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親父のくせに  作者: 佐野隆之
第三章 1225
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第18話 機密

 19時20分ごろ。場所は変わりタワーズから東に1kmほど離れたところにある国際センタービル前で道路を封鎖し、近隣のビルにいる民間人の避難誘導をしていた若い警官たち。その目の前では消防隊が消火活動を進めている。

「これだけの火事となると市内の消防車全部かき集めても消しきれないんじゃないか?」

「本当だな。このままじゃタワーズに近づくのにどれだけの時間がかかるのやら」

「しかしクリスマスの夜に立派な巨大蝋燭だな。誰が吹き消すんだ?」

「オマエこんな時にそんな不謹慎な冗談言うなよ」

「こんな時だからくだらないことでも言わなきゃやってられねぇよ」

「怖いのか?」

「ああ、怖いさ。あの炎見て怖くないやつの方が異常じゃねぇか? 夢だと思いたいよ。さっき人みたいなやつが落ちてくのが見えたんだ」

「本当かよ? 気のせいだろ?」

「昔アメリカで起きたテロでもそうだったんだろ? あまりの熱さに耐えられず飛び降りたって」

「あれはたしかイスラム系の過激派が旅客機をぶつけたんだよな?」

「たしかそうだ」

「今も活動してるのか?」

「さあ……こんな派手なことやるデカイ組織はもういないって聞くけどな。それにわざわざ日本でやる意味ってあるのか? しかも名古屋で」

「たしかに。やるなら東京だよな」

「そう言えばさっき上の連中が奴らが来るって言ってたぜ」

「奴らって?」

「さぁ、俺もさっぱり」

「なんだよ、それ」

 そこへ彼らに無線が入った。

『タワーズ爆発火災事件本部より()古野(ごの)ポイントのメンバーに連絡する。あと数分ほどで特攻隊御一行がそこへ到着するそうだ。ひき殺されないよう注意しろ。到着後より現場一体の指揮権は特攻隊へと移行する。その後は丸の内ポイントへ移動してマスコミの相手をしてやってくれ。かなり膨れ上がっているようだ』

「特殊部隊か。こんな所はとっととお任せしたいね。俺らの仕事じゃねぇよ」

 無線が切れた直後、どこからか低く鳴り響くジェット音が聞こえてきた。

「おい、何か飛んできぞ? あれじゃないか?」

 一人の警官が東の空へと指差して言った。その先には横長の大きな影を作った物体が道路沿いに立ち並ぶビル群と同程度の高さを飛行して近づいてくるのが見えた。

「あれか?」

「それっぽいな」

 瞬く間にその物体は警官たちとの距離を縮めると警官たちは爆音に耐えきれず耳を両手で塞いだ。

 飛行物体はタワーズ正面へとまっすぐ延びる桜通りを滑走路に見立てて着陸すると彼らの目の前で停止し、その姿をあらわにした。ダークグレーの艶塗し塗装が施された飛行物体は一見するとライトプレーンのようなスタイルであるが、両翼には小型自動車ほどの大きさをした卵型の物体がぶら下がっていた。その飛行物体が計3機。

「なんだこれ?」

「こいつはちょっと記念に」

 そういって一人の警官はスマートフォンをポケットから取り出し動画撮影を始めた。

「おい、ヤバくねぇか? バレたら懲戒免職ものじゃねぇ?」

「大丈夫だろ。別にネットに流す訳じゃねぇし」

「そう言ってどこかのマスコミに売るんだろ? テロ現場の貴重な映像です、とか言って」

「高く売れるかな?」

「さぁ」

 警官たちがそんなやり取りをしている間に自衛隊のヘリが数機道路上に着陸すると自衛隊員たちが意気揚々と現れた。

 普段であれば一般市民で賑わっているこの場所が一瞬にして自動小銃を手に迷彩服を身に纏った自衛隊員で埋めつくされた。21世紀に入って日本で初めての光景となる。そういう意味では警官が今撮影している映像は貴重なものとなる。報道規制は当然敷かれており、報道陣はここからさらに1キロ離れた場所で足止めされており近づけない状態であった。

「おい、あれ、動き出したぞ」

 スマートフォン片手の警官はズームさせて飛行機を凝視する。

 ライトプレーンのような飛行機にぶら下がっていた卵型した物体はモーター音を唸らせながら四本の脚を伸ばすと、飛行機から本体を突き放し意外なほど静かに着地した。そして計6台のその物体、マシンは半円の形に整列した。

「なんだあれ?」

「ヘヴィ・ワーカーに似てるけど……ちょっと違うな」

「あれってもしかして武装兵器?」

 二人は顔を見合わせた。

「もしかしてスクープ?」

「いやあ俺達が知らなかっただけだろ。マニアは知ってんじゃねぇの?」

 そんなやり取りをしていると6台のマシンは四本の脚を折りたたむと一列になってまだ完全に消し切れていない炎のプロムナードに向かって突入した。そして消えた。

「消えた?」

「お前もそう思った?」

 炎や煙で隠されたといった風ではなく、二人の目には瞬間移動でもしたかのように見えた。


 このマシンが映った映像が後に日米関係を大きく揺るがし、そして全世界の軍事関係者を震撼させ、日本の孤立化、独自路線への第一歩の始まりになる強烈な映像になろうとは撮影をしていた警官は思いもしていなかった。

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