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親父のくせに  作者: 佐野隆之
第四章 親父のくせに
25/35

第25話 突入

「しかしひでぇ渋滞だなぁ」

 朱美の生存確認まで出来たところで陽光は渋滞につかまり動きが止められていた。これはすでに進入禁止区域間近まで来ていたことの証明でもある。

「なんとか早く行く方法は無ぇのかよ?」

 陽光は朱美の位置を目的地として地図を広域にして道路の探索を行った。しかし、タワーズまでの道はすべて封鎖されていることがナビに表示されている。

「んー……」

 陽光は超低音で唸り、黙ったまま地図の縮尺を変え広範囲をモニターに映した。

「まだ2キロはあるなぁ。しかも警察屋が結界張ってる様だしな」

 完全に渋滞で止められた陽光は股の上で今も寝ている猫の耳や体をいじりながら思考する。

「んー……」

 唸り声は続く。渋滞も続く。そして地図を操作キーで拡げたり縮めたり、名駅周辺をぐるぐると遊んでいるかのように回していると陽光はあることに気づいた。

「ん? そういやあ駅だから線路があるがや」

 陽光は固く険しい顔から一気にしたり顔に変貌し舌舐めずりした。

「今日の俺は来てるよ、これ。行けるわ。マジで。なあ!?」

 嬉しそうに陽光は眠ったままの猫の首を掴んで持ち上げると猫の顔を見つめて囁いた。

「もしかしてオマエさんは有名な招き猫ってヤツか?」

 持ち上げられた猫は細く目を開けたかのような動作を見せるだけで興味なしを決め込みあくびをした。

「うっ、やっぱ臭ぇなぁ。口臭予防しとけ」

 顔をしかめた陽光はそのまま猫を太ももの上に落としズッシリとした体を受け止めると姿勢を正した。そしてハンドル下にある変形レバーを勢いよく引いた。するとブロックでできたような箱型のヘヴィ・ワーカーの四隅からモーター音を鳴らしながら折り畳まれていた脚が伸びた。そして四本の足がしっかり地面を押し付け音をたてながら車体を持ち上げた。

 その間に陽光はハンドルから手を離し左右の肘掛それぞれに収納された操作レバーを引き出して握り四足形態時の操縦スタイルで構えた。そして陽光はヘヴィ・ワーカーをそのままの位置で向きを右へ90度動かすと、反対車線に止まっていた小型自動車を跨ぐように脚を持ち上げた。車に乗っていた女性ドライバーは目の前で脚を上げているヘヴィ・ワーカーに恐怖し声をあげた。

「失礼! ちょいと邪魔しますわ」

 陽光の声がマイクを通して外部スピーカーで響き渡り道歩く人々も注目する。もちろん陽光はそんなものなど気にする性分ではないのでそのままヘヴィ・ワーカーに車をひょいと跨がせると横道まで歩行で移動した。そして再び走行形態へ変形させ、陽光の目指すべき所へと向かった。


 渋滞で捕まっていた場所よりもタワーズから北へ遠のいた人気(ひとけ)のない土で盛り上げられた高架横へと陽光はやってきた。見上げると目の前には無数の架線が見える。しかしここに来てまた陽光は唸り声を出した。

「んー……思ってたより高ぇなぁ」

 5メートル以上はあろうかと思われる位置に陽光の目指していた線路があった。陽光は線路を伝ってタワーズへ近づくことを企んだのだが、いくら中型のヘヴィ・ワーカーでも5メートルもジャンプできない。が、試してみるのが陽光。中型クラスまではジャンプする機能は一応備わっていた。ただ、その機能は日常の土木建築作業で使うことなどなく遊びで使うくらいだった。

 この場で四足形態にした陽光はコントローラーを使って通常のワークモードからジャンプモードに切り替え左足で一気にブレーキペダルを踏み込みロックをかけると右足でゆっくりとアクセルペダルを踏む。するとモーターと一緒にディーゼルエンジンが音を出して動き始めた。そしてヘヴィ・ワーカーはゆっくり関節を折り曲げていき車体は低くなると陽光はさらに車体を前傾姿勢になるように操縦レバーで調整し固定させた。

 陽光は一定のパワーが溜まったところを見計らい「行けっ!」と言葉と一緒に左足を力強く踏みつけロックされていたブレーキペダルを一気に解放させた。するとヘヴィ・ワーカーはモーター音を大きく出しながら高架へ向かって重々しく飛び上がった。それと同時に陽光は左右のアーム操作用レバーに手を持ち替えヘヴィ・ワーカーのアームを線路沿いの鉄柵に向かって伸ばすようコンロールした。


 届かぬ儚い思い――


 伸ばしたアームはみごと鉄柵を掴んだがその後はあっさり鉄柵をはぎ取るだけで終わり、ヘヴィ・ワーカーは鉄柵を掴んだまま高架から音を立ててずり落ちた。

「ちっくしょー! やっぱ無理かぁー。なんとかできねぇかなぁ。絶対行ける。絶対!」

 これしきで諦めるわけない陽光は自分に言い聞かせるように言葉を口にしながら辺りを見渡した。すると高架横に点々とならんだ自動車が目についた。

「いけませんねぇー、違法駐車は」

 陽光は陽気な笑顔を作ってすぐに手あたり次第、路上駐車の車をかき集めた。そしてヘヴィ・ワーカーを巧みに操り要領よく自動車を積み上げ高架線路までの階段を作った。これは陽光の得意とするところだ。

「うっし。これで一気に突入だぜ」

 中型ヘヴィ・ワーカーは小型よりも当然大きさと比例して重いながらも小回りが利き、大型は昇降できる場所が限られているため陽光は好んで使っていた。今までの救助活動はすべてこの機体で行ってきた。

 陽光はそのまま口笛を吹きながら軽快にヘヴィ・ワーカーを操り自動車の天井を踏み潰していきながら簡単に高架線路に入った。

「なんだ……これ……?」

 そこで目にした光景に陽光の表情は硬直した。

「タワーズが無ぇじゃねぇか……どこいっちまったんだ?」

 眼前に伸びる無数の線路。そしてその先には黒煙と真っ赤な炎で燃え盛る塔の無くなったセントラルタワーズ。これは心拍数が上がり、脈打つ感覚が自分自身で分かるほどの威圧的な恐怖感を陽光へ味わわせるには十分な効果のある光景であった。陽光は股の上で丸くなって眠る猫の体を両手で優しく撫でながら思わず呟いた。

「シン、そういうことか……さすがにこいつはビビるわ、俺も……」

 しばらくその光景に唖然とした陽光だがすぐに気を取り直し真剣な眼差しでモニターに点滅する赤い印とIDナンバーを見つめ声を出した。

「って言って帰るわけにはいかねぇからな。待ってろ、朱美ちゃん。もうちょいの辛抱だ」

 ヘヴィ・ワーカーを走行形態に変形させた陽光は両手でハンドルを握りしめ大きくひとつ、深呼吸をした。そして目を剥きだすようにして叫んだ。

「うっしゃぁ! やったろうじゃねぇかぁ! このクソ田分けぇ!」


 武者震い――


 今の陽光にはその言葉がぴたり当て嵌まる感覚を全身に(みなぎ)らせていた。

「うおぉりぁぁぁぁああ!」

 一人叫びアクセルを一気に踏み込んだ陽光。急発進させたヘヴィ・ワーカーは線路に沿って煙と炎に埋もれた塔無きセントラルタワーズへと向かった。

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