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第三話 アーシュタ、空を飛ぶ

 トッドは後ろを振り向いて、アーシュタのベルトが鞍に接続されているのを確認してから、前を向いてゴーグルをつけた。

 トッドの指笛が、ピーッと鳴る。まるでマンドラゴラさんの鳴き声みたいだなと、アーシュタはくすっと笑った。

 人を乗せやすいように伏せていたドラゴンが、ゆっくりと立ち上がり、ぴょんとジャンプする。


「うわ!?」


 身体に急に重力を受けたアーシュタは目を白黒させながらも、重力制御の魔法を使った。空気抵抗の重さがふわりとした感覚に変わって、ようやく息をつく。風が気持ちいい。

 ドラゴンは上空でばさりと翼を広げて、大きく羽ばたいた。

 ドラゴン厩舎の近くにある木がたわんで、ざわざわと鳴った。見慣れた景色が、アーシュタの眼下に広がっている。


「すっごい……」

「怖かったら、しがみついてくれていいからな!」


 トッドはそう言うとドラゴンの手綱を引き、モノミの木へと向かっていった。アーシュタはぶるっと身震いをして、トッドの助言通り、あたたかい格好をしてきてよかったと鞍についている持ち手を握った。

 ドラゴンは低空飛行をつづけ、すぐにモノミの木にたどり着いた。大きな白い幹が、目の前にどんとそびえ立っている。ところどころに白黒の牛の柄のような模様が入っているのを見つけたアーシュタは、急いでカバンから手帳とペンを取り出した。

 そうして、上司がいつもやっているように、簡単なスケッチと「牛の柄みたい。樹皮が少し剥けている? 模様?」と説明を書き記した。


「観察できた? 高度上げるぞ」

「よろしく!」


 トッドがドラゴンの首の付け根の辺りをとんとんと優しく叩くと、ドラゴンは首を上げて、上空へと駆け上がっていく。


「魔法って、すごいのな! 重力がいつもと違う!」


 上機嫌なトッドをよそに、アーシュタはメモを落としてしまわないように必死に握りしめた。

 モノミの木よりも上を飛んだとき、もじゃもじゃとしたモノミの木の葉っぱと花が見えた。綿毛も少し混じっている。

 ドラゴンが動きを変えて、ゆっくりとした羽ばたきで滞空姿勢をとる。


「もうちょっと近づいた方が見やすい?」

「うん、ありがとう!」


 アーシュタは歓声をあげると、あわててメモにペンを走らせた。モノミの木の葉っぱの形、花の形、綿毛の様子のスケッチをざっくりと描く。

 ドラゴンの羽ばたきでこぼれ落ちた花を一つキャッチして、アーシュタはさらに歓声を上げた。


「え! こんな形なの!?」


 花が独特の形をしている。アーシュタは採取瓶を取り出して、花を中にしまうと、カバンに戻した。

 モノミの木のてっぺんで、綿毛がふわふわと風にそよいでいる。

 突然、びゅうと強い風が吹いた。アーシュタがゴーグルのなかで目を細めていると、パチンと弾ける音がして、風乗りの種が垂直に勢いよく飛び上がった。


「え!? 綿毛でふわふわ飛ぶんじゃなくて!?」


 驚くアーシュタをよそに、風乗りの種たちは次々と弾けて垂直に飛び上がっていく。綿毛はまだ開いていない。かわりに、シーリングファンのような形をした羽が、勢いよく回っている。

 アーシュタはメモを取る手を止めて、その風景を目に焼き付けた。

 風乗りの種が落下しはじめたとき、とうとう綿毛が開いた。風に乗って飛んでいた種たちがどんどん綿毛になっていく。まるで雲の上に出たような景色だ。


「わあー! すごい! きれい! どこに行くんだろう!」

「ちょっと追いかけてみようか?」

「うん!」


 風に乗って飛んでいく綿毛を追いかける。ゆっくりと飛んでいたドラゴンがくしゃみをした拍子に、綿毛がふわっと飛び上がった。

 眼下に広がっていた綿毛の隙間から、魔法植物園の温室が見えた。

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