第十二章 「勝たない悪役令嬢」 シーン1:完全に“正しい”舞台
フィールドは、完璧だった。
大会最終日。
観客席は満ち、貴族席には色とりどりの紋章が並び、軍関係者は無言で腕を組んでいる。
運営、教官、記録係、すべてが所定の位置に収まり、観測用魔導装置は淡く安定した光を放っていた。
安全判定――正常。
ログ取得――問題なし。
進行計画――遅延なし。
世界は、自分自身に満点を与えていた。
前章の事故は、すでに処理されている。
報告書は整い、原因は「個別事案」として切り分けられ、責任の所在は霧散した。
フランソワの死は「想定外」だったが、「制度上の瑕疵は確認されていない」という一文で封じられている。
再発防止策も、確かに存在していた。
配置の微調整。
距離基準の再設定。
確認工程の追加。
それらはすべて、「講じられていることになっている」。
誰もが納得していた。
誰もが前を向いていた。
そして誰も、立ち止まってはいなかった。
――だからこそ。
ディアナは、フィールドを一目見ただけで理解した。
足を止めることもなく、表情を変えることもなく。
ただ、胸の奥で静かに、答えが揃う。
(条件は揃っている)
配置。
射線。
風向き。
装備ライン。
(再現性も、残っている)
前回と同じではない。
だが、同じ結果に至るための要素は、過不足なく並べ直されている。
(実弾は――まだ、ある)
ログは黙っている。
数値は語らない。
安全判定は、完璧だ。
それでも、ディアナには分かっていた。
ここで何も起きなければ。
誰も間違えず、誰も責められず、誰も疑問を持たないまま。
世界は、“完成”する。
正しい制度が、
正しい手順で、
正しい犠牲を飲み込みながら。
静かに、次の一発を待つ世界が。




