19話
前回からものすごく遅くなって誠にすいませんでしたm(_ _)m
「まっさか、全部のフラグ回収してくるとはな……」
「いや~、期待を裏切らないとはこのことだね」
「お前ら俺にどんな期待をしてたんだよ……って人のコロッケ勝手に食ってんじゃねぇ!!」
宿木優成に盛大に突っ込みをかました後、宿木からコロッケを奪取した俺たちは手頃なベンチに腰掛けていた。コロッケは俺らを引っ張り回した迷惑料ですコノヤロー。
「しっかし、噂ってのはほんと信憑性ないよな。巷じゃ伝説のヤンキーなんて呼ばれてる奴が、近所のおばちゃんたちと談笑したり、人助けしたり、今もこうして野良猫の世話とかしてるわけだしな~」
「うわ、何それ痛い……」
いやそう言いたくなるのは分かるが、不良恰好をしているお前にも責任があるんだからな。とまぁ、そんなことどうでもいいか。
「じゃあ、この際噂の検証でもしてみるか?」
「え……」
俺の問いかけに宿木は少し嫌そうな顔をするも考え直したのか、真剣なまなざしで強く頷く。取り敢えず、学校内で誠やかに囁かれている噂を、知ってるだけ全て教えてやるか。
「じゃあ先ず、授業にも出ずに校内を徘徊してる」
「ああ、してる」
……今こいつなんて言った? いや、空耳だ。そうに違いない。
「じゃあ次、入学早々担任教師をノイローゼに追い込んだ」
「ああ、やった。だが、正確には転勤させた」
もっと酷いじゃねぇか!? …………思わず突っ込んでしまったが、きっと空耳だ。さ、次行ってみよう。
「他校の不良二十人を相手にかすり傷一つ負わずに勝った」
「かすり傷一つとは言わないが、まぁ勝った」
「ただの不良じゃねぇか!?」
俺の突っ込みに身を震わし、訝しげな目で見てくる宿木。うん、その反応になるのも分かるけど、こう突っ込まざる負えねぇよ!!
「何だよ!! 人助けばかりしてるから噂も全部ガセかと思ったら、全部肯定しやがってぇぇ!!」
「し、仕方がないだろ。全部事実なんだし」
事実なら仕方がないけど回収したフラグ全部折るなよ!! 回収してないのを折れよ!! あと、せめてフラグは回収するか折るかどっちかにしろ!!
「まぁまぁ楓、一旦落ち着けって」
当麻が俺と宿木の間に入り込んで仲裁してくるが、その程度で俺の怒りが収まるとでも思ったのか? いっそお前にこの怒りぶつけるぞコラ。
「仕方ねぇだろ。あの時は……ああするしか……」
人知れず拳を握りしめたとき、不意に宿木がボソリと呟きそれと同時にそっぽを向く。一瞬しか見えなかったが、その顔にはどこか自虐染みた表情が浮かんでいるように見えた。
「……な、何か事情があったのか?」
「話せるのなら教えてくれない?」
俺と当麻の言葉に、宿木は一度こっちを見てからまた足元に視線を戻し、そのまま話し始めた。
「俺が一年の頃、初めの担任が相当なクズ野郎でよ。入学式が終わって初めてのHRの時、そいつは自分が有名大学出の超エリートだって自慢話をし始めてな。それを聞いてるうちはまだ嫌味な野郎だ、ぐらいにしか思っていなかった。でも話が終わった後、一人の男子生徒を前に呼び出した。そして……――――」
そこで宿木は一旦話を切り、一呼吸終えてから苦虫を噛み潰したような顔になる。
「そいつが今回の入試結果で『最下位』だって言い渡しやがった」
「「なぁ!?」」
宿木の言葉に思わず声を上げてしまう。当麻も俺と同じ反応をしたけど、気にしていられない。
「そ、それっていいのかよ!?」
「そいつ、教育委員会のお偉いさんの甥っ子らしくてよ。うちの校長でさえも口出しできなかったらしい。もし咎められても『どん底に起爆剤を与えるため』とか抜かして逃れるだろうよ」
そう吐き捨てた宿木は同じ顔のまま、更に話を続ける。
「そしてヤツは『俺はカスを相手にしている時間はない。学年一位でも取らない限り、俺はお前のことなんか知らないからな』って厳命して下がらせた。そして今度は俺を呼び出した」
ん? 何で今度は宿木を呼び出した? 見た目が不良だから?
「違げぇよ。寧ろそれならどんなに良かったことか……。俺、そのクラスで入試結果が一番よかったらしくてよ。何でも激励の言葉を言うために呼んだらしい」
頭良くて、人助けして、猫の世話して、そして不良……もう何なのコイツの属性。個性半端無さ過ぎる。
「って待てよ、まさかそこで……」
「ああ、おもいっきりブチかましてやった」
そう言って宿木は笑顔で握った拳をチラつかせてくる。怖いからやめろ。
「でも一発だけじゃ懲りなくてよ~。謝らせるのに苦労したわ」
「何発やったんだよお前ェ……」
と言うか、校長でも楯突くのに後込みする奴を殴ったのによく退学にならずにすんだな。大概、それプラス在りもしないいちゃもんつけられてもおかしくないのに。
「もちろん、退学になりそうになったよ。でも、校長が庇ってくれて停学で収まったよ。でも、そのお偉いさんが教育委員会を脱退するまで停学処分、って変な条件付けられたがな。これが、俺が授業に出ないわけ」
説明し終わった宿木は指に吸い付いてくる猫を引き剥がす作業に入っていった。しかし、猫たちは「遊んでくれるニャーー!!」と興奮気味に宿木に突進。猫に暴力をふれない主義なのか、宿木が一匹一匹やさしく引き剥がしにかかるが、突撃してくる猫の波に飲み込まれてしまう。
終いには無数の毛玉まみれになる宿木。どんだけ懐かれてんだよ。
「お前、猫嫌いじゃなかったのかよ?」
「あ~……む、昔な? 五匹ぐらいの猫に……指を同時に噛み付かれて……。それ以来、猫がぁぁ……」
そう言いながらどんどん顔色を蒼白にしていく宿木。相当トラウマだな。だったら言動と行動を一致させようよ。現在進行形で猫に身体中を吸われてんだぞ~。
「じゃあこの妙に懐いている猫達は?」
「……こ、コイツらか? ここ、この辺で捨てられたヤツばかりさ。新しい飼い主が見つかるまで、俺が面倒見てるってわけ。それに……――」
そう呟いた毛玉まみれの宿木はふと俺から視線を逸らし、夕日で赤く染まった空を見つめて押し黙った。その顔は、何処か寂しそうな顔が浮かんでいた。
「『罪滅ぼし』―――――って言ったところか」
「『罪滅ぼし』……」
宿木の呟きに呼応するように当麻が呟く。また重そうなワードが出てきたな。
「猫に対して?」
「いや、正確には『猫が大好きな奴』に対してだ。中二の頃、そいつとちょっと色々とあってな。ソイツとはそれっきり言葉も交わしてないし、顔も合わせてない」
中二の頃……って言うと、ちょうど荒瀬が言っていた話と合うな。やっぱり、そのころに何かあったとみていいな。
取り敢えず、今まで宿木と話してみて分かったこと。
それは、宿木優勢と言う人物が俺たち一般生徒のイメージと一八〇度違っているということだ。こいつの話し方や猫を世話しているのを考えても、あの学校中から恐れられた伝説のヤンキーと同一人物とは思えない。
それに今の話を聞く感じ、どうもコイツが女子を襲っているようには見えない。寧ろその現場に立ち会わせたら助けそうだし。
今の話が嘘ってこともあるが、俺たちが強姦事件のことを知っていることはあの場にいた奴らだけしか知らない、況して停学扱いのコイツがその情報を入手するのは不可能に近い。それに荒瀬の証言と噛み合う場所もある。おそらく白だろう。
「ってことは一体誰が……」
「ん? どうし、たぁ!!」
俺の呟きに疑問を投げかけながら、宿木は指に吸い付いてくる猫を引き剥がすために餌が入った瓶を阿草むらの方に投げる。それに合わせて、あれだけ宿木にすり寄っていた猫たちは方向転換、我先にと餌めがけて突進していった。……宿木よりも餌に飛び付くとは現金な奴等だ。
「所詮猫だからな。てか、もしあれしても擦り寄ってくるなら俺は泣くぞ」
いいじゃねぇか、それだけ懐かれているって証拠だろ。猫派のおれにとっては羨ましい限りだ。
「って言うか、そういうお前らは誰なんだ? 何で俺の名前知っているんだ?」
ここで、宿木からごもっともな質問が帰ってくる。好き勝手質問されて、突っ込みいれられて、過去話名で暴露したのにお前らのこと話さないのはフェアじゃない、そりゃそうだ。
「そっちばかり喋らせて悪かったな。俺は姿月楓、お前と同じ高校の二年。んで、横が神坂当麻、俺らと同じ高二年だ」
自己紹介をした俺たちは謝罪として一応頭を下げると、宿木も下げてきた。やっぱりコイツが襲っているイメージとか想像できないな。
「実は俺が所属している部活にある依頼が持ち込まれて、それを遂行するためにお前を探していたんだよ」
「依頼? 誰が?」
俺の言葉に宿木は何で? と言わんばかりに首を捻る。まぁ人助けしていただけなのに『宿木を更生させて欲しい』なんて言われるなんて想像できないもんな。
「不良であるお前を真人間に構成させてほしいって風紀委員会の荒瀬から―――」
「待て」
俺の言葉を遮るように宿木が声を出す。話の腰を折るんじゃねぇ……って言おうとしたけど、その言葉は自然と飲み込まれてしまった。
「今、誰って言った?」
そう問いかけた奴の顔が真剣そのものだったからだ。そんな顔で問いかけられちゃ、すなおにおしえるしかなくなるだろうが。
「誰って……風紀委員会の荒瀬伊冬だけど?」
「そうか、じゃあな」
俺の返答にそれだけ返すと、宿木は踵を返して立ち去ろうとする。
「ちょ、ま、待てよ!!」
「そう言えば楓って言ったか? 悪いが、伊冬に伝えておいてくれ」
引き留めるために慌てて駆け寄るが、不意に思いついたように宿木が声を上げたので、思わず動きを止めた。
「もう、俺に関わるなって」
……今、なんて言った?
「今な――」
「へぇ!?」
俺の声をかき消したのは、当麻の馬鹿みたいにデカい声。この野郎……。
「当麻てめ――」
「二人とも大丈夫なの!?」
またもや俺の言葉をかき消したのは当麻。しかも、さっきよりもデカい声で。言葉じゃ分からないようだな……。
「うん、うん。マジ!? え、うん、うん」
振り返ってみると、当麻が携帯片手に何か喋っていた。お前、マジで空気読もうぜ……。電話するやつもおなじだけどよ。
「うん、そう、分かった。じゃあ大至急楓引っ張っていく」
最後にそう言って電話を切った当麻はクルリとこちらを見てきた。って言うか俺を引っ張っていく? どいうこと?
「おい、どういうことだ?」
「楓、取り敢えず落ち着いて聞いてくれよ」
そこで言葉を切った当麻は少し躊躇するように顔を歪ませる。そして、決心がついたのか? 一度深呼吸してこう言った。
「朴月と比佐久ちゃんが襲われたらしい」




