして最後に、俺は薄れゆく意識の中で自分の体が震えたのを感じた。
これが、真面目で惨めな俺の最期。
基本的にチート能力ですが、何でもかんでもゴリ押せるという訳ではない(予定)です。