シーン6:ディアナの二択 ― 初めて、逃げ場のない選択 ―
ディアナは、動かなかった。
いや、正確には――
動けなかった。
視界に入る配置。
射線。
人の位置。
すべてが、理解できる形で並んでいる。
選択肢は、二つしかなかった。
一つ目。
何もしない。
これまでと同じ。
今まで通り。
介入せず、
前に出ず、
説明もせず、
偶然を偶然として受け入れる。
そうすれば、王子は死ぬ。
原作通りに。
世界線は安定する。
制度は正しさを保つ。
暗殺側は満足する。
そして――
ディアナは生き残る。
排除対象にはならない。
ノイズではないままでいられる。
二つ目。
介入する。
一歩、前に出る。
射線をずらす。
判断を上書きする。
王子か、
あるいはフランソワか。
誰かを救える可能性は、確かにある。
だがその瞬間、
条件は破られる。
再現性は崩れ、
計算は狂い、
世界は説明不能になる。
暗殺側は理解する。
これは偶然ではない。
これは意思だ。
ディアナは、排除対象になる。
生き残る保証は、ない。
頭の中で、
冷たい計算が静かに回る。
生存確率。
リスク。
回避不能性。
どちらが合理的かは、
考えるまでもなかった。
だからこそ、
別の言葉が浮かぶ。
(正しくても、人は死ぬ)
それは、もう知っている。
条件を守った者が死んだ。
善意で動いた者が倒れた。
正しさは、盾にならなかった。
(なら)
(正しくなくても、いいのか)
その問いは、
今まで避け続けてきたものだった。
正しくない行為。
制度を壊す判断。
説明できない介入。
それは、生存戦略としては最悪だ。
ディアナは、初めて理解する。
これは誰かを救うかどうか、ではない。
これは――
自分が、生きることを選ぶかどうかだ。
自分の生存を、
誰かの死と引き換えに
確定させるかどうか。
内心で、言葉が途切れる。
(私は――)
その先が、
まだ言語にならない。
ただ一つ、確かなことがある。
今この瞬間、
ディアナは初めて、
「自分が生きる」という選択肢を
秤に載せている。
それは、
これまで一度も
本気で考えたことのない重さだった。
世界は、待ってくれない。
次の一瞬で、
どちらかが確定する。
逃げ場は、もうない。




