シーン8:ディアナの代償
評価会議は、短かった。
特別会議ではない。
処分会議でもない。
ただの「事後整理」だった。
資料には、ディアナの名前が淡々と並ぶ。
独断行動。
不要なログ再解釈。
判断手順の逸脱。
場の空気を乱した可能性。
「規定違反ではない」
その一文が、最初に確認される。
規定違反でない以上、処罰は発生しない。
停学もない。
降格もない。
まして追放など、議題にすら上がらない。
だが――評価は、別だ。
「不要だった」
主任教官が、感情のない声で言う。
「結果として被害はなかった」
「だからこそ、あの介入は余計だ」
別の教官が補足する。
「安全宣言後に、判断を揺らした」
「現場の統制を乱した可能性がある」
誰も、彼女が何を壊したかは口にしない。
誰も、王子がなぜ生きているかを問わない。
問える言葉が、存在しないからだ。
結論は、静かに決まる。
成績評価、引き下げ。
推薦ルート、対象外。
意見具申権、停止。
「今後は、後方配置を基本とする」
それは、追放ではない。
守られているとも言えない。
ただ――前に出る資格を失った、というだけだ。
ディアナは、何も言わない。
言い訳をすれば、意味が生まれる。
反論をすれば、正しさが立ち上がる。
彼女は、それをしない。
会議は、滞りなく終わる。
廊下に出た時、
誰かが小さく囁くのが聞こえた。
「勿体ないよね」
「あの成績で、推薦なしなんて」
別の声。
「でも、変なことしたのは事実だし」
「空気、読めてなかった」
ディアナは、歩く。
評価が落ちた。
立場を失った。
発言力もない。
だが――
命は、ここにある。
誰も彼女を処理しない。
誰も彼女を英雄にもしない。
世界は、彼女を負けさせた。
だからこそ、
彼女は生き残った。
勝たなかった。
正しさを証明しなかった。
世界を否定もしなかった。
ただ一つだけ、
前提を壊し、
その代償を、
自分一人で引き受けた。
それが、この世界で
最も静かな勝ち方だと、
彼女はもう知っていた。




