シーン3:王子死亡条件の最終固定
王子ルッツは、指定された位置に立っていた。
そこは、何度も検証された地点。
過去の大会でも使用され、事故記録のない配置。
教本には「安定」と注釈が付き、
安全判定はすでに通過している。
正面は開けている。
左右の射線は、互いに干渉しない角度。
後方支援の位置も適切。
――少なくとも、数字の上では。
だが、ディアナには見えていた。
射線が、重なっている。
偶然のように、自然に。
誰かが意図したわけではなく、
誰かが選んだわけでもない。
ただ、配置がそうなっている。
実弾混入ライン。
過去に確認された誤差帯。
防護を抜け得る角度。
すべてが、そこに集約している。
それでも、どれ一つとして規定を外れていない。
教本通り。
前例あり。
説明可能。
安全判定は、すでに済んでいる。
ディアナは、一歩も動かない。
声も出さない。
視線だけが、王子と射線の交点を往復する。
ここから先は、事故ではない。
だが――
制度の言葉では、事故として処理できる。
偶然。
個別事案。
想定外。
誰も悪くない。
誰も間違っていない。
内心で、言葉が落ちる。
(この一発が)
(誰にも責任を持たれない)
王子は、何も知らない。
自分が「安全な位置」に立っていると信じている。
信じる理由は、十分すぎるほど与えられている。
世界は、すでに整っていた。
判断は終わり、
配置は完成し、
説明も用意されている。
あとは、引き金だけだ。
世界は、殺す準備を終えている。




