シーン7:暗殺側の撤退
暗殺側の管理室では、
誰も声を荒げなかった。
報告は簡潔だった。
「未遂として処理された」
「学園側は警戒段階に移行」
「公開観測密度、急上昇」
画面には、再構成されたログが並ぶ。
数値は新しくない。
配置も既知だ。
だが、もはや“事故処理用”ではなかった。
統括責任者は、しばらく黙っていた。
再現性――消失。
同条件を再度揃えることは可能だ。
だが、意味が変わった。
次に同じことをすれば、
それは「二度目」になる。
事故ではない。
偶然でもない。
明確な意図として、受け取られる。
観測担当が静かに言う。
「王子暗殺は……成立しません」
反論は出ない。
成功確率が下がったのではない。
成功した瞬間の“後処理”が、成立しなくなった。
統括責任者は短く結論を出す。
「中止だ」
その言葉に、感情はない。
続けて、別の話題に移る。
「ディアナは?」
一瞬、間が空く。
「排除対象ではあります」
「ですが――」
言葉を選ぶ。
「彼女は、もう“やった”後です」
世界に意味が残っている。
未遂という形で、痕跡が刻まれた。
ここで彼女を消せば、
それは答えになる。
なぜ未遂になったのか。
誰が構造を壊したのか。
問いが、一本に収束する。
統括責任者は理解している。
彼女は危険だ。
だが、今殺せば――
その危険性を、こちらが証明してしまう。
「見送る」
判断は、冷静だった。
「彼女は生き残る」
「評価は落ちる」
「立場も失う」
「だが、意味は残る」
それで十分だ。
世界は、彼女を英雄にしない。
だが、悪役としても完成させない。
ただ一人、
前提を壊した者として、そこに置く。
管理室の照明が落ちる。
計画は終わった。
誰も勝っていない。
ただ一つだけ、
確定したことがある。
――彼女は、もう無視できない。
そして同時に、
殺すほどでもない存在になった。
それが、この世界で
最も扱いにくい立場だと、
暗殺側はよく知っていた。




