シーン3:フランソワの動き ― 正しい人間が、正しい行動を取る ―
フランソワは、前に出た。
迷いはなかった。
判断は一瞬。
教本に書かれている通りの動きだった。
王子の射線が、わずかに集中している。
支援が薄くなる可能性がある。
ならば、補う。
それだけの理由だ。
規定上、問題はない。
彼の装備は標準。
魔力ログも安定。
過去の評価も、常に良好。
「護衛役として最適」
そう分類されてきた人間が、
期待された通りの位置に移動しただけだった。
フランソワ自身は、
それを特別な行為だと思っていない。
王子を守る。
仲間を守る。
それが、自分の役割だと信じている。
善意しかない。
計算も、下心もない。
だからこそ、
彼の動きは、世界にとって扱いやすい。
ディアナは、それを見てしまった。
ほんの数歩。
射線の端から、中心へ。
王子と同じ「結果の範囲」に入る動き。
(彼が行けば)
ディアナの思考は、そこで止まらない。
(王子は、一瞬、生き延びる)
フランソワの体が、
盾になる位置に入る。
実弾が逸れれば、
最初に触れるのは彼だ。
(代わりに――)
言葉にする必要はなかった。
結論は、すでに確定している。
原作では、ここでフランソワが死ぬ。
英雄的な死ではない。
叫びも、演出もない。
「庇った結果、致命傷を負った」
そう一行で処理される死だ。
制度は、それを評価しない。
だが、否定もしない。
正しい判断。
正しい行動。
正しい犠牲。
ディアナの胸の奥で、
これまで揺らがなかった前提が、軋んだ。
正しく動く人間ほど、
世界の“結果”を引き受けてしまう。
フランソワは、
何も間違えていない。
だからこそ、
彼はここに立っている。
そして世界は、
その正しさを、
何の躊躇もなく利用しようとしていた。




