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親父のくせに  作者: 佐野隆之
第四章 親父のくせに
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第26話 侵入sideB

 体に密着したシートが無性に窮屈に感じ、背中の汗ばみが気になっていたモリタは小牧基地発進後、一言も言葉を発することなく目を瞑っていた。そんなモリタの耳に部下たちの会話が響く。

『もうここからでも火災現場がよく見えますね』

『尋常じゃないな、あの状況』

『この機体、本当にあの中に入っても大丈夫なのか?』

『私は正直、怖いです』

『それは皆一緒だろ』

『中佐はそうでもないんじゃない? ですよね? 中佐?』

 喋り好きばかりが集まったこの部隊は不思議だ。そしてここに隊長として任命された自分がいるのも不思議だ。そう思うモリタは独り冷めた笑顔を作ると目をゆっくり開けフロントウインドウ上部に映し出されたマルチモニターの5人の部下たちへ言った。

「いい加減お喋りはそのくらいにしておけ。ハイキングに行く訳じゃないんだ。口にチャックつけることぐらい出来るようにしておかないと現場で舌噛んで死ぬことになるぞ」

『はい!』

(返事だけは立派か……)

 その頃すでにモリタ率いる部隊を載せた新型特殊輸送機ニフ‐参“コウノトリ”は着陸体制となっていた。小牧基地から名古屋駅までは空を飛べば5分とかからない。その中で独り、解せなさがモリタの頭にこびりついていたことがモリタ自身の口を閉じさせていた。

(僅か一月足らずにしての実戦投入。正確には機能試験ではあるが。そして作戦時間は20分だという。不穏な臭いがして仕方ない)

「まるで俺たち自体が実験体ハムスターのようだ……」

 モリタは無駄のない狭いコクピットで独りニヒルに笑い小さく漏らした。

『中佐、何かおっしゃりましたか?』

 エンドウ中尉が反応した。

「ん? あ、いや。もう着陸だな。着陸後直ちにハムスターを着地させ集合だ。各部のオートチェックは今のうちに済ませておけ!」

『はいっ!』

 モリタ達の搭乗している高機動戦略特殊車輌。型式名ニミ0(ぜろ)式五型。ペットネーム ハムスターは輸送機の両翼にぶら下がる形で運搬されていた。そして目的地、名古屋市中村区泥江(ひじえ)交差点手前で停止した。

『ティルトローター機の方が良いかと思いましたがこいつも優秀ですね。早いし静かだし』

『あいつは垂直離着陸できるけどローターの音がホントにウルサイからな』

『でも、たまたま滑走路替わりにできるこの桜通りがあったからこれが使えたんでしょ? そうじゃなかったら高速使って30分以上はかかったわよね』

『偶然だけどそうだよな。そういえば単独飛行できるハムスター専用のティルトを開発中って聞いたけどマジかな?』

『玩具作りでもしてるようだな。どこからそんな金がでてくるんだ?』

『さあね。よっぽど焦ってるのか、戦争やりたがってるのか?』

『それはオマエだろ』

『お互い様。食いぶちがこれしかないからな』

 喋りの止まらない部下たち。呆れ顔でモリタは「行くぞ」と一言だけ言って自分の機体を輸送機から離脱させた。それに続き五人の部下たちも輸送機から離脱するとモリタを中心に弧を描くようにに整列した。

「いいか! 再度言うが今日はこいつの性能実験が主な任務だ。先刻のブリーフィング通りこの火災に直接的テロ集団の関与がないと思われる。現時点、内部状況の正確な把握はできていないわけだが銃火器類の使用はないものと推測されるからだ。そしてそれを踏まえての任務であるが気を抜くな。すでに外部諜報はあてになるモノでは無いのは皆が周知のことだ。訓練での成果をここでは出し切れない事を残念に思う者がいるだろうと思うが」

『全くですよ』

『実弾の使用許可しないって一体どういうことですか? ガム弾だけでなんとかしろってウチら自身を鉄砲玉にしてるようなもんでしょ?』

「そう思うならそう思え。ガム弾と電子迷彩があれば事足りるって話だ、今回は」

 モリタは自分に言い聞かせるかのように部下たちの文句に渋々かつ淡々と発した。

「ではエンドウ、カガワは北側から、マキタ、ミナモトは南側から各階の調査。最高でも7階まで行けば十分だ。その後すぐ降りてここを出ろ。私とハセガワは1階及び地下の調査。詳細報告は基地に戻ってからだ。そしてよく聞け。滞在時間は最大15分。無理はするな。もう一度言う。我々の今回の任務はハムスターの性能実地テストである。そして皆の目には無惨な状況が映るかと思うが生命反応のない者は無視しろ。万一あったとしても避けるだけでよい。我々の任務はハムスターの性能試験及び状況の簡易把握のみである!」

 部隊の中で最も若いミナモトは固唾を飲んだ。掌の汗ばみも確かなものだ。

「分かったかっ!?」

『はいっ!』

 返事の返しは規律正しく揃っている部下たち。

「時計合わせ!」

 モリタの号令に六人のメンバーはモニターに映るタイマーをゼロにした。そして「同期開始!」とモリタが叫ぶと言葉に合わせ全員タイマー同期を作動させ、六人の搭乗する機体のモニターの時間表示は刻々とカウントアップしていく。

「では現時刻よりハムスター性能試験及びテロ火災現場調査任務を開始する。20分後にこの場にて合流。いいか!」

『はいっ!』

 モリタの気合いの入った熱い声に五人の部下は身を引き締め一層強い返事を返した。

「くれぐれも無理をするな。移動! 直ぐに電子迷彩に切り替えろよ」

 モリタ率いる総勢六名の部隊は軽快に高機動戦略特殊車輌ハムスターを加速させ眼前に広がる炎のベールで包まれた道路を突き進み燃え盛る炎と沸き立つ黒煙に包まれたセントラルタワーへと向かった。

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