9/99
Ⅸ.恐怖の本質
ディアナは、最強だ。
それは、この世界において揺るがない事実だった。
数値上も、設定上も、演出上も。
誰もが認め、誰もが恐れ、誰もが頼ろうとする。
そして――
だから、死ぬ。
洋子は、ようやく理解した。
これは、戦術の失敗でも、
判断ミスでも、
運の悪さでもない。
構造の問題だ。
「ここは……
強い人から死ぬ世界だ」
声に出した瞬間、
恐怖の輪郭が、はっきりと浮かび上がる。
ヒロインは、正しい。
誰よりも真っ直ぐで、
誰よりも善意に忠実だ。
だから、死ぬ。
王子は、理想を語る。
世界を変える言葉を持ち、
皆を導こうとする。
だから、死ぬ。
そして、ディアナは――
強すぎる。
有能すぎる。
一人で戦況を支配できる。
だから、死ぬ。
この世界は、
「役割」を果たしすぎた存在を、
許容しない。
突出した力も、
突出した正しさも、
突出した理想も、
物語の均衡を壊す。
均衡を壊すものは、
事故として処理される。
その結論に至ったとき、
洋子の背筋を、
冷たいものがなぞった。
努力しても、
誠実でも、
有能でも、
それ自体が死因になる。
ここでは、
善悪も、強弱も、
生存条件ではない。
目立たないこと。
物語を前に進めないこと。
それだけが、
生き残るための、
唯一の戦術だった。




