第十一章 「最悪の世界線」 シーン1:最終局面の空気 ― 世界が“正しい方向”に動き出す ―
大会は、静かに終盤へ向かっていた。
フィールド全体に緊張はない。
むしろ、秩序が完成しつつある空気があった。
教官は前に出ない。
運営の指示も、必要最小限に抑えられている。
それぞれの持ち場に立ち、必要な時だけ目を動かす。
介入は、もう役目を終えたという態度だった。
観測ログは安定している。
魔力推移は滑らかで、突出はない。
装備の反応も、想定値の範囲内に収まっている。
危険指標は、存在しなかった。
ディアナは、後方からフィールド全体を見渡した。
一目だった。
確認する必要すらなかった。
(揃っている)
配置。
距離。
射線。
人の立ち位置。
それらが、無駄なく噛み合っている。
(原作通りの配置だ)
頭の中で、過去に何度も読んだ図が重なる。
線と点で描かれた、あの場面。
偶然を装って成立する、完成形。
(この並びは、知っている)
ここでは、何も起きない。
少なくとも、今は。
誰も騒がない。
誰も疑わない。
誰も止めない。
正しく配置され、正しく管理され、正しく進行している。
だからこそ、ディアナは理解してしまった。
これは平穏ではない。
安全でもない。
「何も起きていない」という状態が、
すでに一つの結論に到達していることを。
世界は、正しい方向に動き出していた。
そしてその正しさが、
これから起きることを、
誰の責任にもならない形で許可している。
ディアナは、目を逸らさなかった。
逸らしたところで、
配置は変わらないことを知っていたからだ。
静かなフィールドの中で、
最悪の兆候だけが、
完璧に整っていた。




