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第四話 風乗りの種の旅立ち

 ドラゴンの着地には、それなりに広いスペースが必要だ。

 トッドが口笛を吹くと、ドラゴンはゆっくりと地上に向かって降りていった。

 着地の瞬間にずしんと衝撃が伝わってきたが、モノミの木の調査に興奮しているアーシュタには、些細なことだった。


「本当にありがとうね! これでモノミの木の研究、進みそうだよ!」

「そりゃあよかった」


 ドラゴンを連れて二人が歩いていると、魔法職エリアの前に見張り番のおじさんが立っていた。背が高くて、頭のてっぺんにもじゃもじゃした髪の毛が生えている。白地に黒の斑点模様のある、牛柄のシャツを着ていた。

 笑いをこらえきれずに吹き出したトッドの背中を、アーシュタはぐいぐいと押した。


「ご苦労様でーす。……ほら、行くよ、トッド」

「おじさん、その服どうしたの?」

「おしゃれだろ? 娘がプレゼントしてくれたんだ」


 トッドが満面の笑顔になって、「いいね!」と親指を立てた。


***


 魔法植物園に戻ったアーシュタは、カバンのなかにぐちゃぐちゃに詰め込んでいたメモや採取瓶をテーブルの上に置いた。

 強風で折り目のついたメモの端を指でこねながら、アーシュタはときどき唸る。まだ記憶が新しいうちに、書き止めておかなくてはいけない。

 すぐそばでは、ミシェルが指で輪っかを作っている。指の間に光魔法を使ってレンズを作り、じっと風乗りの種を観察している。


「アーシュタが採取してきてくれたモノミの木の花、すごく仕組みがわかるよ」


 上司がうきうきと声を弾ませる。アーシュタとミシェルは、作業の手を止めて集まった。

 上司は先ほどミシェルがしていたのと同じように指で輪っかを作り、光魔法でレンズを作った。


「見て、ここ。植物の繊維がグーっとねじれて、力をため込んでるんだよ。ゴム巻きの飛行機のおもちゃみたい」

「ぐるぐる巻いて、それが戻る力で飛ぶやつですか?」

「そうそう! 多分この繊維が枯れたとき、上に飛ぶ力になるんだろうね」


 アーシュタはミシェルが持っていた風乗りの種をじっと見つめる。種の部分に上司の注目していた繊維の切れ端がある。


「最初から綿毛が開くんじゃなくて、ビューン! と空に飛んでから綿毛が開いたんですよ。ここのシーリングファンみたいな羽が、すっごい回転してて」

「アーシュタ、大発見だよ! ドラゴンに乗った甲斐があった!」


 上司は興奮した口調で革張りの手帳を開き、メモを書くのに熱中している。


「でも、どうして綿毛が開かずに落ちてきてたんでしょう?」


 ミシェルがきのこの笠のような頭を揺らして考え込む。彼女の金色の髪に、日の光があたって輝いた。


「雨が少なかったから?」

「アーシュタちゃん、どういうこと?」

「綿毛の準備ができる前に、ここの繊維が枯れちゃって、ビューン! って飛んじゃった……とか」


 熱心にペンを走らせていた上司は雷に打たれたように目を見開くと、「それだ!」と早口で叫んだ。上司がペンを動かす速度が、さらに早くなる。

 アーシュタは調査報告書の作成に戻ると、ときに眉を寄せ、ときに唇を尖らせながら、じっくりと考えをまとめていった。

 魔法植物園のガラスごしに、光が差し込んでいる。たくさんの植物たちが青々とその葉を茂らせ、ときに花を咲かせ、枯れていく。


「あー、そろそろ水が欲しいなぁー。でないとこっちもバビューンと飛んじゃうかもしれ……」

「ピーッ」

「ヒッ!」


 惑わし草の軽口に、マンドラゴラさんが返事をする。マンドラゴラさんの鳴き声が苦手な惑わし草は、途端に黙り込んだ。


「飛べるんだったら、飛んでみてもいいのよ? そのときは、ぜひ研究させてね!」

「げぇー! 面倒くせぇからやめた!」

「うふふ、気が変わったら、教えてちょうだいね」


 上司が惑わし草ににこやかに返す横で、ガラス窓に貼り付いたトカゲヅルがくねくねと動いている。

 うららかな午後の日差しのなかで、空を飛んでいく風乗りの種たちの綿毛が見えた。これから綿毛はそれぞれの場所に降り立って、根を張るのだろう。


「私もドラゴンに乗って、空から見てみたいなー!」


 風乗りの種の旅立ちを見送っていたミシェルがにこやかに目を輝かせる。植木鉢から飛び出したマンドラゴラさんが、ひょいと腕を動かした。その様子がまるで「紹介する?」とでも言っているようで、アーシュタは報告書を書く手を止めて、声をあげて笑った。


<おわり>

参考資料

Wikipedia

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