シーン3:ディアナの逡巡 ― 破った瞬間、戻れない ―
通路の空気が、わずかに張りつめる。
ディアナは、まだ続けていない。
だが、もう引き返せない位置に立っていることだけは、はっきりと分かっていた。
説明すれば、どうなるか。
リリアは「守られる側」ではなくなる。
知らなかったから許されていた判断を、
知った上で選ばなければならなくなる。
迷いも、不安も、責任も、
すべて自分のものとして背負うことになる。
それは、救済ではない。
むしろ、制度が肩代わりしていた重さを、そのまま渡す行為だ。
――重い。
だが、説明しなければ。
リリアは制度を信じたまま前に出る。
配置は再現され、条件は揃い、
そして――また「誰か」が壊れる。
それが彼女でなくても、
次は、別の誰かだ。
代替可能な犠牲。
制度が最も得意とする処理。
ディアナの思考は、異様なほど短く、圧縮されていた。
(言えば、戻れない)
(言わなければ、繰り返される)
選択肢は二つ。
どちらも安全ではない。
だが、片方だけが、
未来を固定しない。
ディアナは、理解していた。
これは「守る」選択ではない。
盾になることでも、前に立つことでもない。
――こちら側に引き込む選択だ。
知らずに撃たれる側ではなく、
知った上で、立つ側へ。
ディアナは、静かに決めた。
(ここで言わなければ)
(次は、この子だ)
ほんの一瞬、ためらいが消える。
感情ではない。
計算でもない。
それは、これまで避け続けてきた行為――
選ぶことそのものだった。
ディアナは口を開く。
条件を破ったことを、
自覚したまま。




