振替路線
普段なら乗ることはない路線に、今日は珍しく乗るはめになった。
どうやら人身事故で、いつもの路線が運行休止になったらしいからだ。
改札口で定期券を見せて、振替証をもらう。
これで、俺は振替路線に乗ることができる。
運賃は鉄道会社同士で清算するらしく、俺は一円も支払う必要はなかった。
「あ……」
ホームに上がって、声を掛けられる。
向くと、同級生の女の子が立っていた。
普段はあまり話さない間柄ではあるが、全然しゃべらないというわけもない。
「珍しいね、こっち使ってないでしょ」
「向こうが人身事故で運休だからさ。で、しゃーなしにな」
彼女の横に立って、俺は会話を続ける。
「そうなんだ」
彼女は笑いながら俺に言った。
「振替輸送使ってるから、近くの駅になったら降りざるを得ないがな」
俺は彼女に答えた。
「そっかぁ。なら、きっとあっという間だね」
彼女は、どこか遠いところを見ているような顔で、俺を見ていた。
彼女の言う通りで、電車の旅はあっという間に終わった。
「じゃあ、また明日」
「おう、またな」
おれは電車の中にいる彼女に手を振って、別れた。