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こちら、告白推進委員会です。  作者: 暇人
act.1 カエデとホオヅキ
5/30

5話

「ホント、最低だよアンタ」


 いや……あの、急に罵られてもイマイチ理解できないんですけど……?


 取りあえず、今の状況を説明しよう。


 俺は今日、昼休みに屋上に来て、昼休みから今までずっと寝ていた。そして、起きたときに誰かが屋上に出てきて、俺は見つからないように急いでタンクの影に隠れた。出てきたのは男子生徒で、なんか女子生徒を呼び出していた。


 程なくして、呼び出された女子生徒が到着し、男子生徒は一世一代の大勝負(こくはく)をしようとする。が、誤って俺が大きな音を出してしまい、この場に俺が居ることがバレてしまう。


 覚悟を決め、男子生徒からの言葉を待っていた女子生徒は、この事を誰かに聞かれていたという気恥ずかしさから、屋上から逃走。告白する前にフラれた感じに男子生徒は、涙目でその後を追っていった。


 そして、俺は言い知れぬ罪悪感に頭を抱え、懺悔の言葉を吐いてると、なんかナチュラルに話しかけてきた女子生徒に罵倒された。


 理解していただけただろうか? え? 無理だって? 大丈夫、俺も半分も理解してないから。


「何笑ってんの?」

「いや、何でもない。つうか……」


 俺は見下したように見てくる女子生徒を見上げる。


 長いストレートの金髪、パッチリとした碧眼に凛々しい眉毛、薄く張った唇、マシュマロみたいな白い肌。誰もが口をそろえて『美少女』だというであろうその女子生徒は、俺にゴミクズでも見るような目を向けていた。


「アンタ誰? ついでに何でココにいんの?」

「それはアタシが聞きたいわよ。それに……」


 女子生徒は俺の前に立って顔を近づけてきた。突然のことに俺は後ずさりする。


「人の名前を聞くなら、まず自分の名前を言うのが先じゃなくて?」

「うわっ……、そんなセリフ人前で言うヤツ初めて見たぁ゛!!」


 語尾がおかしくなったのは、女子生徒に脛を蹴飛ばされたからだ。


「別に普通でしょ!? 名前を聞くぐらい!!」

「うん、ドラマの中ではねぇ゛!!」


 語尾がおかしくなったのは、さっきと同じだ。この女……、さっきと同じとこ蹴りやがった……。このままいけばまた蹴られそうなので、さっさと自己紹介しておこう。


「姿月……楓……」

「姿月…………? あ、同じクラスの!!」


 同じクラス? 少なくとも俺の記憶にはいないんだが……。そんなこと口走ったらまた蹴られそうだから言わないけど。俺の疑問など露知らず、女子生徒は何故か顔を背けていた。


「姿月……楓か……」


 何で復唱した? まぁ、男にしては珍しい名前ではあることは否定しないけど。

女子生徒は何故か小さく笑いながら俺を向き直る。


「それで? 何してたのよ?」

「それはただ……てかアンタの名前聞いてないんだけど……?」


 危ない危ない、あまりにも自然な感じで聞かれたから流れに乗せられそうだった。俺は流れで誤魔化されるほど単純じゃない。


「まぁ、気にしない気にしない♪」

「コッチは答えたんだ。そっちも答えるのが礼儀じゃねぇの?」

「そんなドラマみたいなこと言って恥ずかしくないの?」

「少なくとも、アンタよりかは幾分かマシだよ」


 飛んできた蹴りを避けながら、俺はそう返す。蹴りを避けられたことが気に食わないのか、女子生徒はプクッと頬を膨らませた。


「ほ…………朴月(ほおづき)恭子(きょうこ)……」


 朴月……何か聞いたことあるような? まぁクラスが一緒だし、出席の時にいつも聞いているからそのせいだろ。見た感じ、男子とは関わりを持てそうな感じだが、俺の記憶の中にいないんじゃ案外引っ込み思案なのかも?


「ふ~ん、朴月か……。で、なんでこんなとこに?」


 俺は足元に転がっているゴミ袋を引き寄せながら問いかける。しかし、何故か返事がない。


「どーした?」


 俺は朴月にもう一度問いかける。がしかし、やはり返事はない。俺は顔を上げて彼女を見る。朴月は何故か俺を見据えて固まっていた。


「朴月……?」

「えっ!? な、何!! 何か言った?」


 俺の問いかけに、朴月は慌てたように手をブンブン振りながら早口で喋っていく。


 気のせいか? 固まっていた朴月の顔に、何処か悲しげな、そして恨まし気な表情が映ったのは……?


「いや、お前は何してたんだよ? こんなところで?」

「えっ!? ……あぁ、その事ね……」


 朴月は思い出したようにそう言うと、ズイッと顔を近づけてきた。俺は再び後退りする。


「どうしてくれんのよ!!」

「何をだよ!! 俺は何でお前が怒ってんのかを知りたいんだよ!!」


 朴月の脈絡の無い言葉に、俺は丁寧に、激しく、オーバーなリアクションの三セットでツッコミを入れてやる。


「あと少しで上手くいってたのかもしれないのに……」

「上手くいく……あぁ、さっきの」


 俺は先程の告白現場を思い出す。恐らく、コイツは女子生徒の友達か何かで、男子生徒に呼ばれたことを聞いてコッソリ様子を見に来ていたんだろ。


「アンタがあそこで音たてなきゃ、絶対成功してたのに……」

「まぁ、なんだ。ホント、スマンかった」

「アタシじゃなくてあの二人に謝ってよ……」


 ごもっともな言葉に、俺は黙って頷くしかなかった。


「ホント、勿体無いなぁ~。上手くいってたのに……」

「何で上手くいくって思うんだ?」


 俺は知らない内に拳を震わせてそう問いかけていた。俺の言葉に、朴月はキョトンとした顔を向ける。


「何でそう言いきれるんだよ? お前女子の友達なんだろ?じゃあ何で男子のヤツがその子を好きだって分かるんだよ。接点があって、好きだって言っているのを聞いたとなれば話は別だが、お前男子と喋るかどうか知らないけど、女子に恋愛相談する男子(やつ)なんてそう居ない。そんなアンタが、何でロクに話もしない男子の気持ちが分かるんだよ? それに、人の心は簡単に変わっちまうものだ。あの時、急に男子の気持ちが変わるみたいなことが在るかもしれないだろ? こんなに人間の心は気紛れなのに、何であんたはそう言いきれるんだよ?」


 最後の言葉は、たぶん自分に言い聞かせるために出てきた言葉だ。あの時、彼女が俺の約束を簡単に破った理由がそれだから……。


 朴月は少し困った顔で俺を見つめていた。そして、暫くの沈黙の後……。


「いや、あの、何だ……。なんかスマンかった」


 俺は今しがた自分が吐いた言葉を思い出しながら恥ずかしくなる。


 今いま考えれば、男子生徒が女子生徒を呼んでいたんだから、彼が彼女を好きだって分かるじゃん。

 それに、俺はいつの間にか過去の自分と彼らを重ね合わせていたのだろう。俺は全く勝算がない闘いに挑んで上手くいかなかった。彼女達は俺と違って、きっと上手くいくはずだったんだ。俺と彼女達は全く違う。だけど、俺は勝手に自分と重ね合わせて、勝手に入り込んで、勝手に怒ってたんだ。


「スマン、急に熱くなっちまった……。ホントにスマン……」


 俺はいつの間にか顔を背けて何度も謝っていた。何度も、何度も。


「アンタさ……」


 朴月が空を見上げながら問い掛けてくるので、俺も同じ様に空を見上げた。



「昔、何かあった?」

「……ちょっとだけな」


 俺の言葉に朴月は何故か悲しそうな顔を俺に向け、再び空を見上げた。


「もしこれから……好きな人が出来たとき、そんな考えなら苦労す――」

「俺は……」


 朴月の言葉を遮るように、俺は目を瞑りながらこう言った。


「もう、『恋』しない……。そう決めたんだ」


 心の中でもう一度呟く。深い雪が降る夜、一人ポツンと佇む自分の姿を思い浮かべながら。


「だから、何にも心配ない……」


 俺はそう言いながら朴月に笑いかける。多分、笑えているはずだ。



「ふ~~ん」


 ちょ、何かちょっとリアクション軽過ぎませんか? 俺、結構シリアスな話してるんだけど……。そんな俺を尻目に朴月は何か考え事をしている。そして、不意に声をかけられる。


「ねぇ……楓って部活入ってる?」

「ん? いや、入ってないけど……」


 てかあった側から呼び捨てかよ!? まぁ構わないけど……。でも部活何かで入ってると帰る時間が遅くなるし、夕飯が遅くなるとアイツが怖いからなぁ~。


「部活に入る暇……」

「よし! じゃあ部活入ってよ」


 ……今なんて言った? あれおかしいな……? さっきの所だけよく聞こえなかったよ~?


「今なんて……?」

「だから、部活入ってよ。私と一緒の」


 聞き間違えじゃなかったかな、今『部活』って聞こえたような気が……。いやもう完全に言ってたよね? 分かってたよ。


「スマンが、俺は部活に入……」

「詳しいことはまた明日話すから、じゃあね!!」

「えっ!? ち、ちょ!!」


 朴月がサッサと出ていこうとするので必死に手を伸ばして腕を掴もうとするが、彼女はその手をスルリと抜けていく。朴月は満面の笑みで手を振りながらドアの影に消えていった。その姿に俺は手を伸ばしたまま固まった。


 いやいや、何か俺もう部活は入りますって雰囲気になってるけど、入らないからね? 入る気もさらさらないんだけど……?


 心の中で突っ込んでいると、不意にカン、カンと階段を踏みしめる音が聞こえてきた。俺がドアを見つめると、朴月が顔を出してニッコリ笑いながらこう言った。


「さっき何言ったか知らないけど……拒否権は無いよ?」

「お前絶対聞こえてただろ!? っておい逃げんなァ!!!!」


 俺がそう叫ぶや否や、朴月は素早くドアから首を引っ込めて階段をかけ降りていった。俺も負けじとその後を追うためにゴミ袋を引っ掴んでドアに突進していった。



 今、この出会いが、俺の日常をおかしな方向へと導いていくことに、この時はまだ知る由もなかった。

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