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親父のくせに  作者: 佐野隆之
第四章 親父のくせに
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第31話 極み(前篇)

 タワーズ一階、金の時計広場にある地下へと向かう階段入口のシャッターへ突っ込んだ状態で身動きできないままでいた陽光のヘヴィ・ワーカー。天井から落ちてきた鉄骨は避けることができたものの小刻みな揺れは続いていた。

「こ、これってよぉ……ここも崩れているってことか?」

 揺れるコックピットの中で見上げて言う陽光。コックピットガラス越しに天井から次々と物が落ちてくる姿が見事に見て取れる。陽光へ不安を(あお)る風景だ。

「くそっ……どうせならイイ女と一緒に気持ち良くあの世へ行きたかったぜ……」

 揺れは徐々に大きくなっていく。吐き気がしてくるほどの激しさで続く揺れの中、陽光は意識が遠のく感覚と戦っていた。

「ああぁ、気持ち悪ぃ……で、ここでオマエと心中か? イヤだねぇ……」

 いつのまにか陽光のジャケットの中にもぐりこんでいた猫を抱えたまま陽光は成す術がなくしばらくこの状況に身を任せていると、揺れ幅はさらに増幅していき天井から次々と容赦なく陽光のヘヴィ・ワーカーを囲むように大きな音を立てて落下物が積載していく。

「こ、このまま、生き埋めになんのか……ああ……もうちょっとカッコ良く、死にたかったぜ……こんなところで潰されて、終りかい……しかも猫と……寂しいねぇ、まったく……」

 陽光の気持ちに覚悟が見え、すべてをあきらめ観念した気持ちまで来たところで突如揺れが治まった。奇跡かと陽光が心底思う状況に恐る恐る口にした。

「止まった……か?」

 耳を澄まし辺りを見渡す陽光。この頃にはコックピットガラスに今にも割れそうな無数のヒビが入り、視界はすべて瓦礫で埋め尽くされた状態とまでになっていた。

「ふにゃあぁぁ……」

 陽光の懐で安心をもたらす温もりを出す猫が声だけ出して丸まっている。

「さて、どうするべか? 轟陽光」

 揺れの治まりに一安心した陽光はため息交じりで呟くと、ヘヴィ・ワーカーの状態を調べるためセルフチェック・プログラムを起動させた。そしてその間にひとまずアクセルペダルを少し踏み込んでみるとエンジン、モーターとも作動し瓦礫を押し出そうとヘヴィ・ワーカーが震えた。

「どうやらこいつはまだちゃんと動くか……って言ってもこの状態じゃ前には進めないって感じ?」

 そう言って陽光はそのまま勢いで瓦礫を押し出してやろうと思いアクセルペダルをべったり踏み込んだ。がしかしエンジンがうるさく騒ぎたてるだけで瓦礫はびくともしなかった。

「ダメっすか……」

 簡単に諦めた陽光はセルフチェック・プログラムの状況を確認しようとモニターへ目をやると朱美の存在位置を示す赤い点滅に気づいた。

「いかん! すっかり奴らと地震に気ぃとられて朱美ちゃんを忘れとったわ。まだ大丈夫そうだな。待ってなよ。すぐ行くぜ」

 陽光はすぐ自分の背後の階段にいるはずの朱美へと気持ちを一気に持っていき、バックモニターを表示させた。が、真っ暗闇で何も見えなかった。そこですぐに陽光はヘヴィ・ワーカーのリア・フォグランプを点灯させた。すると下り階段に瓦礫の山積した姿と人らしき影が確認できた。

「朱美ちゃんは間違いなくここにいる」

 探索モニターを見て目を鋭く光らせた陽光。「ちょっとどいてな」と言って懐に潜り込んでいた猫をつまみ出すと陽光は立ち上がり非常用の背面ドアを開けた。

「うっ、臭ぇっ!」

 さっきまで忘れていた異臭を外に出たことで思い出し、口の中までまとわりつくような臭いに驚き思わず声を上げた。そしてすぐにマスクをしようと手を動かした陽光だが「あれ、俺マスクどうしたっけ?」と自分で捨てたことをも忘れていた。

「ま、いいか」と言って陽光はしかめ顔のままヘルメットのライトを点灯させゆっくりとヘヴィ・ワーカーから降りた。

 不安定な足元。よろめきながら自分の周り一帯を見渡すとシャッターに挟まれ体半分だけ覗かせている人間と瓦礫とともに横たわる人間がそこにあった。すでに息はないだろう。陽光はヘヴィ・ワーカーの周りに人の抜け殻が敷き詰められた床に仕方なく足をつけた。そしてそのまま幅広い下り階段へと目をやると人の山が不自然な形で下まで連なっているのが確認できた。逃げようとしたのだろうか? 人を踏みつけた形で倒れている者も見える。陽光は目を細め注意深く下の方までライトを向けた。

「助けて……」

「助けが、来たぞ……」

 どこからから小さな声が陽光の耳に入った。

「朱美ちゃんはいるかぁぁ!」

 陽光は耳にした声に反応することなく大声で叫んだ。


          *


 朱美は老若男女様々な人々が待ち合わせをしている風景を目に平凡な幸せってこういうのを言うんだろうなと思いつつ約束の時間を過ぎても来ないシンを待っていた

「んー……さっき、どこから電話してたの?」

 朱美はスマートフォンに映るシンに話しかけた。

「ん?」

 スマートフォンから目を前へ移すと自分がいつのまにやら暗闇に立たされている事に気がついた。

「何? どうしたの? 停電?」

 朱美の周りは暗い。しかし自分の体はよく見える。スポットライトを真上から当てられているかのようだ。

「どうなってんの?」

 朱美は一体何が起きたのか調べようとスマートフォンに再び目を移したところで異臭が鼻をついた。

「イヤだ、何か焦げ臭い」

 朱美は顔を歪めると手の甲を鼻に押し当て辺りを見渡した。するとさっきまでの暗闇が橙色に薄ら光放ち自分の目がおかしくなったのかと思うように光が揺らめいていた。

「な、何? これっておかしいよね? これって夢?」

 朱美は気持ちとしてこの場から移動して状況を確かめたかったが体が自然に360度回ることで終止した。

「朱美!」

 シンの声が朱美の耳を打った。

「シン!」

 朱美は揺らめく光の中から手を振って近づくシンを見つけ大きく安堵し、朱美は小さく飛び上がって手を振った。

「もう、本当に不安だったんだからぁ。なんか変じゃない、ここ?」

「え? そう?」

 シンが手を伸ばせば届くほどの距離へとやって来るとシンは目を大きく広げて朱美の言葉に不思議がって見せた。そして朱美は笑顔でシンへと触れようとした瞬間、突如耳に突き刺さる大きな金属音が朱美を驚かせ身を退いた。

 すると目の前にいたシンがいきなり上から下りてきた白い壁で押し倒された。

「シぃぃぃぃン!」


 シンの背中を押し潰した白い壁。


 シンの吹き飛ばした鮮血が白い壁を染めていた。


 そして朱美の記憶は途絶えた――

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