シーン4:フランソワの犠牲 ― 条件遵守者の死 ―
発砲音は、ひとつだった。
特別な響きではない。
模擬戦の中で、何百回も聞いてきた音。
フランソワは、倒れなかった。
最初は。
王子の前に立った姿勢のまま、
わずかに体勢を崩し、
一歩、後ろへ下がった。
その動きが、
王子への直撃を避けさせた。
弾道は、計算通りに逸れ、
そして――防護を抜けた。
装備は規格内だった。
出力制限も正常。
防護も、仕様通り。
それでも、
一発は足りた。
フランソワは、膝をついた。
即死ではない。
叫び声もない。
ただ、呼吸が乱れ、
視線が定まらなくなる。
王子は無事だった。
それが、最初に確認される。
次に、教官の声が響く。
「訓練停止!」
即時。
迷いなし。
医療班が走る。
処置は迅速で、正確で、手慣れている。
その一連の動きの中で、
誰も声を荒げない。
誰も責めない。
言語化は、すぐに整えられる。
「想定外の事象」
「個別事故」
「現在、詳細を確認中」
フランソワは、担架に乗せられる。
意識はある。
だが、言葉は出ない。
彼は最後まで、
自分が何を間違えたのかを知らない。
間違えていないからだ。
ディアナは、動けなかった。
叫ばなかった。
駆け寄らなかった。
何も、していない。
それが、
この場で最も正しい振る舞いだと知っていた。
知っていたからこそ、
何もできなかった。
世界は、静かに処理を続ける。
王子は生きている。
護衛は役目を果たした。
制度上、
この出来事は「成功」に分類される。
原作通りだ。
一度だけ、世界は――
何の抵抗もなく、
何の修正もなく、
完全に“成功”した。
正しい配置。
正しい判断。
正しい犠牲。
そしてその中心で、
ディアナは理解する。
条件をすべて守った人間が、
最初に死ぬ。
それが、この世界の
最も再現性の高い結末なのだと。




