第十章 「初めての説明」 シーン1:再配置される危険 ― 条件は、静かに揃い直される ―
大会は中盤に差しかかっていた。
前章の事故を受け、運営側は即座に「対応」を行った。
教官の配置はわずかに調整され、視線の重なり方が変わる。
交戦距離は再設定され、危険域とされる範囲は数値上、後退した。
記録装置には新しい基準が上書きされ、場内放送では安全確認が繰り返される。
すべては適切だった。
すべては規定通りだった。
ただし――
条件は、一つも失われていない。
リリアは支援寄りの配置に回されていた。
前線から半歩下がり、射線の交差点から外れた位置。
教官の意図は明確で、「配慮された判断」と呼ぶにふさわしい。
魔力ログは安定している。
補正値も許容範囲内。
数値だけを見れば、危険は存在しない。
ディアナは、その数値を一瞥しただけで視線を切った。
見るべきものは、そこではない。
リリアの魔力は揺れている。
乱高下ではない。暴走でもない。
装備と魔力の噛み合いが、わずかに、しかし持続的にずれている。
補正が追い、追いつき、また遅れる。
均衡は保たれているが、余裕がない。
その状態が、続いている。
ディアナは理解する。
――また、近づいている。
事故条件に。
制度が「想定しないが、否定もできない」地点に。
前回と、同じ配置。
同じ視界密度。
同じ魔力の質感。
だが、決定的に違う点が一つあった。
前回は、
踏み込んだ後に、逸れた。
今回は、
逸れる前に、踏み込もうとしている。
ディアナの視線は、戦場全体をなぞる。
射線の収束点。
支援範囲の重なり。
教官の注意が薄くなる時間帯。
すべてが、あの位置に集まりつつある。
内心で、短い確認が重なる。
(同じ配置だ)
(同じ空気だ)
(次は、避けられない)
胸の奥が、静かに冷えた。
これは偶然ではない。
不運でも、特異点でもない。
条件が揃えば、
同じ結果は、同じように現れる。
危険は排除されていない。
再配置されただけだ。
世界は、正しく修正された。
そして正しく――
同じ場所へ戻ってきていた。




