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こちら、告白推進委員会です。  作者: 暇人
act.3 ストックとヤドリギ
16/30

16話

「体育館裏にも居なかったぞ」

「あ~、お疲れさま。あとこれ」

「おっ! サンキューマジで助かるよ!」


 妙に高いテンションで朴月から手渡されたジュースを早速開けて口を付ける。キンキンに冷えた炭酸が喉を存分に潤してくれた。


「あー……生き返るぅ~」


 炭酸の余韻を堪能しながら俺は同じジュース片手に石の階段に座り込む朴月を見つめた。


「ん~……、体育館裏も無しか~……」


 彼女の膝には地図が広げられ、体育館裏と記された所に小さな×印を付けていた。


 宿木優成を見つけるために動き出してから早一時間。各々のグループに分かれた俺達は、校内、学校周辺、近くの商店街と範囲を分けて捜索を開始した。校内を割り振られた俺達は不良が集まってそうな場所をしらみ潰しに捜してみたが、案の定宿木を見つけることは出来なく、地図には無数の×印が増えるばかりだった。


「×の数からして校内の居そうな場所は捜し終えたんじゃね? 後は教室とかしかないぞ?」

「そうね……。これだけ探して居なかったら人目に付きやすい教室に居る可能性はないわ。てことはもう学校を出たと考えるべきかな?」


 あ~、やっぱり学校周辺(そと)か。コイツは骨が折れる。


 うちの学校は質の良い人材を集めようと様々な学校にパイプを持っており、普通ならあり得ない場所から通っている生徒も少なくない。その規模は多分関東地方全域まで繋がってるんじゃね? 噂では新潟からワザワザ近くの部屋借りて通ってるやつとか北海道から引っ張ってきた奴もいるとか。いくらなんでもやり過ぎだろ。


 まぁ幸い宿木の登校手段が徒歩であることを先生から聞いたから絞り込みは楽だからいいけど。


「……うだうだ言ってても意味無いな。んじゃいきま――」

「朴月さ~ん!」


 後ろから声が飛んできたので振り返ると、渡り廊下で大きく手を振る荒瀬と見知らぬ男子生徒が近付いてきていた。


「あれ、どうしたの?」

「体育館への渡り廊下を歩くのを見つけたものですから近況報告でも、と」


 そう言いながら何処か期待の籠った眼差しを向けてくる荒瀬に俺達は無言で首を振った。


「そう……ですか。そう簡単には見つかりませんよね……。分かってました」

「ま、まぁそう気を落とさないでよ。学校に来ていない訳じゃないから探せばきっと見つかるわ。……所でそっちの人は?」


 朴月の言葉に荒瀬の側に控えていた男子生徒が進み出てきた。


 黒髪に黒渕の分厚い眼鏡の下から親しみやすい目。パリッとした制服に『風紀』の腕章を付けているから風紀委員だろう。


「どうも、はじめまして。風紀委員の萩山と言います」


 萩山は軽く頭を下げたので俺達も頭を下げておく。


「この度は荒瀬の、いや我々への協力ありがとうございます」


 ん、我々への協力ってどういうことだ? 俺の気持ちを汲み取ってくれたのか、朴月が質問してくれた。


「我々へのって……。今回の件は伊冬個人の依頼じゃないんですか?」

「いえ、あなた方に依頼したのは彼女が個人的に相談したものであってます。ただ我々も宿木について調べていますので結果的に協力してもらってるんですよ」


 萩山はそう言うとニコッと人懐っこそうな笑みを浮かべた。意外に親しみやすい人だな。


「で、荒瀬達はどうなんだ?」

「そうですね……」


 俺の問いに苦笑いを浮かべる荒瀬。まぁ出会って最初に俺達の成果を聞いてきたんだから向こうも芳しくないんだろう。




「んー……私達は商店街近くの公園で宿木らしき人物が居るのを見ただけでこれとい――」

「いやちょっと待てェェェェェ!?」


 俺の絶叫ツッコミに風紀委員組はビクッと身体を震わせて訝しげな顔で俺を見てきた。いやいやいや何でお前らがそんな顔するんだよ!? 普通俺がお前らに向ける顔だぞそれ!!


「何やってんのお前ら!! 公園に宿木みたい奴が居たんなら声かける後つけるかしろよ!! 何当たり前のごとくスルーしてんの!?」

「後をつけるなんて風紀の風上にも置けないこと出来ません!!」


 堅物過ぎんだろ荒瀬さん!!


「いや気持ちが分かるがだったらせめて俺達に連絡寄越せよ!! そしたらお前らの代わりに後つけるからさ!!」

「我が校の生徒をストーカーなんて犯罪者にさせるわけにはいきません!! させられるのは遠くから凝視することまでです!!」


 いや胸張って言ってることも場合によっては不審者って言う犯罪者になるからね!! そこんとこ履き違えないように!!


「それにもしソイツが宿木だったらどうすんだよ!! おまえらは千載一遇のチャンスを棒に振ったんだぞ!!」

「いえ、それに関しては問題ありません。彼は絶対宿木ではありませんから」

「何でそう言い切れるんだよ!! 明確な証拠でもあんのか!?」

「猫の世話をしてたんです」

「あぁ゛、猫の世話? そんなの大の男子高校生がするわけ……は?」


 え、いやちょっと待って。え、不良が猫を……?


「私達が公園で見かけた時、宿木とおぼしき男子生徒が公園の片隅で猫にミルクをあげていたんです」


 不良に捨て猫って何そのベッタベタな展開。今時の青春漫画でも見ないぞそんなの。


「……で、でも猫を世話していただけで彼じゃないって判断するのは早すぎない?」


 ここで朴月が最もらしい質問を投げ掛けた。まぁ奴が猫好きならあり得ない話だし。


「いえ、彼は昔から猫が嫌いでしたから間違いないと思います。近付くだけで逃げてましたし」


 こんなところで伝説的ヤンキーの弱点手に入れちまったよ。もう猫片手に捜査しようぜ。……うん、腕の中で暴れられて捜査どころじゃないな。



「……因みに猫の特――」

「特徴ですか? 猫の特徴ですか!!」


 え、何? 何か荒瀬の目が急に輝きだしたよ?


「あのグレーと黒の縞はアメリカンショートですかね! いや手足が異様に短いからマンチカン系も混ざった雑種の可能性もあるか……? 見た目は私の手に収まるぐらいで生後四週間といったところでしょうか。ミルクを飲み終わった後彼の指をちゅーちゅー吸ってるのは鼻血モノでしたねいやホント!! あと物欲しげなあの瞳!! 弱々しく震える四肢!! もう天使!! 私の癒し!! 地球(このほし)の生物じゃない!! ……てか誰だよ私の天使捨てやがったのは……? 見つけ次第半殺しにして(てんし)がいかに天使であり癒しであるかを心身共にみっちり教え込む必要がありますねうふふふふふ」


 荒瀬さんその不敵笑いマジ鳥肌もんです。てか当初のクールキャラから猫好きな変態に変わってきてるけど大丈夫か?


「あぁ……肉球フニフニ……すみません。ちょっと(てんし)の愛くるしさに我を忘れていました。とまぁそういうことで彼が宿木ではないと判断したんです」


 うん、どういうことで? 荒瀬の劇的変化のせいで殆ど忘れちまったよ。え~っと、近付くだけで逃げてる程猫が嫌いだから猫を世話していた奴が宿木じゃない、って話だっけ? まぁ猫嫌いが率先して世話しようなんて普通思わないし、逆に保健所辺りに叩き付けそうだな。


「じゃあそっちも収穫無しか……。当麻(アイツ)はどうなんだ?」


 当麻達は学校周辺だっけか? 今まで連絡無いってことは望み薄だが、一応報告だけはしておくか。電話をかけてコールが二回鳴ったところで当麻が出てきた。


『どうした楓? 俺の声が聞きたくなったか?』

「開口一番気色悪いことぬかしてんじゃねぇぞ。何か掴めたか?」

『生憎、こっちはからっきしダメだ。宿木のやの字も見つからねぇ。一応顔に傷がある生徒を見つけたら連絡寄越してくれって頼んでおいた。だが望みは薄いぞ?』


 流石に初日で尻尾掴むことは出来ないか……。まぁ予想の範囲内だけど。


 時間的にも六時を過ぎている。これ以上の捜索は難しいな。朴月に今日は切り上げでいいか意見を仰いだら、集まるのも明日の朝で良いと付け加えて賛成してくれた。


「じゃあ今日は切り上げだ。明日の朝また集まって放課後捜索開始だ。分かったか?」


「アイアイサー!!」「了解」


 ほぼ同時に二人の返事が帰ってきて、んじゃあまた明日な、と当麻の声と共に通話が切れた。



 こうして、俺達の宿木優成捜索一日目は終わったのである。

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