第二話 竜騎士とドラゴン
上司から外出許可をもらったマンドラゴラさんを連れて、アーシュタは竜騎士たちのドラゴン厩舎に向かった。
以前マンドラゴラさんが植物園から脱走して以来、何度かドラゴン厩舎には遊びに来ている。
扉を開けると、アーシュタの足元でマンドラゴラさんがくるりとうれしそうに回った。
「こんにちはー」
「よう。来たな、マンドラゴラ」
すっかり顔馴染みになった竜騎士の青年・トッドは、マンドラゴラさんを見ると笑って手を上げた。マンドラゴラさんも頭の上の葉っぱをくるりと回して、あいさつをしている。
「ねえ、トッド。ちょっと頼みがあるんだけど。ドラゴンに乗せてもらうことって、できる?」
「別に構わないけど、なんで? 空中散歩とかだと、さすがに無理だぜ」
アーシュタはドラゴン厩舎の柵に寄りかかって、よし! と拳を固めた。足元のワラからいい香りが立ちのぼる。
「モノミの木の調査を、空からできたらなって」
「モノミの木?」
「見張り番のおじさんみたいな、背の高い木」
アーシュタの言葉にトッドは吹き出して、ひとしきり笑ったあと、グローブをはずして目尻をぬぐった。
植物園でミシェルも笑っていたが、涙がにじむほど面白いと思っていなかったアーシュタは、少しばつが悪そうな顔をした。見張り番のおじさんには、ちょっと申し訳ない。
これから先、トッドやミシェルが見張り番のおじさんとすれ違うたびに吹き出してしまったらどうしよう。
「そんなに笑わなくても」
「いや、めちゃくちゃわかりやすい。あの白くてでかい木ね」
「そうそう!」
トッドはグローブをつけると、胸元にかかっていたゴーグルを触った。ドラゴンに乗って飛ぶときには、ゴーグルをするのだそうだ。ドラゴンの羽ばたきは力強く、スピードも速い。あんまり風が強いと、まともに目が開けられないのだと以前トッドが教えてくれた。
アーシュタは自分がゴーグルをつけてドラゴンに乗っているところを想像して、にんまりとした。
「高さはどれくらいかなあ。あんまり高いと寒いし、息も吸いづらいぜ」
「わかった。あったかい格好する」
「あと、調査ってことは、滞空しなきゃだよな。そういうのが得意なドラゴンがいい」
「そっか。そうだよね。……トッド、頼りになるー!」
着々と準備を進めていくトッドにアーシュタが感嘆の声をあげると、彼は少しばかり照れて、グローブをつけたまま鼻の下をこすった。枯れ草の切れっ端がついた。
***
「あったかい格好、よし!」
ドラゴンに乗ってモノミの木を観察調査する計画は、順調に進んでいた。
アーシュタのここ最近の日課には、魔法植物園の外を歩いてモノミの木を見る行動が追加された。
そうこうするうち、トッドから準備ができたという連絡があった。アーシュタは冬用のあたたかい格好をして、いそいそとドラゴン厩舎に向かった。
「よう、アーシュタ。そこの二人用の鞍をつけてるドラゴンが、今日乗るドラゴンだ。あいさつして」
ドラゴンへのあいさつなんて、どうすればいいのだろう。アーシュタは戸惑いながらも「よろしくお願いします」とドラゴンに頭を下げた。
ドラゴンは長い首をアーシュタに向けて、ゆっくりとまばたきをした。
「今日は頼むな」
トッドがドラゴンの額をなでると、鱗に包まれた顔のなかの大きな目が、ゆっくりと細められた。
トッドにゴーグルを渡されたアーシュタは、わくわくしながらゴーグルをかけた。ずり落ちないようにベルトを調整して、顔を上げる。
普段見ているドラゴン厩舎の周りの景色が、ほんの少しだけせまく見えた。ドラゴンが飛ぶためだろう、厩舎の前は少し開けていて、原っぱがある。アーシュタはゴーグルをつけたまま、あちこちをながめて、少しせまくなった視界に慣れた。
「じゃあ、乗って」
トッドがひょいとドラゴンの背中に乗る。アーシュタはトッドの手を借りながら、おそるおそるドラゴンの背中をよじのぼって、鞍の上に座った。




