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こちら、告白推進委員会です。  作者: 暇人
act.1 カエデとホオヅキ
2/30

2話

「コラ姿月!!!」

「んぎゃ!?」


 耳元で爆竹を鳴らしたような怒鳴り声と共に、頭を教科書で叩かれる。しかも角で、何度も。


「痛たたたっ!! 痛い痛いって長谷見(はせみ)!!!!」

「寝ているお前が悪い!!」


 長谷見は今まで俺をぶっ叩いていた教科書を下ろしながら、今度は何処から取り出したのかと思うほどのプリントの山を俺に押し付けてきた。


「これ、後で配っとけ。ペナルティだ」

「は!? ち、ちょっと待って!?」

「寝てた奴に拒否権は無い。呼び出し無いだけでもありがたいと思え。よし、授業中続けるぞ~」


 俺の言葉も聞かず怒涛の教師の特権を振りかざし、長谷見はクルリと踵を返してサッサと黒板の前へと戻っていった。周りからクスクスと笑いを噛み殺した声が聞こえる。

 俺は思わず握り締めていた拳を溜め息と共に解きながら、プリントの山を脇に押しやって出来たスペースにダランと身体を預け、窓から見える青空を見つめた。


 しかし、その時前方からチョーク(白)が飛んできて、俺の頭を白く染める。


「なにしやがる!?」

「寝ようとしてただろうが!! てか次のページお前が読むんだよ!!」

「寝てねェよ!! てかもうちょっとましな起こし方できねぇのかよ!!」

「寝てるように思わせたお前が悪い!! てかマシな起こし方って、完全に寝ようとしてたんじゃねェか!!」


 その後、俺と長谷見の口論はヒートアップしていき、しまいにはバカだのアホだのと子供の喧嘩みたいになる始末。クラスの連中は日常茶飯事みたいな空気で俺たちの口げんかをまったりと傍観している。


 子供じみた喧嘩は、隣のクラスの学校一怖い木森先生が怒鳴りこんできたことで終結となった。その後、授業は何事無く進んでいき、俺は仕方がなくノートを開いてシャーペンを走らせていく。


 シャーペンを走らせるのをふと止めて、俺は何となく窓を見る。


 俺の目に映る真っ青な空は、何処までも広がっていて、その中心ぐらいにボンヤリと浮かぶ太陽の光が心地よく照りつけている。


 まさに絶好の昼寝日和であった。


 こんな天気の良い日に、ましてや窓側の列の前から四番目という睡眠に最適すぎるポイントに居て寝るなという方が無理な話だ。


「可笑しいよな……。こんな日に勉強なんて……」


 そんなことをぼやいていると、四時間目のチャイムが鳴り響き、長谷見が教科書を鞄に詰め込んで教室を出ていく長谷見。勿論、俺に釘を刺すような視線を向けながらだ。


 別にやるのに……。


 長谷見が出ていった瞬間、関を切ったような生徒達のざわめきが教室を支配した。


「今日の昼はどうする?」「学食でよくね?」「おい聞いたか!! 今日から期間限定の桜クリームミックスが発売らしいぞ!!」「何!? テメェら行くぞ!!!」「「「オオオォォーーー!!!!」」」


「相変わらず姿月くんと長谷見先生仲悪いよね?」「ま、喧嘩するほど仲がいいって言うしね。」「ほんとよね~、長谷見せんせいなんだかんだ言って姿月くん呼び出したりしないし。」「喧嘩しているときも、なんか子供みたいで楽しそうだしね!!」「今度聞いてみる? 『先生は姿月君のことが好きですか?』って!!」「『ああ、俺は姿月のことが……』」「「「やだーーッ!!!それ私たちの大好物じゃな~い!!!」」」


 教室で繰り広げられる男子どもの結束、女子どもの不穏な動き、このクラスちょっとおかしいんじゃないの? そう思いながら、俺はサッサと立ち上がりプリントを列ごとに配る。


「災難だったな。楓」

当麻(とうま)か? 同情するならお前も手伝えよ」


 俺の机のそばでニヤついているに男子にプリントの山の半分を押し付けた。


 こいつの名前は神坂(かみさか)当麻(とうま)


 小学校からの付き合いで、良い言い方で『親友』、悪い言い方で『悪友』だ。顔はなかなかのイケメンで、誰とでも気兼ね無く話せる、いわゆる『イケてる奴』なのだが、何故かコイツには彼女が居ないのだ。まぁ、それは別のところに問題があるのだが、それはまたの機会に。


「何かあったのかよ?」

「別に~……」

「あれか? 授業中突然思い付いた黒魔術の方法でも吟味していたのか!? それなら我が(ちから)を使え……」

「授業中そんなことを思いつくほど俺の頭は発達してねェよ……」


 イヤに真剣な顔でそう語る当麻の顔を、俺は呆れながらプリントで軽く叩く。


 もうお分かりいただけただろうか、これがモテない理由の一つだ。


 そう、コイツは重度の厨二病患者なのだ。しかも、病院で医者が首を振って、『来世からやり直すことをお勧めします』、って苦笑いで言われるレベルの。ていうか、さっき『またの機会に』とか言っていた自分が恥ずかしくなってきた。


 その後も、厨二脳を暴走させる当麻を何とか黙らせながら俺たちはプリントを配っていく。一通りプリントの山を配り終えると、当麻はニヤニヤ笑いながら俺に手を差し出してきた。


「バイト料」


 もう一つが、こいつは何か手伝うと必ず『バイト料』を請求してくるのだ。貯まったお金でCDを買うとか、ゲームを買うとかだったらまだ可愛いが、こいつはもとよりそんな次元に生きてない。


「くくく、これで黒魔術の研究がまた一歩……。ムフフフ」


 今の独り言で分かってもらえただろう? そうなんだ。今こいつが口走った通り、せっせと貯めた金の使い道は、『黒魔術の研究』という厨ニ病全開の残念すぎる使い道にされるのだ。ホントもう、諭吉さんをギッチギチに詰めた袋をドブに三ポイントシュートを決めるみたいな感じだ。


 俺はそんな奴の残念な思考にため息をつきながら、財布から百円玉を取り出して当麻の手に押しつける。


「毎度あり~」


 ワザとらしい言葉と共に、当麻は押しつけた一〇〇円玉を財布にしまう。


 ホント、黙っていればモテるのに……。黙っていれば二枚目、といったところか……。


「ん? 何か言ったか? 正確には思ったか?」

「何にも~」


 心の声を読むなという言葉を飲み込みながら、俺は自分の席に戻り鞄をガサゴソと引っ掻き回す。


「おりょ? 今日は学食じゃないの?」

「ああ、今日はな?」


 俺が視線を外しながら言うと、当麻は一瞬表情を歪め、すぐに笑顔に戻した。


「そうか………今日は」


 当麻はそう呟くと静かに俺の肩をポンと叩いて、またな、と言いながら教室を出ていった。普段はあんなに良い奴なのに……。ホント、残念な、残念なイケメンだ……。(大事なことなので二回言いました)


 学食に向かう当麻を見送りながら、俺は鞄に手を突っ込み今朝買ったパンの袋とコーヒー牛乳を引っ張り出して教室を出て、すぐ近くの階段を二段飛ばしで駆け上がり、屋上へと続く部屋に着く。


 少し上がった息を整えながら、俺はペンキが剥げて錆びが目立つドアを開ける。


 ドアを開けると、柔らかい日の光が俺の体を包み込んだ。案の定、屋上には誰もいない。俺の頭ぐらいまである錆びついたフェンスと、古ぼけて所々ペンキが剥がれた給水タンク、そして先ほど教室からみた何処までも続く真っ青な青空と少し強い風があるだけだ。


 俺はそこで一回深呼吸をして頭に新鮮な空気を生き渡せる。さっきまでボーっとしていた感覚が消えていくのを感じながら、給水タンクの脇についている梯子を上り、タンクの上に腰を降ろして空を見上げた。


 何処もでも続く青に空に、綿あめみたいな雲が気持ちよさそうに漂っている。ココから手を伸ばせばあの綿あめ雲に届きそうな、そんな感じがした。


 そんなことを思いながら、俺はゴロンと寝転がってパンを頬張る。そよ風が俺の前髪を揺らす。乱れた髪を直すこと無く、俺は頬張ったパンを呑み込みながら小さく溜め息をついた。


「またあの夢か………」


 青空に浮かぶ白い雲を見つめながら、俺は息を吐くように呟いた。最近になって、同じ夢を見ることが多くなった。


 それは忌まわしき記憶。出来れば思い出したくない、中学二年(あの)頃のものだ。

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