シーン6:「事故」と言えなくなる瞬間
発砲の直後、
フィールドは一瞬だけ沈黙する。
停止命令は遅れなかった。
医療班も動いた。
観客席は騒がず、混乱も起きない。
被害は、ない。
その事実が、まず確認される。
そして次に――
ログが開かれる。
運営室。
教官席。
補助観測卓。
複数の画面に、同じ情報が並ぶ。
実弾反応――確認。
弾道軌跡――記録あり。
防護干渉――正常作動。
配置――規定通り。
主任教官は、言葉を探す。
「……事故だな」
そう言いかけて、止まる。
事故、と呼ぶには、
弾はあまりにも正確だった。
射線は集中している。
配置は再現されている。
条件は、揃っている。
偶然という言葉を差し込む余地が、ない。
誰かが補足する。
「被害が出ていません」
「防護は機能しています」
「規定違反は――ありません」
それらはすべて、事実だ。
だが同時に、
誰も否定できない事実も、そこにある。
――実弾が、意図された位置を通った。
空気が変わる。
事故であれば、
誰かのミスでなければならない。
装備不良。
判断ミス。
確認不足。
だが、どれも該当しない。
規定は守られている。
判断も正しい。
手順も完了している。
誰も悪くない。
それなのに、
「事故」と言えば嘘になる。
教官の一人が、低く言う。
「……これは」
言葉は続かない。
未遂。
その単語だけが、
誰の口にも出ないまま、共有される。
事故ではない。
だが、成功でもない。
意図は証明できない。
実行者も特定できない。
責任を負わせる先も、存在しない。
残るのは、処理の選択肢だけだ。
主任教官は理解する。
これは、制度が想定していない種類の事象だ。
だからこそ、
制度の外に追い出すしかない。
公式記録の見出しが、静かに決まる。
――「暗殺未遂の可能性」
断定ではない。
だが、事故ではない。
それ以上も、以下もない。
世界はここで、
一つの言葉を失う。
そして同時に、
一つの前提が壊れる。
実弾は、
もう「事故」としては、終われなくなった。




