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男爵は嘲笑う  作者: 謳子
4月30日
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4月30日◆2

 美術館の正門前で匠たちを降ろし、了は駐車場へ車を走らせた。

 降りた面々は、美術館を目指す。

「おはようございまーす。」

 館長室を開けて挨拶をする。

 が、予想していた菅野の声が聞こえない。

「……あれ?」

「おじさま、いないのかしら…。」

 ドアの前に立ちふさがったままのユリの陰から、クレアが中を覗く。

「うーん…。

 今日もこの時間に来ると言っておいたんだけどな。」

 匠がボリボリと頭を掻く。

「館内のどこかにいるのかも。探して来ようか?」

 ユリが言うと、「大丈夫かぁ? 迷子にならないか?」と匠はニヤリと笑った。

「しっつれいね、大丈夫よ! いってきます!」

 ぷいと踵を返して、ユリはエントランスへと向かった。

 ロビーに出ると、昨日はちらほらと見えた警備員が、今日はいない事に気付いた。

 美術館に来て三日目、ブルーシートも少しずつ取れているようで、毎日違う風景を見せる。

 エントランスの脇にある喫茶店を覗くと、南向きの大きな窓からさんさんと太陽の光が差し込んでいる。

「おしゃれな喫茶店だなぁ。

 天気がいいと、敷地内の中庭が凄く綺麗なんだよね。

 …と、ひたっている場合じゃなかった。

 館長、いないみたいね…。」

 振り返り、対角にあるショップを覗く。

 こちらは照明が点いておらず、窓もないので、陽も棚で遮られ、真っ暗だった。

 人気も、当然の事ながら、ない。

 次いで二階へ向かう。

 しん、と静まり返った展示室で、格子柄の床と真っ白の壁、張り巡らされたブルーシートが、なんともシュールな空間を作り出している。

 ユリは、昨日了に教わったとおり、小展示室と中展示室からなる楕円状の展示室をぐるりと回ってみる事にした。

 左手に壁を、突き当たりに行くまでは真正面の入り口を通り、突き当りまで行ったら、右手にある入り口を入る。

 中、小、小、と周ったところで、再び中展示室に入る。東側の中展示室だ。そこを折り返し地点に、今度は庭を臨む窓を左手に歩くと、また中展示室に辿り付いた。西側、特別展示室に隣接するほうの中展示室だ。

 きょろきょろと見回すと、ブルーシートの陰で、キラリと何かが光った。

「あれ?」

 拾い上げると、繊細な細工の施されたタイピンのようだった。

「…タイピン…かな。

 誰のだろう?

 拾っとこう…。」

 ジャケットのポケットに入れ、特別展示室に移動する。

 特別展示室は六角形の塔の二階にあり、ベランダが添え付けられている。

 ちらりとみると、何故か窓が開いていた。

 不思議に思い、ベランダに出てみる。

 朝露に濡れた中庭の芝生が、きらきらと光っていた。

「結構広いんだ。」

 白く真新しいベランダの手摺りにつかまり、身を乗り出して中庭を見下ろす。

 敷地を囲む背の高い樹木の向こうに、高層ビル群が見える。

 暫し眺めたあと、館内へ戻ろうと振り向いた足に、何かが当たった。

「ん?」

 足下を見る。

 そこには、黒い硝子玉が落ちていた。

 拾い上げると、硝子の裏側が、ピンのようになっている。

「このカフス、どっかで…。」

 思い巡らせ、ふと思い立った。

「…あ。館長が着けてたカフスだ。」

 注意深く見ていたわけではないが、菅野の袖下についていたカフスに似ている。

「落としちゃったのかな?

 なんだか、今日は落し物をよく拾うわ…。」

 独り言をいい、タイピンの入っているポケットに、カフスも仕舞う。

 菅野の姿は見えないので、三階へ行く事にして、ユリは特別展示室を出た。

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