シーン5:王子の生存と確定未来 ― 生き残ったからこそ、次が来る ―
王子は、生きていた。
それは即座に確認され、
即座に共有され、
即座に安心として処理された。
担架は二つ、並ばない。
一つだけが、速やかに運ばれていく。
王子は立ったまま、
呆然と前を見ている。
自分の前に立っていた背中が、
もうそこにないことを、
まだ理解できていない。
教官が肩に手を置き、
短く声をかける。
「殿下、ご無事です」
それで、十分だった。
配置は変わらない。
一時中断はあったが、
フィールド全体の構造は維持される。
射線も、遮蔽物も、
実弾が混入した可能性のある装備ラインも。
「全面見直し」は行われない。
理由は単純だ。
王子が無事だから。
致命的な欠陥は、
表面化していない。
誰も、その場で否定できない。
暗殺側の観測は、
遠くで静かに続いている。
数値は揃っている。
想定通りに一人が倒れ、
本命は生き残った。
それは失敗ではない。
「犠牲は許容範囲」
「再現性は維持されている」
「計画は続行可能」
感情は、どこにも挟まらない。
ディアナは、理解していた。
フランソワの死は、
偶然ではない。
かといって、狙われたわけでもない。
必要だったのだ。
王子がこの位置に立ち続けるために。
世界が「まだ大丈夫だ」と判断するために。
内心で、言葉が組み上がる。
(これは、前払いだ)
(本命が生きるための)
(一時的な、調整)
視線の先で、
王子は深く息を吸い、
再び前を向く。
進もうとしている。
それが正しい行動だと、
誰もが知っているから。
ディアナだけが知っている。
このままなら、
次は事故ではない。
次は――再現だ。
(このままなら)
(次は王子だ)
フランソワの死は、
世界線を変えなかった。
ただ、揺れを消し、
流れを整え、
未来を一段、確定させただけだった。
世界は安定した。
だからこそ、
次が来る。




