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男爵は嘲笑う  作者: 謳子
4月28日
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4月28日◆4

 地下へと歩き始めて十五分ほど経つ。

 その間ユリは、無言のまま早足で歩く了の背中を、追いかけた。

(ムカツク程、無口ね…。)

 いけ好かないが、無言にも堪えられないユリが、話しかけた。

「刑事さんになってどのくらい?」

 突然後ろからかけられた問いに、了は一瞬後ろを向きかけ、熟考した後、

「警視庁の刑事課に配属になったのが、今から六年少し前。」

 と淡白に答えた。

「へぇ~。高校卒業して直ぐに?」

 尚も続けるユリに、了は小さくため息を吐いたあと、諦めて答えた。

「大学院卒業してすぐに。」

「えっ」と、了の答えにユリが驚いた。

「ちょっと待ってよ。同い年くらいの人じゃないの!?」

「君とは多分半周り以上違うだろうね。」

「ウソ!!」声を上げるユリに、「嘘吐いてどうする」と了が冷静に答えた。

 ユリにとって立場はどうあれ、近い歳であれだけ横柄な態度であれば、十分嫌う理由になった。しかし、かなりの年上となれば、話は変わってくる。

「…ごめんなさい…。そんな大人の人だと思わなくて…。」

 ユリが謝ると、了は眉を顰めて「歳の問題なのか…」と呟いた。

「うっ…。そういう意味でもないんだけど…。」

 歳の問題では確かにないのだが、意見の捕らえ方も変わってくる、という考え方なのだが、早々理解されるものでもないのだろう。

 個人的なことを少し知り始めると、どんどん知りたくなってくる。

「何故、刑事に?」とさらに問うと、了が黙ったので、ユリは慌てた。

「あ、なんか、言えない事情があるなら、話変えるわ。」

 そう言うと、了も何故か慌てて「そういう訳でもないが…」と答えた。

「人に話すほどの理由もないなと思って…。」

「何となくなったの、警察に!?」

「そういうお前は、興味本位で探偵になったんだろ?」

 言われて苛っとしたのか、了が言い返した。

 ユリも釣られてけんか腰になる。

「ふんっ残念! そこまで能天気じゃないわよ!」

「能天気自体は認めるんだな?」

 ニヤリともせずに了に言われ、「な!!!」とユリが爆発寸前に怒った瞬間、了が足を止めた。

「ほら。着いたぞ。」

 言われて辺りを見回すと、いつの間にか照明の少し暗い廊下にいた。

 了の向こうに、『セキュリティ・ルーム』と書かれたプレートが掲げられた鉄扉が見える。

 廊下の壁や床は、美術館内とは思えないほど、地上階のそれと異なる材質で作られていた。

 床はつるりとして鈍い光沢を放ち、壁は薄汚れていて、パイプが天井との角を蛇のように這っていた。

「おお、秘密基地って感じね、地下だけに。」

 ユリが言うと、了が肩を落として息を吐いた。呆れたのだ。

「それにしても、この美術館、本当に広いのね…。ずいぶん遠かったじゃない?」

 さらにユリが言うと、了は腰に手を当てて、今度はあからさまに呆れた顔をした。

「もしやとは思ったが、お前は何も見てなかったのか…。」

「え?」

「この事件に関わるなら、館内を見て回ったほうがいいと思って、気を利かせてわざわざ遠回りをしながら回ってやったというのに…。」

 恩着せがましく言う了に、「そんなの言ってくれなきゃ判らないわよ!!」とユリが声を荒げたので、了が「お前ね…」とため息混じりに嗜めようしたところ、ユリの後ろから突如声がした。

「おやおや、喧嘩するほど仲がいいとはいうけど、こんなところ(入り口)でイチャつかれちゃ、俺も困っちゃうな。」

 あっけらかんと緊張感のない、大きな声が突然聞こえたので、ユリも了も目を見開いて驚いた。

 慌てて振り向くと、ガタイの大きな作業服の男が仁王立ちしてにこにこと笑っていた。

「だっ、誰がイチャついてるっていうんですか!」

 ユリが了に向けようとしていた怒りを男にぶつけると、男は大笑いをしながら「元気のいい彼女だなァ!」と、了に言った。

 言われた了は、深く項垂れて一瞬放心したあと、咳払いをした。

「…あの、飛澤さんを訪ねて来たのですが。菅野館長から、連絡をしていただいています。」

 了が言うと、男は「おー! 警察の人か!」とさらに大きな声を出した。

「さっき館長から連絡が来て、待ってたところだよ!

 取り敢えず、入りなよ!」

 どうやら、彼が飛澤のようだった。

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