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こちら、告白推進委員会です。  作者: 暇人
act.1 カエデとホオヅキ
3/30

3話

 中学二年の時だ。


 俺は当時、クラスに好きな女子がいた。


 彼女の名前は成海(なるみ)(きょう)


 長い黒髪をポニーテールにして、鼻が高く頬がほんのり赤い、黒渕眼鏡に碧眼の瞳が良く生える端正な顔立ちだった。あまり騒がない大人しい子だったが、その美貌は学校トップクラス、いやNO.1と言っても過言ではなかった。横を通り過ぎれば振り返らない男子はまず居ない、と言われていたもの。


 その伝説を裏付けるのは、俺のクラスのある男子が『我が校カワイ子ちゃんランキング』と言うものを極秘に製作していて、毎年一学期、二学期、三学期の三回に分けてランキングが極秘に発表されていた。そして、彼女はそのランキングで二年と三か月ほど不動の一位として君臨していたのだ。


 因みに、何故二年と三か月という中途半端な期間で消えてしまったのかは、三年の夏に女子にバレてしまったからだ。今でも思い出せる、言い出しっぺの男子が学年の女子たちに血祭り上げられる映像が……。あの出来事は、当時同じ学年の全ての男子生徒達の記憶に焼き付けられたことだろう。


 それと、彼女が二年と少しの間女王の座に居座り続けることが出来た要因として、日本人離れした美貌ともう一つ挙げられるのが、黒縁眼鏡の奥で光る透き通るような碧眼である。彼女が日本人離れした美貌と碧眼の理由は、彼女の祖母はロシア人の人で、彼女はいわゆるクォーターだからだ。


 昔、彼女は小学生の時に男子に目のことをからかわれて、この眼はあまり好きではないと溢していたと聞いたが、おそらくそれは照れ隠しの一つだったと思う。なんせ、彼女の透き通るような碧眼に学校中の生徒、いや先生までもが釘付けにしていたことは事実なのだから。


 …………話がだいぶ逸れてしまった。


 そんな学園の聖母、高嶺の花、平成の小野小町と称される彼女に、俺は告白したのだ。いや、するつもりだった、と言った方が正しいか……。無論、クラス中の目の前で想いを伝えたのでは無く、昼休みに彼女を公園で待っていると伝え、公園でしめやかに告白するつもりだった。


 もちろん勝算なんてこれっぽっちも無かった。なんせ、彼女は日夜ほかの生徒から告白を受けて、すべてを断ってきたのだから。しめやかに想いを伝え、しめやかに撃沈するのが俺の考えだった。ただ、俺の気持ちを伝えたかったんだ。


 だがしかし。いや、案の定といったところか?


 彼女は約束の時間になっても一向に姿を見せず、寒空の下一人待ち続けていた俺は『雪が降り出したから』と自分に言い訳を付けて家に帰った。


 次の日の朝、俺は惨めな気持ちで布団に潜り込み、学校に行かなかった。別に泣いて真っ赤に腫れた顔を見られたくないから休んだんじゃない。まぁ、実際泣いてないし。


 あれだ。


 振られた次の日に自分を振った人間に顔見せる奴なんて居ないだろ? 親には腹痛と熱だと言い訳を付けた。その時、首とおでこにカイロを乗せて温め、熱があるように思わせることに成功する。


 その次の日、俺はしぶしぶといった感じで学校に顔に出した。熱もないのに学校休む奴があるか!? って親に怒鳴りつけられて家を追い出されたからだ。昨日の作戦を使えればよかったんだが、生憎カイロを切らしてしまってできなかったんだ。


 なるべく普通を装って教室に入ってきた俺を、クラスのみんなは何事もなかったように、いつも通りに接してくれた。


 先ほども言ったが、彼女は日夜告白を受けてはすべて断ってきている。そして、撃沈した奴にはしばらくの間その話を振るな、という暗黙の了解みたいなものができている。だから、誰もそのことを蒸し返すことなく、俺は少しの間だけ忘れることが出来た。


 しばらく当麻たちとしゃべっているとして、彼女が教室に入ってきた。彼女はいつも通り周りに挨拶をしながら自分の席へと向かう。その姿を見つめていると、不意に目があった。


 俺は慌てて目を反らすが、彼女はじっと俺を見つめてくる。気のせいだよな? そう思いながらチラッと横目で見てみると、確かに彼女は俺を見つめていた。キラッと、一瞬だけ彼女の目が光った。


 それが何なのか確認する前に、彼女はプイッと顔を背けて自分の席に座った。彼女が座るとすぐに後ろの女子が話し掛け、彼女も振り向いて話をし始めた。


 俺はその時、言い知れる不快感を覚えた。


 あの時、彼女が俺を見ていた目は、確証ないけど、確実に俺を非難する目だったからだ。


 可笑しいよな?


 約束を取り付けて、寒い中約束の場所でずっと待っていたのに、約束を守らず来なかったのは彼女のほうだ。ぶっちゃけると、俺が彼女を非難する側のハズだ。


 何で来なかった? 何で約束を破った? って。なのに、彼女はあの時俺に非難の目を向けてきた。


 可笑しくないか?


 胸の内から沸き上がる怒りを歯を食いしばり押さえ付けながら、俺は悶々とした気持ちで自分の席に戻った。席に戻る俺の背中を、彼女が突き刺すような視線で見つめていたと言うことは後から聞いた話だ。


 そのまま、俺は彼女と一言も話すことなく、何となく中学校生活を送り、何となく卒業して、何となく近くの公立高校に入った。


 彼女は多分同じ高校だったと思う。そういえば、高校に入ってから一回も見てないな? 別にどうでもいいが……。

 ま、そんなこんなで、俺は何となく高校生活を楽しんでるつもりですよ? いや、何となくというか、あることを決め込んで生活しているといった方が正しいかな?


 俺はあの日を境に、『恋』という言葉を、あの時『恋』をしていた自分を、忘れることにしたのだ。

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