シーン4:ディアナの内面動揺
ディアナは、フィールドの端で立ち止まっていた。
表情は変わらない。
呼吸も乱れていない。
報告を求められれば、いつも通りの短い言葉で応じられる状態だった。
外から見れば、何一つ問題はない。
――だが、内側だけが、静かに崩れていた。
介入できなかった、という感覚ではない。
それは以前から知っていた。
介入すべきでない場面。
介入すれば、より多くを壊す瞬間。
それを見極め、何もしない選択を重ねてきた。
判断は正しかった。
今も、それは揺らいでいない。
それでも――
「守れない」
という事実だけが、初めて、明確な形を持って胸に残った。
条件はすべて満たされていた。
規定を守り、指示に従い、余計な行動は取らず、
突出も、遅れもなかった。
その上で、死が発生した。
偶然。
個別事故。
想定外。
どの言葉も、制度としては正しい。
反論の余地はない。
だが、だからこそ逃げ場がなかった。
「自分が正しくても、人は死ぬ」
その認識が、理屈ではなく、現実として落ちてくる。
これまでの戦術――
勝たない。
目立たない。
正しくならない。
それは、生き残るための最適解だった。
世界に処理されないための、唯一の立ち位置だった。
だが、それは
「誰も死なせない」戦術ではない。
初めて、その限界を理解する。
理解してしまったから、
もう知らなかった頃には戻れない。
ディアナは、拳を握らない。
歯を食いしばらない。
感情を表に出す動作は、何一つしない。
ただ、ひとつだけ確かなことがあった。
この世界は、
正しさを守る者に、何も約束していない。
その事実が、
彼女の内側で、音もなく定着していった。




