シーン4:初めての説明 ― 世界の構造を渡す言葉 ―
ディアナは、声を落とした。
周囲に聞かせないためではない。
この話題に、強い音量が不要だと知っているからだ。
「まず、装備の話からするね」
説明は、唐突だった。
前置きも、覚悟を問う言葉もない。
「学園の装備は、平均値で作られてる。
平均的な魔力量。平均的な制御。平均的な反応速度」
淡々とした口調。
事実を並べるだけの声音。
「だから、数値が基準内なら“安全”って判断される。
それ自体は、間違ってない」
リリアは黙って聞いている。
否定も、同意も挟まない。
ディアナは続ける。
「でもね。
魔力には、量と制御以外に“質”がある」
「これは、ほとんど管理されてない。
測りにくいし、日によって変わるし、感情に引っ張られる」
一瞬だけ、視線がリリアの装備に落ちる。
名指しはしない。
「数値が安全でも、
現象が安全とは限らない」
その言葉は、冷たいほど平坦だった。
「だから、事故は起きる。
誰かが怠けたからでも、
判断を間違えたからでもない」
少し間を置いて、続ける。
「全員が正しくやっていても、起きる」
リリアの指先が、わずかに動いた。
ディアナは、そこを逃さない。
だが、踏み込まない。
「“大丈夫かどうか”は、判断される」
「でも、“守られるかどうか”は、別」
視線が重なる。
「正しくやっても」
「条件を守っても」
一拍。
「死ぬ時は、死ぬ」
言い切りだった。
慰めも、逃げ道も付けない。
沈黙が落ちる。
リリアは、すぐには何も言わなかった。
理解したとは言えない。
納得など、なおさらだ。
ただ。
世界が、自分を特別扱いしないこと。
善意や正しさが、安全と直結しないこと。
そして――
自分が、決して安全圏にいないこと。
その三つだけは、確実に届いていた。
ディアナは、それ以上を与えない。
結論も、指示も、行動指針も言わない。
これは救いではない。
希望でもない。
未来を「選べなくする」ための説明だ。
知らなかったから踏み出せた場所に、
もう、同じ足取りでは立てなくなる。
ディアナは、それを分かった上で、言葉を渡した。
これでリリアは、
制度の内側に戻ることも、
無垢なまま前に出ることもできない。
沈黙の中で、
世界の構造だけが、二人の間に残っていた。




