シーン2:王子死亡条件の再現 ― 条件は偶然を装って完成する ―
王子ルッツは、前に出ていた。
自ら志願したわけではない。
配置として、そこが空いていただけだ。
前線と後衛の境目。
支援が届き、かつ全体を見渡せる位置。
評価上も、政治的にも「正しい」場所。
誰かがそこに立たなければならなかった。
そして、その役割は自然に王子に回ってきた。
射線が、集まり始める。
意図されたものではない。
敵味方の移動に伴う、自然な集中。
複数の角度から、細く、重なる線。
その中心に、ルッツはいる。
実弾が混入した装備ラインと、
その射線が交差していることを、
誰も意識していない。
数値上、問題はない。
重量も、反応も、許容誤差内。
混入は、依然として「存在しない」扱いだ。
制度は、沈黙している。
教官の指示は妥当。
配置変更も合理的。
判断はすべて、規定の内側にある。
危険を示す言葉は使われない。
使う必要がないからだ。
ディアナは、動かなかった。
動けなかった、ではない。
動いても、意味がないと理解していた。
(もう、避ける位置じゃない)
ルッツは、条件の外にいない。
かといって、条件を踏み越えてもいない。
ちょうど、そこに収まっている。
(次に起きるのは、事故じゃない)
偶然を名乗るには、
揃いすぎている。
再現を否定するには、
配置が正確すぎる。
ディアナの中で、言葉にならない確信が形を持つ。
王子は、選ばれていない。
狙われてもいない。
ただ、結果が発生する位置にいる。
世界は、誰にも強制されず、
誰の意思も介さず、
予定通りに進もうとしていた。
王子ルッツの死は、
決断でも、犠牲でもない。
条件が完成したとき、
自然に現れる“結果”として、
すでに輪郭を持ち始めていた。




